92:奪い合いはダメだね
不幸中の幸いだったのが……湯気で視界が万全でないこと。更に全員が温泉の端へと散らばったこと。
これで俺もある程度は欠片探しに集中できる。というワケで、温泉の端っこから中央に向かって探していくことにした。
「しかし、うまい具合に岩の壁が出来るモンだなあ」
岩垣が湯船の外周を形成している……というより、「岩間から噴き出した湯が、周囲の岩を蹴散らして隅に追いやった」が正確かも知れないな。まあとにかく、土とかが流れ込んで汚らしい感じになってないなら何よりだけど。
「金色の光が~~底に無いか目を凝らしてね~~」
「分かってるんだよ~~」
「了解よ~~」
母娘もフィニスと同じく語尾が伸びてるのが、ちょっと面白い。俺の方も了解を返して、その後は集中して温泉の底へと目を凝らす。湯自体は透明で、深さも俺の太ももくらいまでしかない。金色の光なんて場違いな物があれば、恐らく見落とさないだろう。
「……」
水底を慎重に見つめながら、ゆっくりゆっくりと中央へ進んで行く。無いな。こっちの方は外れか? 俺自身が見つけられたら、商品の件は有耶無耶に出来るんだけど。他の誰かに取られたら……その相手と同じベッドで眠ることになるんだよな。
「暴発だけで済めば御の字ってとこか」
無理矢理は絶対ダメだけども。相手が寝てる間に、こっそり体に擦り付けるくらいの過ちは有り得るんよな。キスしたり、おっぱい揉んだり、ダイブしたりは許されてしまってる現状。言い方悪いけど、徐々に調子乗ってきてるのを自分でも自覚してるし。ちょっと擦らせてもらうのも延長線上で許されるでしょう、みたいな。
「いやあ、いかんいかん」
倫理的にもダメだし、スティックを見られる危険もある。やっぱり回避すべきだ。
添い寝しても俺が性欲をコントロール出来れば、それが一番良いんだけど……まあ無理筋だよな。
って。ん? あの光は……
「アレか?」
少し先に、小さな光が見えた。太陽の光を受けて、キラキラとしている。水中からの反射光だし、湯気も立ってるしで、それが金色だと断言はしにくいんだけど。色合い的にはそれに近いように思える。
ジャブジャブと音を立てて近寄っていく……その途中で。
「あ!」
「あった~~」
「見つけたわ!」
左右から女性陣も爆乳を揺らしながら、駆け寄ってくる。プールの中でウォーキングしてる人の隣レーンで泳ぐような、強い波の抵抗を感じる。そして、みんなやはり、あの光を目指してるようだ。ヤバい。競り負ける。
「く」
歯を食いしばって、波を押し返しながら進む。あと数十センチ。イケるか。
上体を倒しながら手を伸ばす。が、突然視界の横から白い餅みたいな塊が現れ、
――ぼにょん
顔が完全にめり込んでしまう。お乳だ、とは気付いたが、誰のものかも分からない。
「きゃ」
シェレンさんだった。そして俺の手は空を切り、彼女はバランスを崩し。
「獲ったんだよ!」
と、高らかに宣言するポーラだったが、横倒しになった俺たちと激突してしまい、
「うわ~~!」
断末魔みたいな悲鳴を残してドミノ倒しに巻き込まれた。
「ひゃ~~!」
フィニスも巻き込んだっぽい。
俺の方は視界が水面へ移行し、顔からダイブしていく。咄嗟に彼女たちの衝撃を和らげようと、両手で誰かの体を掴んだ。感触的に、お尻と腰か? とにかく転倒の勢いを少しは殺せたと思う。そして、そのまま。
――ダパーン!!
湯船に顔から突っ込んだ。鼻に水が入る。慌てて浮上。
「かはっ! げほっ!」
顔を上げると、デジャブのような光景が広がっていた。宙を舞う金色の欠片。キレイな放物線を描いて……湯を越えて地面へと落ちる。転々としたところを、
――パクリ
鹿がキャッチしていた。
それと同時くらいに、他の3人も起き上がり、
「ぷはっ!?」
「イタタ~~」
「みんな無事?」
声を掛け合いながらも、周囲を見回し……自分たちが追っていた欠片が、鹿さんの口に収まっているのを発見した模様。
――フィー!
最後に1つ鳴いて、鹿は近くの岩の上へ欠片を置いて去って行った。ケガをしていた個体もゆっくり立ち上がり、ヨタヨタとついていく。
「「「「……」」」」
欠片争奪戦の勝者は……放屁鹿でした。
………………
…………
……
まあ、骨折り損の感はあったけど。取り敢えずは2個目の欠片ゲットということで。
「順調なんだよ」
「それじゃあ帰りましょうか」
プルプルのおっぱいを揺らしながら、母娘2人が岸へと向かっていく。ズロースも当然ズブ濡れなので、ピッチリとお尻のお肉が浮き出ていて大変エロい。
「あ、待って~~」
と。フィニスも歩き出したところで、急に膝がカクンと落ちた。慌てて後ろから支える。思いっきり乳房を鷲掴んでしまって、「ぬおっ!」ってなったが、理性の力で抑えつける。今はそれどころじゃない。
「大丈夫か!?」
「ありがと~~足挫いてたみたい~~」
っとと。完全に俺にもたれかかってしまうフィニス。いや、そんな場合じゃないのは頭では分かってるけど、こんな肉厚な体を押し付けられるとね?
そして。後ろ向きだと怖いのか、フィニスは片足を浮かせながら反転して、正面から抱き着いてきた。裸の胸同士が触れ合う。いやいや、なにこれ。マジで。え? 人肌のビーズクッション? 大きな餅?
ブニュウと押し付けられると、乳肉がはみ出してきて、腹の辺りまで柔らかな感触が広がった。ぽっちも当然、俺の胸元で擦れている。
「……っ! ……っ!?」
とんでもない物量に、声にならない声を上げる。股間の相棒が一瞬でバキバキになった。
これはマズイ。ノーハンドもありえる。
だが、そこで。
「あれ? 2人が遅れてるんだよ」
「あら、どうしたのかしら」
母娘が、立ち止まってる俺たちに気付いて戻ってきてくれた。
良かった。フィニスを運んでもらえる。
……そんなことを考えていた時期が俺にもありました。




