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いずれ最果てへ至る神殿師  作者: きりきりきりたんぽ
第一章 王立セントリア学院編
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反省

「あー、なんというか。実際の魔物と戦ってみてどうだった?休みながらでいいから感想を教えてくれ。」


 問いかけながら内心ではどうすればいいのか分からなかった。ついさっきまで戦場だった森の中の空き地に後輩たちを座らせながら思考を巡らせる。後輩たちの戦いを影から見ていたわけだが、初めての魔物との闘いにおいてボアは無茶過ぎた。それにボアという魔物の研究もしていなかったのだろう。


「恐ろしかった、です。」

「あれと向き合ってすぐに体が動かなくなった、です。」

「息ができなくなって、意識が飛びそうになりました。」

「逃げることすらできなくなるということがよくわかりました。」

「殺意を受けて体が、本能で動けなくなった感じがしました。」


「なるほどな。まあ初めて魔物戦闘をしての感想としては妥当だ。そうだな、その上で言えることは三つくらいか。」


 適当に話しながら頭の中で考えをまとめる。言わなければならないことは絶対言わないといけないし、でも言う必要がないことは言わないでおく。


「一つは魔物の研究をしたかどうかだな。

 そもそもボアという魔物は獰猛な一面もあるが、基本的には臆病だ。だから最初にしていた挑発はしてはいけない。あれは結果的に自分に敵の集中を集めているんだが、その反面魔物の理性を吹き飛ばして敵意を無理やり増幅させている。だから臆病さを吹き飛ばしちまったんだな。


 二つ目は強化魔術をかけるタイミングだ。あれは余程の実力者じゃないと魔術の発動を感知される。特に魔物は周囲の変化に敏感だ。あれは難しいが戦闘の途中で使うか、もしくは近づく前には発動させないといけない。まあ、なんだ。少なくとも不意打ちをしようとしているのにその前に使うのは良くなかったかもな。


 そして三つ目は戦いというものを理解できていない。戦いは遊びじゃない。命の取り合いだ。だから相手を殺した方が勝ちではない。生き残った方が勝ちなんだ。極論を言えば、人としての尊厳を無くしたとしても、四肢を切り落とされたとしても、最後に生き残ればそれは勝利だ。だから、まあ、なんというか、目の前の敵を殺すことだけを考えるんじゃない。お前達全員が生き残る道を最後まで模索し続けなくてはならない。これはリーダーだけじゃなくて、そのメンバーも同じくだ。リーダーが倒れた時にすぐにサポートに入れるようにしなければならない。」


 そこまで言い切り、ふう、と息を吐いた。全体を通して言っておくべきことはこの程度だろう。あとは個別で教えるときに何か言うことになるだろう。俺は知らん。


「っとまあ、こんな感じだ。多少厳しく言ったと思うが、でもいい点は多かったぞ。

 前衛は前衛らしく前に立てていたし、補助要員は魔物の様子を正しく疑えていた分、視野が広かったと言える。一応撤退の案も出ていたようだしな。後衛は少し普段通り動けなかったかもしれんが、初めての魔物討伐と考えれば当然だ。これから少しずつ慣れていけばいい。神童君は神童らしく力を発揮できていたな。」


 正直なところ、ボアでなければ問題なく討伐出来ていたと思う。それくらいの完成度はあった。パーティー内の信頼関係も悪くなかったし、リーダーシップもしっかり発揮できていた。ボアを挑発した時に発せられた獰猛さが牙を剥いて、全てをぐちゃぐちゃにしたっていうことなんだろうな。


「はい、言いたいことは言った。あとはお前達がどうするかだ。……って投げ出してもいいんだけどな。それじゃせっかく頼ってくれたお前たちに悪い。今日一日は俺たちがお前達のサポートをしよう。聞ける範囲の頼みや質問なら聞こう。」


 ここまで話してようやく気付いた。後輩たちから一切のリアクションがなかったことに。 ……厳しいことを言いすぎたかもしれん。後輩たちが意気消沈したようにうつむいてる。


 ……やっべー。これだけはしないって決めてたのに。やっちまったかー……。


 後悔と後ろめたさが意識と視線を後輩たちから一瞬外させた。ふっと自分の背後を見たが、それで気付けた。森の奥から迫る一つの気配を。


 直後、木々を割るように赤い体毛に包まれたボアよりも一回りも二回りも大きい魔物が飛び出してきた。


「えっ!?」

「あれって、ハイボア!?」

「先輩ッ!危ない!」


 ……いや、こいつは俺をめがけてきたわけじゃない。しかもタイミングが不自然だ。となると……。


「……悪くないな。」


 ハイボアが俺の間合いに入った瞬間、抜剣した。体捌きでハイボアを躱しながら、その軌道状に剣を置くイメージで首を斬り飛ばす。


「……まあこんな感じだ。これくらいなら数年もすればできるようになる。

 それで、どうする?何もないなら一対一でペアを組もう。その方がやりやすいだろう。」


*****


「テル先輩、リーダーって何ですか?」

「は?……リーダーね。別に深く考える必要はない。ただのみんなと同じ、メンバーだよ。」

「……。」

「……そうだなぁ。例えばだけど、リーダーにもいくつか種類あるんだよ。ほら、俺たちのパーティーのリーダーは俺だ。でも普段はデュランとかの方が仕切ってることが多い。」

