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175:踊るデカ枕

 そっとエレザの尻に手を伸ばし、モニュッと肉を掴んだ……その時だった。


 ――ボスン


 窓の外で何かが落下したような音がした。


「え?」


「な、なんだ?」


 そこまで重量を感じる音ではないが……って、まさか。


「ちょっとゴメン!」


 エレザに断りを入れて、俺は窓際に駆け寄る。やはり枕が地面に落ちていた。良かった。風か何かかな。これも日頃の行い……じゃないか。おっぱい吸いまくってるだけだもんな。とにかく運が味方してくれたようだ。


「エレザ、悪い。先に回収してくる」


 玄関扉を開け、窓の方へ。背後から足音がするので、エレザもついて来てくれてるようだ。そして先程、枕が落ちていた辺りを見やるが……あれ? 無いぞ。


「どうしたんだ? いきなり」


 少し不満げなエレザの声。お楽しみタイムが始まるかというところで焦らされた格好だからな。

 

「いや、実は今朝から行方不明だった枕がさ……」


 俺は事情を話した。


「木の上から追い落とした風が、地上にも吹いていて飛ばされた?」


「うーん」


 つむじ風レベルか、それ以上の風力が無いとそうはならないと思うんだよな。そしてそんな物が窓の外で起こっていたら、気付かないハズもない。多分、家の中まで吹き込んでくるだろうし。

 と。


「アキラ、あれ」


 エレザが全く違う方角を見て声をあげた。俺もそっちを見やると……丘の緩やかな傾斜をコロコロと転がっていく大きな枕。うわ。こりゃマズイ。

 生活道路の脇は林になってるんだけど、木々はそこまで密集してないせいか、引っ掛かることもなく順調に転がっていってる。


「任せろ!」


 エレザが飛び出す。俺もそれに続き、ふと違和感。枕の動きが少し変なのだ。木の幹や根に引っ掛からないように、上手く跳ねているというか。そして……連鎖で気付いた。昨夜、例の偽ポーラが誘導しようとしていた方角じゃないか? と。


「エレ」

「ひゃっ!?」


 俺が呼び止めようとした声と、エレザがあげた悲鳴が重なる。前方の彼女が踏んだ地面が、突然崩れたのだ。

 無我夢中で彼女の体を掴む。掌がとんでもなく柔らかな物に包まれる感触で、胸を掴んだのだと理解したが。それと同時に、下方向に強烈な重力が掛かる。


「っ!?」


 そして浮遊感。俺の足元も崩れたのだと気付いた時には、下方向へ滑り落ちていた。デジャヴ。あの木のウロに落ちたのと似た感覚。エレザの体を胸の中に閉じ込め、俺が下になるように。


「うわあああああ」


 滑り落ちていく。やはり下はツルツルの材質で、ケガはしなさそうだけど。背中と後頭部が熱でヒリヒリする。落ちながらも、例の石室に繋がるのではないかと予測を立てているが……エレザの方は初体験なので体が完全に縮こまっていた。


「っ!」


 そろそろ傾斜が緩やかになってきた。そしてここまで来ると、ほとんど日の光も届かない暗所だ。やはり例の石室に繋がったのか? 

 と、考えたところで。


 ――カッ!!


 強烈な光に目を焼かれる。腕の中のエレザも「ぐ」とくぐもった悲鳴を上げた。そしてすぐさま、今度は真下方向への落下。成す術もなく、エレザを胸に抱いたまま、背中から地面に落ちた。一瞬、息が止まる。ただ、そこまで高度は無かったらしく、それ以上の体の異変は認められなかった。


「う……げほっ」


 すぐに肺も復活し、息を吐き出す。荒く呼吸を繰り返しながら、半身を起こす。


「すまない! 大丈夫か?」


 エレザも俺の動きに合わせて体を起こし、胸の上からどいてくれた。「大丈夫だよ」と返しながら、辺りを見回すと……ボンヤリとした白光に照らされる土くれの空間。妖精郷だろうか。だが大樹が見えない。もしかして似て非なる空間なのか。

 と、そこで。

 

「わあ~~人間だ!」

「常夏の妖精が連れて来た!」

「デカ枕に引っ掛かったんだ!」


 妖精が3体飛んで来て、代わる代わるにセリフを吐いた。そしてこちらの反応も待たずに、いずこかへと飛んで行ってしまう。


「ちょ、ちょっと!」


 エレザも俺も咄嗟に手を伸ばすが空を切る。妖精たちが飛んで行った先は……石造りの階段。今いる洞窟のような空間から斜め上に伸びていってる。

 ……まあでも、妖精さんが居たということは、やっぱり妖精郷なのは間違いなさそうだ。


「……ややこしいな。ここはアナタが言っていた妖精郷なのか?」


「うん、多分。滑り台を転げ落ちて、そこで光と共に転送されたってことだと思うから」


 パターンとしてはウロの中に落ちた時と一緒だ。あの時は俺たちが自力で(ていうか写生で)発光して転移したが。今回は何者か(妖精の言うにはデカ枕の仕業?)が光を放って、俺たちを転移させたと考えられる。

 確かにかなりややこしいよな。滑り台で落ちた先で光を浴びて転移したのが、地下空間の妖精郷の更に深度の深い場所(推定)ってことだもんな。


「ちょっと待っててな」


 地図帳をアポートで取り寄せる。開いて確認すると、やはり座標は聖樹様と重なっている。そしてGLが-220の表記。推測通りだ。ここは妖精郷の更に下にある地下室。周囲を照らしてる白光は……妖精さんの燐光ではなく、光石か。

 とにかく、俺はエレザにも現在地について教える。


「なるほど。取り敢えず、さっきの妖精たちについて行って、地上にあがれば良いということだな」


「まあそうだね」


 状況はややこしいが、やることはシンプルである。2人で「よっこいせ」と立ち上がる。肩をグリグリ回したり、屈伸したり、体の調子を確かめる。エレザも同じことをしているが、互いに動きに違和感は無さそう。


「よし。それじゃあ、上に向かうか」


「ああ」


 階段を見やる。GLによれば、20メートルくらいある計算だが。

 ……登る間に何も出ませんように。

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