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爆乳ハーレム島の錬金術師  作者: 生姜寧也


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261:希望のレシピ

 クローチェを送って行くという俺に、シェレンさんは少し不安げな顔を見せた。今の状態のクローチェが俺に何かするとは思えないけど、黒モヤに操られた状態ならどうなるか分からないもんな。そして当然、遠隔操作が始まるタイミングは誰にも(ウィドナにしか)分からないワケで。気は抜かないようにしないとな。


 肩を貸して、彼女の捻った足の方を軽く浮かせながら歩く。片足跳びという程ではないけど。


「お湯に浸かって少しはマシになった?」


「はいっす。これなら明日にはイケると思うっす」


 クローチェは明るい声を出すけど、本当は明日くらいは安静にして欲しい。未だに打ち身・捻挫系の薬はレシピすら出てないから、こういう時もどかしいよね。


「ウィドナばあさんに治してもらうのは……?」


 思い切って訊ねてみた。これくらいの内容で拒絶されるなら、今なお洗脳は深いと結論づけられそうだけど。

 果たして。


「ウィドナ様は…………これくらいでは何もしてくれないっす」


 クローチェは答えてくれた。

 硬質で透明な声音を出したかったのかも知れないけど、声は震えていた。大切にされていない。駒でしかない。それに気付いている雰囲気だった。少なくともコレッタみたいな妄信の危うさのようなものは感じ取れない。

 クローチェの洗脳は解けかかっている。エレザの言う通りのようだ。


「……」


「……」


 ゆっくり歩いて行く。クローチェの片足を浮かせた、不規則な足音が響いていた。

 ちなみに、島の人たちに見られないよう、火山道を経由するように進んでいるのだが……彼女の戻る場所はウィドナ宅で良いんだろうか。命令違反が増えてきたと、ロスマリーは言っていたが。


「……アキラ」


 と。沈黙が長引く前に、クローチェが口を開いた。


「ウチのこと、結構聞いてるっすか?」


 向こうから話題を振ってくれるのは助かるけど、内容が内容だった。返答に窮してしまう。そしてそれが雄弁な答えになるよね。


「まあ分かってたっすけどね。エレザはアナタに夢中だし、ロスマリー様も心を開いてきているっす」


「……2人を咎めるようなことは」


「しないっすよ。ウチもまた……アキラには自分のこと知ってて欲しい、そんな気持ちがあるのはウソ偽りないところっすから」


 そう、なのか。これもエレザの情報通り、俺という存在は一つ彼女の分岐点になっていたみたいだ。


「アキラに会って、こんな変わった人間も居るのかと驚いたっす」


「あはは。まあ別世界の人間だからね」


 体の作りも、価値観も。何もかもが島の規格外だ。


「どうしようもなく異端。迫害・追放の憂き目に最も近い位置に居ながら、逃げも隠れもせず島中を駆け回っている。それがキミには不思議でならなかった?」


「……その通りっす」


 今までの価値観(洗脳)を疑い始めてしまうくらいには。


「それにアキラだけじゃなくて……ハス貸しも」


「そうだね。キミと同じ黒い乳頭だったけど、全然あっけらかんとしてた」


 コクンと頷いて、彼女は自分の(この島基準では)小さな胸を見下ろした。


「人間、そう簡単に一括りに出来るモンじゃないんだよね。もちろんキミの見た目を忌み嫌う人も居る。けど全く気にも留めない人も居る」


 俺だって、全員が俺に対して迫害・追放のスタンスだったら怖くて島を歩くことなんて出来ない。そうじゃないと確信しているから動けるワケで。

 ……けど裏を返せば、分別もつかない子供の頃に「全て敵だ」と刷り込まれてしまったら、そりゃ徹底的に避けるに決まってるよな。

 ウィドナ……改めて罪深いババアだよ。


「……」


 沈黙の中で、クローチェは色々なことを消化しているのかも知れない。きっと考える時間が必要なんだろうな。

 ちょうどそこで、火山道の始点が見えてきた。もう麓だ。


「ここまでで良いっす」


 少しずつ痛みも引いているのだろう。クローチェは俺の肩からそっと体を離して、自分の両足で立った。

 一瞬、ちゃんと家まで送ると言いかけたけど、やめた。きっと今の俺たちの距離感では、ここが限界なんだろう。思えばロスマリーの時も、家までは送らせてもらえなかったしな。


「感謝するっす」


 その感謝は何に対してか。

 彼女が操られていると看破していたことか。転びかけた時に助けたことか。ここまで送ってきたことか。あるいは……新しい価値観をもたらしたことについてか。

 いずれにせよ、訊ねるのは野暮というもの。


「……それじゃあ、また」


 また会おう。操られていない、自分の意思を持った彼女と。

 と、我が家へと踏み出した時。


「光」


「え?」


 振り返る。だけどその時にはクローチェの姿は無かった。少しだけ土煙が舞っている。上に跳んだのか。

 と、


「ウチが操られていたら、光を」


 更にそんな言葉が降ってきた。

 慌てて顔を上げ、キョロキョロと樹上を探すが……彼女の姿はどこにも無かった。

 ていうか。


「……もうとっくに、肩なんか貸さなくても大丈夫だったのか」


 大したケガじゃなくて良かった。と同時に、仮病を使ってでも最後までついて来てくれたのかと思うと……嬉しいよね。

 

「しかし、光か」


 ヒント、ということだろうけど……

 と、その時。背中の竹カゴからレシピ帳が飛び出した。突然の事態に心臓が止まるかと思ったが。とにかく筆記を待ってキャッチ。


 


 ====================


 No.24

 

 <退魔の光筒>


 組成:聖樹の枯れ枝×小聖樹の太枝×木食いバチのアゴ×アカミツバチの蜜×溶岩石×光石


 内容:小聖樹の太枝の中身をくり抜いた物に、聖樹の枯れ枝を加工した板で蓋をし、アカミツバチの蜜蠟で固めた光筒。聖樹と小聖樹、ダブルの霊験を備えており、悪しき存在への切り札として絶大な効果が望める。ちなみにハリアンライトと同じく、通常の転移装置起動にも使える。

 

 ====================



 

 光って、そういうことか。

 期せず、いやある意味では必然か。敵の精鋭からもたらされるのは、お約束だ。

 ……黒モヤを穿つ切り札、そのレシピを手に入れた。

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