269:新しいカゴください
「お、おう。アキラ、拾い終わったぜ? そっちもキ、話は終わったか?」」
キスって言いかけたな。こういうウソがヘタクソな所もニチカの美点だけど。
ていうか、「敵陣営同士なのにキスするってどういうこと?」と詰められたら、(メガネや近視のことは言えないので)答えに窮しただろうし、正直助かる。
「お、おわ、終わりますたわ! 完全に! 有意義な! 取引とか、あの、アレな、話をしていて!」
テンパるにも程がある。
俺は1つ嘆息をついて、
「……さてと、ドロップの炎結晶を見せてみて」
話を進める。
フィニスたちも明らかにホッとした表情で話の転換を歓迎し、背中のカゴを地面に下ろした。中を覗き込むと、丸いレンズ型みたいなのが10、20……全部で30余りか。恐らく1つにつき2枚は必要になるパターンだから、15個くらい作れる計算だな。
「それで~~何か良いの出来る~~?」
「うん。まあクリムゾンの駆除が第一だったからね。そこまで変わった素材じゃなさそうかな」
あくまで第一目的は達したし、その副産物だよ、と。注意が向きすぎないようにしておく。協力してもらったのに、隠し事するみたいで気が引けるけど、今は仕方ない。まあ俺の分も作るから、そのうちバレるけどね。
「……いくつかのガラス製品は出来るから、後で作っておくよ」
「あ~~あの砂糖が入ってたヤツ~~アレ便利だよね~~」
「密閉性も凄えからよ。魚を保管するのにも使えねえかな?」
そこから各々、ガラス素材を使った仕事の効率化案を談義し始める2人。
俺はそっとロスマリーの耳元に顔を近付け、
「前と同じくらいの時間に、温泉で」
とだけ短く告げた。そこでメガネの錬金と受け渡しをするのだ。
ロスマリーも正しく意図を汲んでくれたようで、コクンと頷いた。
そして、
「それではワタクシは、この辺りで。危険な生物が居ると聞いて、様子を見に来ましたが、退治されたということで。もう用はありませんもの」
説明口調すぎるなあ。ニチカに負けず劣らずウソが下手な子かも知れないな。
ロスマリー本人は特に違和感も持たずに、意気揚々と帰って行ったが。
ロスマリーと別れた足で、そのまま俺たちはハス貸しの家へと向かった。地図の写し作業が終わってると思うので、受け取らないと。さっきのセイリュウ2層で見つけた珍石の位置も照らし合わせてみたいしな。
ツツジの小道を抜けた辺りで、ちょうど家から出てくる家主と鉢合わせた。
「おや。ちょうどそっちに向かおうと思ってたところだよ」
手に持った紙きれをヒラヒラさせる。アレが写しだろう。
「ありがとう。後もう1つお願いがあってさ……」
俺は背中を向ける。編み目も何もグシャグシャになってしまった竹カゴ、それを見てハス貸しは目を丸くした。戦闘中にブッ壊れてしまったと告げると、
「良かったねえ。背中に刺さったりしなくて」
なんて言われてしまった。まあ確かに、刺さったら地味に痛そうだもんな。
「……それで新しいカゴが必要ってことだね。ちょっと待ってて」
ハス貸しは自宅へUターンし、1分と経たずに戻って来た。手には新品の編みカゴ。ありがてえ。
「いくら?」
「良いよ。アンタには色々と世話になってるんだから」
ハス貸しは小さく首を横に振り、
「それじゃあ、そのうちまた妖精郷へ連れて行っておくれ。あそこ、祖母のこと抜きにしても気に入っちゃってね」
まあ確かに、幻想的な場所だもんな。俺は少し見慣れてしまった感があるし、ハチに追いかけられたりとかもあったから、キレイなだけの印象じゃないけど。
「妖精郷ってそんな良い所なんか。あーしも見てみてえな」
「ハス貸しが気に入るくらいだから~~キレイな植物もあるのかな~~」
そういえば、この2人はまだ妖精郷に連れて行ったことはないのか。
「おちんちんも見せてくれる~~約束だよね~~?」
そうだね。妖精郷に連れて行くなら、おちんちんも気持ち良くしてもらわないとだから。
「うん、じゃあ今から行こうか」
「ええ!? 良いの~~?」
俺は頷く。
実は少し考えていることがあって……小聖樹に住み着いたアカミツバチの巣。もしかしたら、この鉄壁ガードの『氷の鎧』を防護服代わりにして、駆除できないだろうかと。
3人にもその目論見を共有すると、
「なるほど。アタシとしても、祖母の愛した場所が虫食いっていうのは辛いし、駆除してくれるのなら助かるよ」
「それに~~ハチミツっていう~~甘いのが採れるんでしょ~~?」
フィニスは次なるグルメに舌なめずりといった様相だが。実際、ハチミツが採れたら真っ先に進呈すべきはハス貸しなんだよな。結局、腐敗を恐れてストックのピアップルも全部食べてしまったもんな。申し訳ないことをした。
「よし、やろうぜ。ハーネスも持って行かねえとな」
全員が賛成してくれた。
新調したカゴに荷物を詰め直し、アティ宅へ寄る。諸々の素材を回収してくれていたらしく、メロウさんにそれらをドッサリ渡された。アティ本人も連れて行きたかったけど、今度は道路舗装に動いてくれているらしく。彼女なりの恩返しだろうとステルスお母さんも言うので、素直に甘えることとした。
ハーネスだけ納屋から回収して、俺たちは再び北西のウロへと向かった。
タオル4枚の2チーム体制で、ウロの滑り台をクリア。
「すげえなあ、ここが……」
「みんなの言ってた~~妖精郷~~」
「の手前の空間だよ。ここでアキラを気持ち良くしてあげれば、おちんちんで連れて行ってくれるんだ」
3人の視線が一斉にこちらへ向く。思わず「う」と単音が漏れた。なんか逆に肉食獣に睨まれたみたいな。
思えば、みんな性にはかなり積極的なパーティーだもんな。
……これは、搾り取られてしまいそうだな。




