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21:エレザがひん剥かれた

 丘を登り、家まで戻る。ビニール袋の中の砂をビンに移し替え、身軽になってから再々出発。今度はスザク火山へ。南下を始めると、風に乗って家々の夕餉の香りが鼻孔をくすぐる。我が家の今日の夕飯は何だろうな。


 日もだいぶ翳ってきた。初夏の気候であるセフレ島も、流石にこれくらいになると気温が1~2度ほど下がっていそうだ。腕時計を見る。17時10分。スーツや革靴と同じく、この世界に持ち込めた物の1つだが……今のところまあまあ正確な時刻を示しているんじゃないかと思う。つまりセフレ島の現地時間は日本時間と大きく変わらないらしい。


 30分ほど歩くと、やがて地面がザラザラとし始め(火山灰のせいか)、前方に大きな山が見えてきた。

 活火山みたいで、山頂がほんのり赤い。こんだけ近くで噴火されたら、あんな小さな集落ひとたまりもないのでは? なんて疑問をエレザにぶつけてみたが、


「噴火しても、こっちに被害が来たことはないな」


 という答えが返ってきた。

 なんつーか。日本で培った自然環境に関する知識はあまり意味をなさないみたいだな。


「さて。そろそろ転がってると思うんだが」


 溶岩石のことだろう。今現在は火山の麓までも距離がある場所だが……危険度の低いエリアで採取出来るのは助かるな。

 周囲を見渡す。オレンジの斜陽に照らされて、赤黒い石がいくつか散らばっていた。


「アレかな? 結構、あるね」


「使い道なんてないし、誰も採らないからな。正直、これが溶岩石とやらで合ってるのかも知らん」


 スザク火山にあるそれっぽい石、ということで案内してくれたみたいだ。

 

「熱かったりはしないの?」


「ああ。触れたハズ」


 言いながら、エレザが1つ拾い上げる。なんともないようだ。

 と、気が緩んだその瞬間。


「な!?」


 石が突然動き始めた。ウネウネと蠢き、エレザが取り落としてしまう。モ、モンスターか!?


「しまった! 溶解(ようかい)ナマコだったか!」


 エレザが叫ぶと同時、モンスターが体液を放出するのが見えた。エレザの胸の辺りに着弾してしまう。


「エレザ!?」


 毒か。あるいは溶解というからには強力な酸か。慌てて駆けつけた先で目にしたのは……


「あ」


 おっきい。真っ白で、釣り鐘型……天辺には淡いピンク色をした魅惑のグミ。ポーラのと比較して、色素は薄く、輪っかは大きい。

 肌には火傷1つなさそうだが……


「だ、大丈夫なのか?」


 服の破損箇所を改めて確認する。液は生地の上を滴り、今も少しずつトップスを溶かし続けていた。


「ああ。溶解ナマコは服だけ溶かす液体を吐くんだ。クソ、気に入っていた服なのに」


 エレザは胸元の開いた素敵な服を着てたハズだが見る影もない。

 ただ本当に肌には被害がないみたいで。


「ああ、良かったよ……肝が冷えた……」


 最悪は、胸が酸で溶け落ちるようなスプラッタまで想像してたからな。知人がそんな目に遭うのは見たくないし、大事ないと知って本当に安心した。


「私の心配をしてくれるのか? 一度は自分を捕縛した相手だろうに」


「いや、あれは仕方ないことだと理解してるから」


 それに今もまさに素材集めに付き合ってくれてるし。

 あ、そうか。もしかするとエレザからすると、罪滅ぼしの意識もあったのかね。本当に気にしなくて良いのに。


「……っていうか。その……」


 危険はないと分かったら、目の前の魅惑の双子山が。丸出しなワケで。当然、その大きめの輪っかに視線を集中させてしまうよね。


「な、なんでガン見するんだ……?」


 そっと両腕で隠されてしまう。部分鎧を着た腕と、産まれたままの姿の上半身の対比が凄い。


 と、そこで。


「ひゃん!?」


 エレザの口から思いの外、可愛い悲鳴が出る。


「ど、どうした!?」


「し、尻にもかけられてしまったようだ」


 なに!? それは確認しないと!

 急いで、エレザの背後に回る。すると、ナマコは今まさに追撃弾を放とうと、体を膨らませているところだった。


「させるか!」


 俺は素早く駆け、ナマコを上から踏んづけた。グニュッとしたイヤな感触。


「蹴っ飛ばしてくれ! ソイツは倒せないんだ!」


 そんな事ある!? とは思いながらも、足裏を離し、そのままトーキック! ナマコは思いの外、遠くまで吹っ飛んでいく。


「今のうちに!」


 胸を隠したままのエレザの膝裏と背中に手を当て、持ち上げる。鎧もあって重いが、なんとかなった。

 通ってて良かった、チョキザップ!


「っ!」


 そのまま離脱。来た道を逆走し、3分ほど。やがて腕も肺も限界に達したところで、エレザを草地の上にそっと下ろした。


「こひゅー……はあ……はあ……ゲホゲホ」


 息を整える。死にそう。


「あ、ありがとう……その……意外と逞しいんだな」


 胸を片手で隠しながら、もう一方の手を口元に当てて……少し頰を染めているエレザの姿は大層色っぽい。これは少し好感度が上がった感じか。


「いや……エレザが嫌がってる……みたいだったから……」


 女だらけの島の住人なのに、裸を見られることに抵抗があるらしいエレザ。あの場に他のナマコも居たかも知れないし、これ以上の被害が出る前に離脱させてあげたいと思ったんだ。


「……自分でもよく分からないんだが、あまり人に裸を見せるのは好きじゃなくて……水浴びなんかも、いつも1人でしていて」


 もしかすると、鎧に身を包んでいる時間が長いのも関係あるんだろうか。軽装すら落ち着かないとか。

 

「だから、その……助かった。ありがとう」


「いや。元はと言えば」


 俺の採取に手を貸してもらって起きたことだし。それに恥ずかしがらせてしまったのも、俺が見過ぎたせいだし。


「ゴメンな。あまりにキレイだったから」


 思わず本音が出る。

 薄く浮き上がった腹筋に、新雪のような乳房と、ピンクに程近い頂。本当にキレイだった。


「キレイ……そ、そんなこと、言われたことがなかった……」


 更に恥ずかしそうに俯いてしまうエレザ。

 な、なんか……可愛いな。

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