242:たまには1人も良いね
自動筆記を終えて落下してきたレシピ帳を受け止める。
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No.23
<氷の鎧>
組成:龍魚の鱗×貯冷の鎧×氷結スライムの塊肉
内容:貯冷の鎧の表面を氷結スライムの塊肉でコーティングし、龍魚の加護を付加した鎧。炎系の攻撃に無類の効果を発揮し、着用者の身を守る。鎧は形状を変えることができ、盾やファウルカップにもなる。
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相変わらずキンタマが狙われる前提なの、腹立つな。まあでも、これは有用なアイテムだ。スザクの探索時にはパーティー全員に着用させたいレベル。雰囲気からすると軽鎧(ライトアーマー)みたいな感じかもな。ヒロインが着るのも考慮されてるんだろう。
「何か良いレシピが~~出たの~?」
「うん。あのウィスプの攻撃を防ぐアイテムみたいだ」
「わ~~やった~~素材集め~~?」
「そうだなあ……でも今日はもう厳しいだろうな」
16時回って、女神さんも早上がりしたしな。そもそも、貯冷の鎧(モンスター名であり、かつ同名のアイテムを落とすみたいだね)はセイリュウの3層が予想される。中途半端な時間に特攻するべきではないな。
「だったら~~少し早いけど~~母乳トレーニングする~~?」
「ああ、そうだね。折角だし」
夜ご飯を食べた後は、ロスマリーのも吸わせてもらえるし、フィニスのは先に頂いておこう。
というワケで、家の中に上げてもらい、チュパっておいた。噴き出したところで、そのまま吸い口をミニスちゃんに渡してお役御免。俺の方はワンオペをしてからフィニス宅を後にした。
………………
…………
……
家に帰る前に、少しだけ1人になった。16時半過ぎ。いつも概ね17時~17時半くらいを活動のタイムリミットにしているから、ちょっとしたエアーポケットだね。
道を逸れ、林の中へ踏み入る。
「ふう」
木々の香りに、少しの湿気を孕んだ温かい空気。夏だなあ。いやまあ、この島は常夏なんだけどね。
……さてと。現状を整理しよう。
「今日で橋の修復というか作り替えが終わって、ここは問題ナシ。出来れば手すりとか付けられたらとは思うけど、優先順位は低めかな」
それに付随して、明日はフィニス農園へのヤギさん大移動があるから、余裕があれば立ち会っておきたい。
「あとは窓ガラス問題か。チンコを出す出さないはさておき、聞かれちゃマズイ話を気兼ねなく出来るようになるから、なる早で欲しいんだよな」
そして、『木枠・戸車付き窓ガラス』の要求素材の内の1つ、車輪石。これも色々な応用が考えられるだけに、余分に手に入れておきたいよね。
「窓ガラスが出来たら、今度はクーラーが欲しいよな。恐らくは冷蔵庫や氷の鎧とも通じるんだろうけど」
とにかく鍵は『貯冷の鎧』というモンスター&アイテムだな。
「……相変わらず、やることは山積み。されど体は1つか」
けど、ホーヒーたちのおかげで、移動時間が短縮されるようになったのは明るい材料だ。
ただ、以前の悪臭草を使ったフェイクの件もあって、臭い鹿に乗っているところを大々的に見られるのは良くない。市方面へ行き来する時は自重するのが賢明だろう。
時計を見る。17時ちょうど。あっという間に30分近く経ってたのか。
久しぶりにゆっくり出来た気がする。この島の生活は好きだけど、基本的にいつも誰かが近くに居るからね。たまにはこういう一人時間も欲しくなるのかも知れない。
「戻るか」
昼が結構遅かったから、そこまで腹減ってないけど。ロスマリーとの約束もあるしな。
というワケで帰宅。すぐに母娘に出迎えられた。
「あ、やっと帰って来たんだよ」
「おかえりなさい」
「はい。ただいま」
一人時間の後には、こうして家族の温もりに触れる。なんか凄く贅沢だよね。
「橋、見たわよ。凄いじゃない」
「キレイになってたんだよ!」
まあ30年戦士だった丸太を入れ替えたからね。
「みんなも凄く喜んでたわよ。アティもニチカも、アキラのおかげだって、みんなに喧伝して回ってたから、きっと票も増えると思うわ」
「アキラがあの場に居たら、胴上げしてもらえたと思うんだよ」
いやあ。結構おばあちゃんが多いから、胴上げは怖すぎるな。選挙まで残り日数も僅かとなった大事な時期にケガとかシャレにならん。
まあ何にせよ、これで人流も戻ると思う。滑落が怖くて外出を減らしてた人は、こぞって出てくるだろうし。市の経済活動も活発化するかも知れない。
「あ、そうそう。猫の子も居たわね。木の上から様子を窺ってる感じだったわ」
「え? 猫の子って、クローチェのことですか?」
「そういう名前……だったかしら。私たちとは没交渉の子だから」
なるほど。名前もうろ覚えレベルか。没交渉……エレザの言う通り、ウィドナの洗脳が効いていたんだろうな。
「学校にも通ってないんですか?」
「ええ。ポーラと同じくらいの歳だと思うのだけど……」
義務教育とか無い島だからなあ。シェレンさんも慈善事業というワケにもいかないから、月謝は取るもんな。ただ話していてアレな感じはしなかったし、何より新聞を書けるワケだから無学ではないハズ。ウィドナ家で教育をしたということか。
「それでクローチェは? 何をしに来たとか」
「それは分からないんだよ。けどきっと新聞のネタを探しに来たんだよ」
まあ普通に考えるなら、そうなんだけど。
……俺の脳裏を、釜を盗みに来た時の能面のような顔のクローチェがよぎる。そして同時に、宴会の後に見た迷子のような表情も。
「……どうかした?」
「いえ。情報ありがとうございます」
これから会うロスマリーにも、それとなく探りを入れてみるか。
そうして、その後はポーラの学校の話などを聞きながら夕飯を摂った。ちなみに何故か「いっせーのーせ」が学生の間で流行っているそうで、
「学校でのアキラ支持率も爆上がりなんだよ。橋の事とかはよく分かってない子も喜んでるんだよ」
……あれだけ苦労したのに、「橋修理<いっせーのーせ」は大いにモヤる事実だった。




