11:食事が合えば結構なんとかなる
ハンモックを担いで、居間の端まで持ってきた。壁にゴツイ石細工の架け具が取り付けられた箇所があって、そこにハンモックの結び目を引っ掛けた。落ちないように念入りに結び、完成。
「簡単なんだよ」
単純な作りゆえ、廃れないんだよね。現に俺の世界にもあるからな。アウトドアシーンではバリバリ現役だし。
「ボクもここで一緒に寝ようかなあ」
「い、いやいや」
このおっぱいと添い寝とか。我慢できずに吸い寝になってしまう。
「今日は、ほら。折角また帰ってこれたんだから、お母さんと一緒の部屋で寝なよ」
「うーん。それもそうなんだよ。アキラ、本当にありがとうなんだよ」
肩の辺りに頰を当てて甘えてくる。横乳も肘に当たる。煩悩を追い出しつつ、そっとその頭を撫でてやった。
と、そこで。
「さあ。ご飯が出来たわよ」
ちょうどタイミング良く、シェレンさんの料理が完成したようだ。テーブルの上に皿が並ぶ。陶磁器の皿だ。焼き技術もあるみたいだな。
皿の上には焼き魚(ニオイでなんとなく察してたけど)と、葉物野菜。茶碗には白飯。木の箸を添えて。
「おお、米食文化!」
これはラッキーだ。海外に行って辛いことの1つに「現地の食文化に馴染めない」というのがあるが。どうやらここでは心配無さそう。
「異世界にも米はあるのね?」
「はい。見た目もソックリです」
あとは味だが……
「ふふ。いただきますしましょうか」
「はい!」
「うん!」
いただきますの文化もあるみたいだ。なんか嬉しいな。
「それじゃあ、手を合わせて」
「「「いただきます」」」
早速、箸を持って茶碗へ。ごはんを一口分掴むと、
「……っ」
口に入れた途端、米の香りが鼻を抜ける。一口噛むと、粒の食感と甘い味わい。ああ、米だ。まごうことなき米だ。これはデカイ。何はなくとも、飯が美味けりゃ生きようと思えるからな。
「美味しい! 美味しいですよ! シェレンさん!」
「あらあら」
嬉しそうに笑ってくれる。
俺は続いて、焼き魚にも箸を伸ばす。焼き目のついた皮ごと、身を切り分け……パクリ。シンプルな塩のみの味付けだが、加減が絶妙で美味しい。
「サワラに似てるかな」
多分、実際には違うんだろうけど。ややパサパサ感がありつつも、旨味の詰まった身。新鮮なのか、香りも良い。
そういや、絶海の孤島って言ってたし、朝獲れた物とかかも知れないな。
「お箸、上手いんだよ」
「ああ。元居た世界でも使ってたからね」
喋りながらも、ガツガツと食べてしまう。米、魚のループ。時々、野菜。ちなみに野菜には何も味付けがなかったが、こちらも新鮮なのか噛むと程よい甘味があった。現代人的にはそれでもマヨネーズが少しだけ欲しいが、まあ贅沢は言えない。
「よく食べるんだよ……」
感心したようなポーラの声。見れば、彼女もシェレンさんも俺の半分くらいしか食が進んでいない。そうか。俺は20代男性の平均くらいだと思うけど、それでも彼女たちからすると大食いになるのか。
「す、すいません。居候の分際で」
「良いのよ。こんなに美味しそうに食べてくれて嬉しいわ」
言葉に他意はないようで、シェレンさんは上品に笑う。
ありがたいけど……甘えっぱなしはダメだよな。食い扶持、なんとか俺も稼げるようにしないと。そのためには、やっぱ錬金術だよな。
「ごちそうさまです」
「おかわりもあるわよ?」
「いえいえ。十分いただきましたから」
俺は「ふう」と腹をさする。ソファーがあれば、くつろぎたいところだけど。錬金術でそういうのも作れないかな。
「今度はお肉も貰いに行くんだよ」
「そうね。家族が1人増えたんだものね」
2人がそんな話をしている。その中で少し気になった部分が。
「肉とか魚とか……貰えるモンなんですか?」
「ええ。正確には私が勉強を教えたり、服を作ってあげたりすると」
「渡した相手から、物々交換で貰えるんだよ。それか木札で貰える場合もあるんだよ」
木札?
「もちろん、あげた物に釣り合ってる分しか、木札は貰えないんだよ」
「……なるほど。通貨の役割か」
コインの鋳造にはコストがかかるし、技術も設備も要る。そこら辺を考慮して木製なのかも。
「……例えば、お肉400グラムと、授業1日分が等価ね」
グラムという単位はそのままなのか。新規で覚えなくて良いのは助かる。まあメタなこと言うと、シナリオライターもオリジナル単位作るの面倒くさかったんだろうな。
「ちなみに……1日に、何時間くらい授業するんですか?」
「4〜5時間くらいかしら」
結構やるな。それでデカいハンバーグくらいとなると、だいぶ安い。あまり島民の生活に余裕がないのかね。ある程度、成熟&安定した社会じゃないと、教育って重視されないからな。
それにしても。
「ちょっと軽視されてますね。教育って凄く大事なのに」
それを言った瞬間、シェレンさんの目がカッと見開かれる。そして手招きされる。え? なんか地雷踏んだ?
「えっと……」
恐る恐る近付くと、しゃがむように言われる。その通りにすると、すぐに。
「ああ、アキラは賢い子ね!」
頭の後ろに手を回され、そのままシェレンさんのお胸にダイブさせられる。
ふおお!? シャツ越しとはいえ、やはり強烈。フカフカを通り越して、生地の向こう側の肉感が! そうだ、この人も当然ノーブラなんだ。マジか。こんな美人のおっぱいを……顔中で感じられるなんて。
(女神様……嗚呼、女神様)
本当に、この世界に連れて来てくれてありがとう。
頬擦りして、乳房の柔らかさを余さず堪能していると……チラリとポーラの顔が見えた。どこか寂しそうな表情。
そのワケを聞く暇もなく、
「私、賢い子は大好きよ」
シェレンさんに大胆な告白をされ、更に強く抱き締められた。俺も大きくて柔らかいおっぱい、大好きです。
と、こんな感じで、異世界で初めての食事の時間は賑やかに過ぎていった。