19:ビャッコの森へ
「ていうかさ……今まで聞きそびれてたんだけど。この島ってモンスター出るんだよな」
ジェルスライムは既に見たし、素材としても使った。本来もっと早く聞くべき事案だったけど、1日が怒涛すぎて流れてしまってたよね。
「モンスター? オマエの世界ではそう言うのか?」
「野犬とかと同じ感覚……害獣なんだよ」
そっか。俺(日本)基準だとファンタジー生物だけど、産まれた時から生活圏に存在するなら、おかしい物とも思わないよな。逆に地球上の生物でも、こっちの世界に居ないヤツは、彼女らからしたらモンスターだろう。危険度で言っても、先のスライムより日本のヒグマとかの方がヤベえしな。
「えっと、俺たちの世界に居ない生物……昨日のジェルスライムとかもそうなんだが……ああいうのも素材になりそうなんだ」
「ほう。まあ我々も動物の皮なんかを生活用品に利用してるからな。それと似たようなものか」
加工と錬金は恐らく結構違うんだけど、まあ生活に役立てるために作り変えるという点では相似したものか。
「それで? 今回の錬金術に必要な素材は、どんな感じなんだ?」
「うん。ビャッコの森の赤土、ジェルスライムの肉片、溶岩石、海岸の砂……以上だね」
「ビャッコの森……」
「ポーラが皮膚病を貰ってきた所だな」
ああ、そういえば。密林で貰ってきたとか言ってたな。
「結構、危険な場所なのか?」
「どこまで行くかによるな。居住地側に近い森なら大したことはない。ただそこを抜けて密林まで行くと……」
エレザが半目でポーラを見やる。なるほど。その大したことある場所まで、ポーラは進んでしまったのか。
「禁足地とかにはなってないのか?」
「自己責任だ。私も稀に密林に入ることはあるが。そこで野垂れ死んでも仕方なし。ポーラが目的のために進んで、未知の病気に罹って牢屋に入れられたのも自己責任」
結構厳しいんだな。子供でも、ある程度の年齢だと自由と責任両方をってことか。それにしても。
「ポーラの目的って?」
「……」
「……」
ん。なんか地雷踏んだ? 2人ともに、露骨に目を伏せられてしまった。
「……今は聞かないでやってくれ。私も話し過ぎた」
「あ、ああ。分かった。忘れる」
まあいつか話してくれるかも知れないしな。
微妙な空気になりかけたところで、俺は(わざとらしいのは自覚しながら)軽く咳払いをした。
「とにかく、俺は島に詳しくない。どこから回るのが正解なのかも分からないから、2人とも案内を頼むよ」
素材回収の話に戻すと、ポーラはホッとした表情になった。
「ジェルスライムはビャッコの森近くによく居るから、まずはそこが良いんだよ。ついでに赤土も採れるし」
エレザも異論ないようで、小さく頷いている。
「まあどれも危険度は低い採取になるだろうが……体力のあるうちに、一応は戦闘が絡むところから行くべきだろうな」
ジェルスライム……ポーラの棍棒攻撃で成す術なく沈んでたから、大した強さじゃないんだろうけどな。
「じゃあビャッコの森に出発なんだよ!」
ポーラの高らかな宣言で、俺たちの行軍は始まった。
ビャッコの森。島の西側に広がる大きな森林地帯の総称。先にもエレザが説明してくれた通り、居住区側は比較的安全な森、その奥に密林が広がる構造になっているらしい。不思議なことに生えている植物や、現れるモンスター(便宜上、俺はこう呼ばせてもらう)の種類も両者で異なるという。
「なるほどね。あの牢屋も森の方面だったのか。それであの中にポップしたと」
つまり、あそこもジェルスライムの生息域ということ。
「まあ結構広く分布してるがな。たまに集落の中にも出る」
「それ大丈夫なの?」
「弱いから大丈夫なんだよ。子供でも倒せるんだよ」
人里にも現れるけど、棒で数回叩けば死ぬって、ほとんどゴキブリと大差ない扱いだな。
「さあ、着いたぞ。ここからビャッコの森だ」
エレザの言葉に、改めて前方の木々を見やると……
「確かに……高木が多く生えてるな」
ここまでの丘は……低木と高木が混在し、雑草が茂る、まあ日本の平野部と似たような植物生態だったけど。
ここからは広葉樹林の様相だ。土も違う。結構スッパリ分かれてるんだな。RPGのマップみたいだ。
「赤土はどこら辺?」
「スザク火山に近い南寄りだな」
「おお。詳しいの?」
「焼き物をやる班が採取に出掛ける際の護衛を頼まれることがあってな」
仕事は班制なのか? ここら辺の集落の仕組みにもまだまだ明るくない。
「赤土は焼き上がりが汚いから使わないらしいんだが……それが確かスザク火山側に多いと聞いた覚えが」
まあ食器とかだとね。赤錆みたいな色になっちゃうと、食欲減退だろうし。
「しかしスザク火山が南、ビャッコが西とくれば、東はセイリュウ、北はゲンブか?」
「お、おお!? す、凄いんだよ。なんで分かったんだよ?」
日本人なら推測が立たない方がおかしいだろう。どうもシナリオライターが地名に四神をあしらったみたいだね。
「まあ、アキラの知識量は置いておいて……南西方面に進むぞ」
エレザの音頭に、みんなで南西へ向かう。地図もコンパスもないのに、2人とも迷わず進んでいく。
「よく方角が分かるね」
と訊ねると、少しキョトンとした顔をされた後、
「ああ、そうか。オマエは異世界人だからな」
「ボクたちは島の真ん中にある聖樹様の存在を感じられるんだよ」
そんな説明があった。
「つまり聖樹様を基点にして、方角を見定めてるってことか」
スゲェな。しかしそれだと、コンパスとかは作っても全く有り難がられないということだな。
そんなワケで。2人に先導されるまま、しばらく進むと、あまり草木の生えていないスペースに出た。地表は黒土のようだが、少し赤色も混じっている。少し掘れば赤土ゾーンにブチ当たりそう。
早速、採取開始だ。




