305:洞窟組とも合流
シャツを脱いでもらったり着てもらったり忙しいけど、再び妖精郷へ。そしてそのまま、セイリュウ2層に繋がる青い石の前まで歩いて行く。
「それで、誰が行くんだい? 安全を考えると、非戦闘員は……」
言いかけて、ハス貸しの言葉が詰まる。この場に居るのは、そもそもほぼ非戦闘員なんだよなあ。彼女の理論でいくなら、クローチェ以外は連れて行っても足手まといの可能性が。
「それではワタクシも行きますわ。いざとなれば、責任を果たして肉壁くらいにはなりますもの」
ロスマリーなりに責任を感じてるみたいだ。いや、異世界のエロゲーマーが祖母に憑依してくる事態なんて、彼女にどうにか出来ることじゃないけどね。
ただ実際、向こう陣営と交渉になった時には有用な人材だろうし、連れて行くのはアリか。
「そもそも、もう戦闘は終わってる可能性の方が高いんじゃない? 龍魚サンだったかしら? 相当強いのでしょう?」
「そうですね。敵わないとみて撤退してる可能性の方が高そうです」
というか、そもそも操られてる島民たちも、そんな洞窟の奥まで追って来ていないんじゃないか、とも。本人の意思を丸きり無視した行動を取らせるのは難しいという話だし、あの寒さの中を行軍させられるかどうか。
そういった(やや希望的)観測もシェアすると、みんなホッとした表情をする。
「それじゃあ、行ってくるよ。みんなは離れてて」
そうして、俺とクローチェ、ロスマリーの3人でセイリュウ2層へと乗り込んだ。
………………
…………
……
転移してすぐに俺は起き上がる。そして2人を押しのけるようにして前に出て、周囲をクリアリング。人の気配も姿もナシ。背後も振り返る。例の3層への入口は今は固く閉ざされている様子だ。
以前に来た時は開けっ放しで放置してしまったハズだが……スイッチを再度押さなくても、しばらく時間が経つと勝手に閉まる系のギミックみたいだな。
「ふう」
とにかく、島民の追っ手も3層側からの強敵(貯冷の鎧)も居ないようで一安心。
「大丈夫みたいっすね」
「まだ油断は出来ませんけど」
同行の2人も、周囲を隈なく観察しながら。
「しかし、セイリュウの海蝕洞窟はこんな感じなんですのね」
「だいぶ寒いっす」
慣れない2人は、半袖から出ている腕を互い違いの手でさすって温めている。
「色々と説明したいところだけど、今はニチカたちとの合流を優先させてもらうよ」
ここら辺の話も、何もかも終わった時には共有できるだろうし。
俺は2人の前を歩いて、釣り堀部屋の出口へと向かった。通路へ顔を出し、周囲を窺うが。
「誰も居なさそうっすね」
こちらも近くに気配ナシ。やはり既に島民たちは引き上げた後なのかね。となると、ニチカたちは籠城戦勝利ということだろうか。まさか捕らえられているってことは無いと思うけど……無事を確認するまでは安心できない。
「急ごう」
俺は2人を先導し、洞窟の更に奥へと進んで行く。途中、数体のブルーウィスプを撃破しつつ、10分以上かけてゴールへと辿り着いた。
「ここは……湖ですの?」
「す、凄いっす」
まあ初見では圧倒されるよね。自然の力、神秘を強く感じさせる光景だ。
俺は隈なく岸側を見る。すると……居た。ニチカとアティだ。ホッと安堵の息が口から漏れる。
「おーい!」
大きな声で呼びかけると、2人もこちらを向いた。遠目にも笑ったのが分かる。更にその奥から龍魚が浮き上がってくるのも見えた。そのままザパーンと大きな音を立てて湖面から顔を出す。後ろの2人が「ひ」と短い悲鳴を飲んだのが聞こえた。
「大丈夫。味方っていうか、貿易相手だから」
完全に無条件な味方じゃないけど、まあいきなり攻撃されたりとかは無い相手だね。
俺たちは坂を下り、湖のほとりまでやってくる。ニチカとアティが駆けて来て……俺の胸に飛び込んだ。
「おっとと」
なんとか抱き留めるが、後ろに2歩、3歩たたらを踏んだ。
「アキラ……良かった……無事だった」
「まあ転移できてたから大丈夫だとは思ってたけどよ」
「うん。俺の方はクローチェも正気に戻したし、大丈夫だったよ」
2人が少しだけ体を離し、俺の背後を見た。アティは表情変わらず。ニチカは胡乱げに眉根を寄せる。そういや、ニチカはクローチェとは「コレッタ捕り物事件」以来だもんな。あまり良い印象は無いんだろう。とはいえ、今は協力し合ってくれなきゃ困るワケだが。
「2人は大丈夫だった? 操られてる島民のみんなに追われたんでしょ?」
話を変えつつ、状況も訊ねる。
「うん……まさか……アレだけ多く……操れるなんて」
「でも、そこまで熱心じゃねえんだよな。何回もボーッとする時間があるっつーか。おかげで割と余裕で逃げ切れたぞ」
やっぱりか。選挙の時から、ボーッと何もさせない、というのは出来てたけど。裏を返せば、それ以上は干渉できないということ。島民たちとは対峙しても、そこまでの脅威にはならないかも知れないな。
「それで? 島民たちは? 引き返したの?」
「ううん……多分だけど……洞窟の入口で見張ってる」
ああ、なるほど。まあウィドナからしても、それくらいしか手は無いか。
「しかし、想定以上じゃねえか? 見張りだけでもあの数……」
ニチカがおののいた様子で言葉を紡ぐ。
俺は肩をすくめて、床オナ畠山の話をシェアした。まあ当然、エロゲ云々は話さず、純粋に俺と同じ世界から来た異能者が取り憑いているのだと。
「マジかあ……でもまあ、アキラと同じ世界のヤツなら、アキラばりに凄え力持ってても不思議じゃねえもんな」
「ロスマリーも……クローチェも……少し安心だね……ウィドナさんが本当に悪いワケじゃなくて」
優しいアティの言葉に、2人は微笑みを浮かべる。こういう風に言ってもらえると身内の彼女たちとしても救われるよね。




