31:ゲームクリアと全滅の話
改めて武器について考えてみるが……やっぱ打撃系かなあ。バットとかは振ったことあるし、あるいはハンマーなんかもアリか?
『うーん。シャベルなんて、どうだい?』
(シャベル?)
武器っぽくないけど。その心は?
『ハンマーって慣れないと意外に振り回されるんだよ。その点、シャベルは先端も軽いからね。それに刺す、叩くの2パターン使えるし』
なるほど。
『あと、午前中に使いまくってたからね。体が慣れてるでしょ』
ああ、それは確かにデカイ。
(けど強度がなあ)
シャベルって当然だけど、金属部が薄っぺらいんだよね。戦闘に耐えられるか問題。
『一度、レシピを見て判断してみたら?』
(うーん。出るかねえ)
半信半疑ながら、レシピ帳を見やると、再び虹色に輝きながら浮かび始めた。メッチャ働くな、キミ。
「っとと」
終わったらしく降ってきた。片手でキャッチ。
====================
No.4
<魔法のシャベル>
組成:聖樹の枯れ枝×ゲンブ鋼石×溶岩石×フワリ鳥の羽根
内容:最上級品質のシャベル。羽のように軽いのに、硬度も抜群。更には、聖なる加護が疲れを癒し、ガンガン掘れてしまう逸品。
====================
これは……かなり良いアイテムっぽいな。「硬度抜群」とあるから、武器としてはもちろん……道路舗装の時にも絶対役に立つだろうし。
(これ、先に作るわ)
『それが良いかもね。私も暇だからついて行くよ』
今日は誰も同行人は居ないしな。アティとかに頼めば来てはくれるだろうけど、午前午後の両方は申し訳ない。
『まずは……場所も分かってる溶岩石かな』
だな。レンガの錬成にも要るし、大量に持って帰ろう。リュックか手提げカバンも欲しいなあ。
俺は中ぶりの甕を抱えて、地図を片手に……いざ素材集めの旅に出発するのだった。
溶岩石はすんなり手に入り、帰路につく。石がゴロゴロ転がってる付近に、ウネウネと動く擬態石(あのエロナマコだ)も見つけたが、俺には全く興味を示さなかったよね。やっぱアレは女の子相手にしか反応しないようだ。
『つまり裸が見たい女の子を連れて来れば……』
(それは人としてやっちゃダメでしょ)
一瞬、俺も考えたけどさ。
『で? 次はどこ行く?』
(フワリ鳥は……よく分かんないから)
後回しにするか。というワケで、ゲンブ鋼石だな。名前の通り、ゲンブ岩石地帯にあるんだろう。
初めて行く場所にソロは危ない気もするが。まあ石だけだし、大丈夫だよね。
『その能天気な判断が、後に悲劇をもたらすことになるだが……この時のアキラはまだ知る由もないのだった』
イヤなナレーションをつけるな。怖くなるだろうが。
『でも実際、アキラって楽観的だよね』
(……悲観してても、2週間はあっという間に過ぎるからな)
それにウジウジとシェレンさん宅のニートを続けててもな。
(まあ今のところ、ガチでヤバそうなモンスターに当たってないからってのも、あるだろうな)
てか、そこまでヤバいのは居ないよな? 萌えエロゲなんだし、スプラッタとかは起こらんでしょ……多分。という前提から、割と大胆に行動している。
『まあ強敵が出てくるにしても、物語終盤だろうね。シナリオが歪んでなければ』
その要素は、ちょっと怖いんだけどね。
ていうか、よう考えたら……
(これクリアとかあんの?)
『知らない』
マジかよ。知らないことが多すぎないか。女神なのに。
けど、ゲームである以上、クリアって概念は存在するんじゃないか。もしそれに至れば、俺はこの世界に居られなくなるのか?
『いやあ、それはないと思うよ。多分、攻略ヒロイン全員とセックスすれば全クリなんだろうけど……その後は語られない後日譚が続くだけじゃない?』
(信じて良いのか?)
『ゲーム世界に転生させた人が、クリア後に外に出たとか、ゲーム世界自体の存在が消えてなくなったってのは聞いたことがないよ』
まあそういうことなら安心だ。
……脱線しすぎたな。それじゃあ気を取り直して出発だ。
『まずは普通に北を目指すか』
家のある丘から、少し北上すると例の巨木「聖樹様」が聳え立っている。位置関係上、帰路で聖樹の枯れ枝を拾うとスムーズだな。
サクサクと歩いていく。木立の間に通る小道。今更だけど空気が美味しい。思えばずっと誰かと一緒だったから、自然を楽しむ暇もなかったが。
『そういえば、意外と歩き慣れてるよね。現地民に置いて行かれてないし』
チョキザップの成果……だけではない。たまにキャンプや登山に行ったりしてたからね。
『ああ、元々アウトドア派だったのか』
あとはまあ、男女の体力差、体格差もあるよね。歩幅からして、彼女たちより大きいワケだし。
(っと。近付いてきたね)
聖樹だ。近くで見ると、マジでバカデカいな。何十メートルあるんだ?
『枯れ枝なんて落ちてるのかね?』
という女神さんの懸念は杞憂で。
近づくにつれ、幹の根元にポロポロと枝や葉が落ちているのが見えた。瘦せ細った枝と、茶色くなった落ち葉。思わず立ち止まって樹を見上げる。遠目には壮健に見えたが、内側の葉は金色から茶色に変色している物も目立つ。
「ここだけ秋ってことはないだろうに」
当然、今まで歩いて来た道と同じく、カラッとした夏の空気が漂っている。まあ大木の枝葉で太陽が遮られてるから、体感は少し涼しいけどね。
『元気がないね……流石に完全に枯れはしないだろうけど』
(この樹が枯れたら……この島、絶滅じゃね?)
どういった原理かは完全に不明だけど、この樹が女性に新たな生命を宿すことで、この島の人口は保たれてきているという話だからな。
『キミが孕ませれば良いじゃん』
生々しい話を……
まあ仮にそういう機会に恵まれたとしても、男の子が産まれない限り、滅びを遅らせるだけだよ。それとも性行為での妊娠なら男児も出来るのかね。
いずれにせよ、俺が誰かと結ばれるかどうかも未知数な状況。この樹にはまだまだ頑張ってもらわないと。
そんなことを思いながら。太い幹の周りをグルリと回って北へ抜けようとした、その時だった。
「え?」
突如現れた、注連縄で四角に区切られたエリア。
その中央に金色の石が鎮座していた。