艦爆の空
艦爆は飛んだ。からっと晴れた暑い夏の日に、あの雲ひとつない青い空を飛んだ。
1945年 日本本土
あの日のことは覚えている。
あの日、4年前に開戦した太平洋戦争はついに終結を迎えようとしていた。
そうだ、あの日、最後の艦爆は飛んだ。飛んで、そのまま帰ってこなかった。
【特別攻撃隊】という言葉がある。
太平洋戦争末期に日本軍が実施した、狂気の作戦だ。
戦闘機 艦上攻撃機 艦上爆撃機 様々な航空機に爆弾をくくりつけ、そのまま敵艦へ突っ込み、自爆する。
戦争は正気と狂気のせめぎ合いでもある。太平洋戦争末期の日本は狂気に負けた。だから戦争に負けた。
男たちはその狂気の中で死んでいった。
8月15日
最後の艦爆群は飛び立った。その腹に爆弾を抱え、男を連れて飛び立った。
艦爆群は敵へと飛んでゆく。死の世界に男を連れてゆく。
それは唐突に来た。
敵を見つけた。これに攻撃を仕掛ける。
艦爆は急降下を仕掛ける。敵の直上で、太陽を背に急降下する。
敵の砲火で味方は落ちてゆく。それでも急降下をやめない。
最後の艦爆は最後に急降下を始めた。
最後の急降下を始める。
味方の機の吹く黒炎に紛れて急降下を仕掛ける。
艦爆は太平洋戦争の栄光と自分を重ね合わせながら、爆炎の中に消えた
あとにあるのは沈む軍艦とぷかぷかと浮かぶ艦爆の残骸だけだった。
すべてが、陽炎のように消えた。
儚く、そして美しく、ゆるりと消えた
戦争は悪である。
しかし戦死した人々は悪ではない。
それぞれが、自分の正義に従っただけだ。
自分の信念を、貫いただけだ。
誰かのために、死んだだけだ。
あの日、艦爆は飛んだのか。
あの日、日本近海で沈んだ軍艦がいたのか。
もう、誰も語る者は居ない。
青い空は沈黙し続けている。