313:卵焼きが美味かった
あの後、3人を連れて妖精郷へと戻り、苔のベッドに寝かせた。そして、農園周りの安全が確保されたので、非戦闘員も連れて舞い戻り、卵や野菜などの生鮮食品も回収してきた。保存の効く干し肉とかは既に大量に運び込んであるが、日持ちしないこっちから食べていかないとね。
「さあ、それじゃあ今日は砂糖卵焼きよ」
「わーいなんだよ! アレ、甘くて大好きなんだよ!」
出たな。俺の味覚と相容れないヤツ。気は進まないけど、正直に申し上げよう。全部終わって、みんなで住むことになった時、ずっと我慢し続けるのはしんどいからね。
「あの、シェレ」
「アキラも甘くて美味しい卵焼きを沢山食べて、頑張ってちょうだいね」
可愛らしく微笑まれ、
「あ……はい。ありがとうございます」
言えなかったよね……
ま、まあ。今後もチャンスはあるから。今は緊急時だし、食事の味付けどうのこうの言ってる場合じゃないから。と、自分に言い聞かせておく。
その後、女性陣の調理を待って、全員で「いただきます」をした。
「……あむ」
そして一口頬張ったのだが……意外にも醤油も結構効いてて、やや甘口の卵焼きくらいで済んでいる。ていうか、普通に美味しい。目をパチクリしていると、シェレンさんが「ふふ」と上品に笑った。
「アキラ、あまり砂糖のビンからつまみ食いしないでしょう? それで、甘すぎるのは好きじゃないのかなって思ったのよ」
ポーラとかは時々指を突っ込んでペロッとしてるけど、確かに俺はしない。そんな細かいところまで見てくれてたんだな。
「アナタの分だけ、醤油を多めにして味を調整してるのよ」
心があったかくなって、愛おしさが溢れて、俺はそっと彼女を抱き締める。キスを何度もして、そっと体を離した。
「あー。お母さんとアキラがキスしてるんだよ!」
「あーしもさっき手伝ったんだから、してくれよ」
「そ、それを言うなら……ウチもっす」
みんなにバレてしまった。しかしクローチェも少しだけ輪に入って来れるようになったな。ニチカと打ち解けたのが大きいみたいだ。
「ほらほら、先にご飯を食べてしまおう。冷めてしまうよ。行儀も悪いし」
モブ島民Aが割って入ってくる。キスとか関係ない彼女たちからしたら、飯の途中で待たされるだけだもんな。
……もしかしてモブ女性ともキスするイベントとかあるのかも知れないけど、少なくとも今日中には掘り当てられそうにはないよね。
食事を終えると、続いては我が家の解放戦だ。まあその前に、先程の流れからヒロイン全員とキスすることになったのは……役得と言って良いのか、呑気と評すべきか。
少しの食休みを経て、さっきと同じ面子で再び転移。我が家へと速やかに移動すると、今度も3人の見張りを見つける。
「あれ以上は居ない?」
「居ないっす。どの家も3人体制なのかも知れないっすね」
正直、我が家はもう少し厳重に警備されてると思ったけど、他と変わらないのか。
「また背中向けてくれてるね」
「思ったんだけどよ。向こうに攻撃の意図が有る無しに関わらず、一気に近づいて背中側から制圧するのが一番だろ」
そうだよなあ。ここまでの2回は、どうしても先制攻撃的なムーブは気が引けたんだけど。こうなってくると有無を言わさず無力化するのが、結局は双方にとってダメージが少ないようだ。
……まだ眠ってる農園前に居た3人衆。彼女たちもまた、ニチカにケガを負わせる寸前だった。その精神ダメージたるや……起きた時は、丁寧なケアがきっと必要だろう。
「そうっすね。ウチらの安全もっすけど……」
「正直、背後から取り押さえられて少々ケガしたって、仲間に刃を向ける精神ダメージより全然マシだよね」
というワケで、ニチカの案を採用。
全力で疾駆し、光筒を1人に当てる。その俺の横を抜け、2人も背後からモブ女性たちに飛びつき、竹槍を取り上げてしまう。
「ナイス!」
倒れ込んでくる女性を、後頭部だけ打たないようにして地面に転がし、
「っ!」
ニチカとクローチェが無力化している2人の背中へと照射する。数秒でズルリと落ちてくるダークスライムの亡骸。
「ふう」
「やっぱ、こっちのが良さそうっす」
「だな。ハス貸しの家もこの戦法でいこうぜ」
異議ナシだね。
話がまとまったところで、俺たちは我が家の裏手へ。そこに置いてある残材を回収しておく。ありがたいことに完全に無傷だった。布態体といった臭い物品や、聖樹様関連の素材もあるし、手を付けにくかったんだろうか。
「まあ実際のところ、粗チン砲の素材とは関係ないしね」
仮に盗られたり壊されたりしてても、対畠山という観点からは問題無かったんだよね。もちろん、今後の島の生活では役立つだろうから、残っててくれたのは嬉しいけど。
「家の中は、大丈夫っすか?」
クローチェが窓の方を見る。残念ながら片方割られてしまっていた。
「……入ってみよう」
玄関へと回り、中へ。ガラスの破片がリビングに落ちているけど、それだけのようだ。他に荒らされた形跡などは無く、ホッと胸を撫で下ろす。と、同時に。
「あの布の束は何っすか?」
うん。エロ下着も無事なのを確認したよね。
「あー、うん。アレも一応持って帰るよ」
一応っていうか、うん。まあね。あと8回も写生しなきゃいけないし、そういう補助があっても良いかなって。
ということで。下着を全回収し、モブ女性3人も連れて、またまた妖精郷へ帰還。そのまま3人を苔ベッドに寝かせると、トンボ返りしてハス貸しの家も解放。家主本人を連れて行き、素材用のネバリハスを数本回収してもらう。
ここまで非常に良い感じにトントン拍子で進んでくれた。




