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爆乳ハーレム島の錬金術師  作者: 生姜寧也


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295/339

295:投票

 朝食の後は、改めての作戦会議を行い、()()()()()も整え、家を出発する。


 広場へと進む間、大量のモブやインビジブルさんたちと一緒になる。一瞬、メガネを掛けようかと思ったけど、どこでウィドナ派が見てるか分からないし、やめておく。インビジブルさんを見るためだけに、今から手の内を晒すのは得策じゃないだろう。


「おはよう」


「…………おはよう」


 モブさんに挨拶すると、少し間を置いて返される。彼女たちもまた島の一大意思決定を控えて緊張してるんだろうか。

 ……いや、それにしては何か様子が変な気がする。というか、さっきから俺たちに話しかけてくれる人が疎らすぎる。なんだ? 今更、根回しでも入ったのか?


 と、不審に思い始めたところで、ちょうど坂を下り終えた。同時に、先に現場入りしていたモブばあさん数人が駆け寄ってくる。顔で見分けがつかないのが申し訳ないけど、多分いつも応援してくれてる人たちだと思う。


「おはよう! いよいよじゃな!」


「選挙で勝って、堂々と永住を決める記念すべき日じゃ」


「今からウィドナの吠え面が目に浮かぶようじゃわい」


 嬉しそうなA、B、C。

 この人たちは平常運転みたいだね。良かった。


「おはよう! みんなも今日までありがとう。ばあちゃんたちが味方になってくれて、本当に心強かったよ」


 衒いの無い感謝を伝える。


「ならワシにもキスを!」


「ワシもじゃ! 感謝のキス!」


「ええのう。アレなんか気持ち良さそうじゃし」


 うわあ……予想外の展開。


「ええっと」


 どうやって断ろうか、頭をフル回転させ始めたところで、


「お静かに! これより、定例集会を始めますわ!」


 ロスマリーのよく通る声が響き渡る。ばあちゃんたちも口をつぐみ、俺も背筋を伸ばした。

 ……パッと見ではあるけど、ロスマリーもいつも通りな印象だ。


「それでは、新聞を貼り出します。壇上だけでなく、前後左右にも追加で3ヶ所、ボードを置いていますので」


 との言葉通り、広場を囲むように木製ボードが立っていた。そこへモブ女性たちが淡々と新聞を貼りつける。

 俺が近づいていくと、サッとモブさんたちが道を開けてくれる。やっぱりいつもと様子が違うな。さっきのモブばあちゃん3人のような通常運転の人たちと、どこか顔に生気の無い人たち。

 ……うーん、これは。


「アキラ、多分」


「分かってます」


 隣のシェレンさんと囁き合う。昨日、エレザの様子を間近で見ていただろう彼女が確信したような声音なので、まあ確定とみて良いだろう。


「とにかく今は、新聞を見てみましょう」


 顔を近づけて、紙面を読む。橋の完全修復や、砂糖なる新たな調味料の存在、デカすぎる枕など、良い点も悪い点も偏りなく取り扱っていた。ただ何というか、全体的に執筆意欲の乏しい内容に感じた。もう投票の際の判断材料として機能させようという気はサラサラ無いってことだろうな。周囲の人たちも、紙面をそぞろに目でなぞっているだけ。


「さてと。もう良かろう。選挙に移ろうと思うのじゃが?」


 ウィドナは静かにそう言った。彼女も能面のように表情が失われていた。視線は俺を向いているので、最終確認ということなんだろうけど。


「……良いよ。始めてくれ」


 俺の方も既に色々と覚悟は固まっている。大きく頷いて返事した。一瞬、壇上のロスマリーと目が合う。どこか困惑気味というか、迷子のような目をしている……気がする。ただ結局は何も言わず、


「……それでは選挙を始めます」


 と、静かに宣言した。

 いよいよね、と隣のシェレンさんが呟いた。


 ………………

 …………

 ……


 木製の投票箱に、俺と為政者組(ロスマリー&ウィドナ)以外の人間が、続々と投票用紙を投入していく。まあ投票用紙と言っても、ただの白紙に『永住賛成』か『永住反対』のどちらかを記入しただけの簡素な物なんだけどね。


「……」


 粛々と進んで行く。その間も、投票者と目が合わないことが多くて、なんだか雲を掴むような手応えだった。

 そして遂に、投票が終わった。最後の1人となったアティがそっと俺に目配せをしてくる。その目を真っ直ぐ見返し、頷いた。


「さあ、投票が終わりましたわね。それでは開票に移りましょう」


 日本みたいに票が莫大な量あるワケじゃないから、即日どころか即時開票なんだよな。まあ不正が介在する余地が極限まで少ないから良いことだとは思うけど……もっと前に別の形でされてるんじゃないかなと。


「アキラも立ち会って下さいな」


 ロスマリーが投票箱を逆さにして、中身をテーブルの上に出す。その箱の中に手を入れて、浚うように動かし、残っていた物も掻き出した。そして箱をこちらに渡してくる。中を覗いて何も残っていないことを確認した。


「……」


 ウィドナはその間も様子がおかしかった。ずっと心ここに在らずという風にボンヤリしていたかと思うと、時々ハッとして俺の方を睨むようにしたり。

 

「集計が終わりましたわ。アキラも確認なさいますか?」


「いや」


 正直、平静な状態っぽいロスマリーが不正を行うとは思えないし、どうせもう……剣が峰はここの勝敗では無いなと、集会の始まりからこれまでの時間で完全に察してしまっている。

 それに彼女の手元を見ていた限りでは、恐らく。


「それでは結果を発表します」


 ロスマリーの声も震えている。おかしなことが起きていると、そう分かっていながらも毅然と進行をこなす辺り、流石と評すべきか。


「この度の、アキラのセフレ島永住権の可否を問うた選挙ですが……」


 聴衆は静まり返り、ロスマリーの声だけが響く。


「永住賛成33票。反対が4票。33-4で賛成多数……」


「や、やったんだよ! 圧勝なんだよ!」


 無邪気なポーラは笑顔の花を咲かせるが、


「しかし約束の過半数には満たず」


 ロスマリーの続く言葉にハッとした表情へ変わった。

 そして、ゆっくりと進み出てきたウィドナ。既にその顔には肉眼でも確認できるほどの黒いモヤが浮かんでいた。生気の失われた青白い本来の老婆の顔の上に、ヴェールのように被さっている。異様な光景だった。

 そして、その顔は醜悪な笑みの形を取り、


 ――よって、オマエは島外追放とする……!


 ハッキリと言葉を発した。この島には俺以外に居るハズのない……男の声で。

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