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いずれ最果てへ至る神殿師  作者: きりきりきりたんぽ
第一章 王立セントリア学院編
9/54

先輩

「デュラン、シャル、ティナは後輩たちを囲め。周囲を警戒、守ることを意識しろ。ルカは魔術で援護、俺が前に出る。

後輩に傷一つつけさせるな。いいな。」


 返事を待つことなく俺は飛行を発動させて上空へと飛び立った。


 上空には二十体ほどのレッサーワイバーンが漂っていた。だが、まさか人間が自分たちの領域まで飛んでくるとは思っていなかったのか、一瞬動きが乱れた。


 それも一瞬ですぐに連携が取れたように俺を囲い、同時に大きく口を開き、ブレスで攻撃を仕掛けてきた。魔力の衝撃波となって周囲全方向から放たれたそれに対し俺は水属性の結界魔術で迎え撃つ。


「くっ……!さすがに無傷じゃ済まないか。だが、分かったぞ。お前達だけじゃないな?」


 レッサーワイバーンが集団で動いている時点でほぼ確定だったが、この連携攻撃を受けて確信した。確実にこいつらを統率している個体がいる。


 結界魔術で防御したとはいえ、その余波は身体に響いていた。頭が揺らされたような、絶えず耳鳴りが続くような、そんな不快さが俺の身体を占めていた。ブレスに有効な水属性を使っていなかったら動けなかったかもしれないくらいだ。


「俺の相手はお前らじゃない。―――雷撃。」


 加護の名前を小さく呟いた。一瞬の浮遊感の後に俺の両手から雷撃が発動した。結界魔術に使っていて、ブレスによって周囲に散らされた水を伝って電撃が走った。それは俺を囲んでいたレッサーワイバーンを一匹残らず飲み込み、その全身を蝕んだ。


「ルカ!後は任せたぞ!」


*****


「はいはーい。任せなさーい。」


 聞こえているはずがないと思いながらもルカはリーダーの声に答えた。


「でも、見た感じテルの雷撃で麻痺ってるよね、あれ。なら実験段階だったけどあれ使ってみようかなー。」


 後輩らと自身のメンバーの前に立ったルカは緩慢とした動きで腰から杖を取り出し、上空へと向けた。


「四季翼、展開。タイプ・ブレイズ。」


 その言葉と呼応するようにルカの背に二対の炎の翼が起き上がった。それはまさしく不死鳥のようで絶えず燃え続けるような無限の熱量を後輩たちに感じさせた。


「燃えよ、燃えよ。煌々と。

 爆ぜよ、爆ぜよ。爛々と。

 すべてを貫き、焼き尽くせ。炎の槍。」


 ルカの杖から魔法陣が三重に浮かび上がり、そこから幾線もの炎の光線が発射された。それは空中で動きが鈍くなっていたレッサーワイバーンに襲い掛かった。光線は触れた部位を一瞬で燃やし、直後生じる爆発によって致命傷を与える。そしてその光線は込められた魔力が許す限り標的を貫通し直進する。

 ルカオリジナルの攻撃極振りの特効魔術である。その魔法陣が杖を持ったルカの前方で発生と消滅の明滅を繰り返している。


 その即死レベルの威力の魔術を前に上空のレッサーワイバーンは為す術なく撃ち落とされていく。


「うーん。やっぱり駄目だねー。これじゃまだ使い物にならないよー。詠唱はほぼ省略できそうなんだけどねー。攻撃自体の速度が遅すぎるし、ラグも大きい。対人で使うと考えたら威力も高すぎるしー。」


 ダミアンはルカの魔術の爆発や撃ち落とされたレッサーワイバーンが地面に衝突する音と衝撃に体を震わせながらもルカの独り言も聞き逃していなかった。


 ―――あれで、未完成だというのですか……?あれほどの威力と攻撃速度に射程距離を持ったあの魔術が?しかも口ぶりからあれはルカ先輩オリジナルの魔術ということになるけれど、あまりにも汎用魔術からかけ離れている……!というか、見たことがある発展魔術と言うほど異次元ではないけど、応用魔術というにも強すぎる。


「ちょっとルカ、やりすぎよ。せっかくのレッサーワイバーンの売値が落ちるじゃない。しかも爆発までさせちゃうと肉の質が落ちるわよ。」


「あっ、そうだった!あー、でももう全部やっちゃったー。あはは……。」


 最後のレッサーワイバーンが地面に静かに落ちた。


*****


「やっぱりいたか。レッドワイバーン。」


 群れを形成しながらも単体でも十分強いために、単体で動くことが多いレッサーワイバーンが集団で動いている。しかもその行動には何者かによる意図のある指揮を感じられた。そして極めつけは同じ高さに飛行で飛んだ時だ。基本的にワイバーンを始めとした竜種はプライドが高く、格下の存在が自分と同じ高さにいることを許せない。いつか俺がうっかりワイバーンと同じ高さまで飛んだ時は結構離れた場所にいたにもかかわらず血相を変えて飛んできた。それなのに今回は俺が同じ高さまで飛んでも怒ることもなく静かに俺を囲んだ。これは圧倒的強者からの指揮がなければありえないことだ。

 レッサーワイバーンの動きを止めた俺はさらに上空へと突き進んでいく。そしてある高さまで至った時、不意に空気が切り替わったのを感じた。まるで誰かの支配する空間に入り込んでしまったような、虎の尾を思いきり踏みつけた感覚。


 視線を不意に大きな気配を感じた方に向けると、さっきまで何もいなかったはずの空間に不機嫌そうに息を荒く吐いている一体の赤いワイバーンがいた。その空間は空中にありながら炎に包まれており、そして視認して初めてそこから発せられる熱を自覚できた。当のレッサーワイバーンよりも体躯は少し小さく、それでも血を想起させるくらいの深赤色の鱗に包まれた体は不気味な威圧を放っている。


「―――」


 小さく吼えると炎の空間は壊れ、その残滓がレッドワイバーンの翼の中に吸い込まれるようにして消えていった。よく見ると翼の内側に小さい透明の翼のようなモノが形成されている。視線は鋭く俺の全身を射貫き、一挙手一投足すら見逃すまいとしている。


「……準備万端って訳か。俺も同じだよ、後輩の前だしな。張り切っていこうか。

 ―――魔力励起カウントストップ


 剣を構え、魔術をいつでも展開できるように魔力を励起させた。全身からあふれ出る魔力が蒸気のようになって漏れ出し、同時に集中が深まり、意識が研ぎ澄まされていく。視界が広がり、感覚が鋭くなっていく。


 一瞬の拮抗の後、俺の放った斬撃とレッドワイバーンの炎のブレスが衝突し爆発を起こした。


「ふう、まあこんなもんか。」


 魔力励起時特有の超感覚に体を慣らしていく必要があった。今の一撃で加速している意識と体を繋げ、動きの調整ができた。魔力効率と出力が上がり、それは同時に加護の出力も上げている。


 一呼吸の後に、先ほどとは比べ物にならないほどのスピードで俺よりも上空にいるレッドワイバーンの元へと飛び出していた。ブレスと斬撃によって生じた爆煙を突っ切り、手に持った剣で攻撃を仕掛けた。


 レッドワイバーンは想定外の速度で現れた俺に一瞬驚いたようであるが、それでも鋭い鉤爪で受け止めた。金属製の剣と爪が火花を散らしながら拮抗する。


「ッ!」


 小さい気合と共にいきなり重さが増し、俺は下方に押し戻された。レッドワイバーンはそんな俺に対し、翼で起こした風に鉤爪による斬撃を乗せて追撃を仕掛けてきた。風に乗った斬撃は凶悪な速度と重さをもって俺に襲い掛かってきた。


 初撃を受けた時点で捌ききるのは不可能だと分かった。残りの斬撃の雨を相手にすれば、俺の技量では捌ききれずに遥か下方、それこそ地面近くまで押し戻される。そうなれば、後輩たちを守りながらこれと戦う羽目になる。できなくはないが避けたい。


 だから、少し無理をすることにした。剣を正中に構え、数瞬後に訪れるであろう強烈な痛みに身構える。


「―――纏雷、一足。」


 全身から雷が迸り、一瞬で景色が切り替わった。雷の如き速度で斬撃の雨を切り抜け、レッドワイバーンの真横を通り抜け、茜色の空へと身を躍らせていた。


 美しい夕日に心動かす間も無く、気が付いたように全身の至る所に斬撃による裂傷が刻まれた。


「ッ!だが、これで終わりだ。

 終を為せ、天なる白雷。」


 自分よりも上空を取られたことに気付き、目の色を変えているレッドワイバーンに向けて、飛行の加護を切り、剣の振りに重力と俺の加護を乗せた最高火力の一撃をレッドワイバーンの首筋目掛け放った。


 大した手ごたえもなく振り切られた俺の剣は確かにレッドワイバーンの首を一刀で落としていた。

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