「そうなんですか?」

「そうだよ。……言葉にするのは難しいけど、リーダーは多分、メンバーがやりやすい環境を整えること、そして最後に責任をもって決定を下すこと、だろうな。要は役割分担だよ。そんな特別なもんじゃない。」


*****


「デュラン先輩、俺は、前衛失格です。」

「そりゃまた、どうして?」

「俺は、魔物を前にして動けなかった。後ろに大切な友達がいたのに、動けなかったんだ。」

「ほうほう。」

「それにその果てにはダミアンに守られちまった。俺は、もう顔向けできねぇ。」

「……そうだなぁ。知ってるかもしれんが俺は生まれが特別だからな。お前の苦労はわかってやれねぇ。でもな、最初から何でもできるわけはねぇ。」

「……」

「ほら、さっきハイボアを剣だけで斬った俺たちのリーダーがいるだろ?あいつだって剣を握ったのは学院入学後からなんだぜ?」

「……そうなんですか?」

「そうそう。最初は魔物を前に剣を抜くことすらできなかったって話だ。それにそもそも学院には学びに来てるんだ、失敗ならいくらでもしな。そしてそこから学べばいい。それさえ意識してりゃ、力はついてくるさ。学院を全力で使い倒してやれ。」


*****


「シャル先輩、私は変わっています。」

「え?後輩ちゃん、じゃなくてケシーちゃん突然どうしたの?」

「……私はあの魔物の殺意を感じた時、死ぬかもしれないと思うより先に、体が動かなくなることの方に意識が向いてしまったんです。」

「うんうん。」

「私の悪い癖です。いつも何があっても研究しようとしてしまうんです。今回も魔物討伐って何だろうっていう研究心から参加しましたし、今回は大丈夫でしたが、次はないかもしれないと思うと……。」

「あー、ね!分かるよー、あたしも校則ギリギリを攻めてるんだけどさ。ほらこの制服とか。でもね、あたしたちはチームなんだよ、バランサーだけじゃチームは回らない。自分の特技をとがらせて行けばいいんじゃない?」

「……」

「まあ、答えは自分で考えればいいよ。自分の心を押し殺してパーティーに尽くすのもよし、心行くままに楽しんでその結果パーティーに何かできたらいいな、って思うのもよし。あたしは断然後者だけどねー。その方が楽しいし。」


*****


「……。」

「……魔物、怖かった?」

「……はい。今でも震えが止まりません。」

「……仕方ない。イーリャ神殿と契約している人は感知系の伸び幅が大きくなる代わりに感覚が過敏になる。だから慣れていけばいい。」

「慣れ、ですか。ティナ先輩はどうやったら慣れたんですか?」

「回数。ひたすら回数を重ねれば次第に慣れてくる。自分の感情をコントロールできるようになってくる。恐怖は当然、緊張も。常に冷静に誰よりも世界を俯瞰して見ることができる。」

「……」

「私達は直接戦う能力はそこまで高くない。その代わりに全体を把握することでパーティーに貢献する。いい?全体の指揮を取るのはリーダーの役割だけど、それを頭脳の面で補佐する。それができるのは戦闘に直接関われない私達だけ。

 ……私達の価値は中途半端なパーティーじゃ軽視されてしまうけど、重要な役回りであることに違いはない。自信をもって。」


*****


「ルカ先輩……。私はどっちつかずでした。ダミアンと一緒に戦いに出るわけでもない、震えて動けないフェミアンを連れて撤退することもできない。」

「あー、はは。確かにそうだったかもねー。でもさ、じゃあ前衛の、えーと、ダン君?を置いて逃げた方がよかった?」

「……いえ。仲間を置いて逃げるのはできません。」

「じゃああの神童君と一緒に戦った方がよかった?」

「……いえ、私には彼の横に立って戦えるほど強くはありません。」

「あはは。そうだよねー。ビビるのは分かるよー。彼、強いじゃん?神殿師としての素養だけだったら飛び級しててもおかしくはないくらいだもんねー。」

「……はい。」

「でもさ、私達からしたらねー。正直アルメアちゃんもあの神童君も大して差がないんだねー。ほら、さっき少しだけテルが戦ったじゃん?まああれは少し特殊なんだけど、でもみんな一人でグレートボアを顔色一つ変えずに瞬殺できるくらいではあるんだよー。」

「……」

「それにさっきテルは言ってなかったけど、範囲魔術はパーティーでの戦いに使うのはダメなんだよねー。範囲指定が難しいし、仲間を巻き込んじゃう可能性はやっぱり捨てきれないし。だから私に言わせれば期待外れだったかなー、なんて思ってたり。だからまあ神童だろうと主席だろうとまだまだなんだから、そんなに気後れしないでいいよー?今日少し見ただけだけど、アルメアちゃんも基礎はしっかりできてるし、これから追いつけるよー。」


*****


「ふう、今日はこれくらいでいいだろう。素材は回収できたか?」


 空が赤く染まり、あと少しで日が沈みそうであることを伝えてくる。まだ森の中だが、直に日が暮れより魔物が狂暴化するだろう。そうなれば俺たちはともかく後輩たちを連れたままだと危険だ。


「はい。でも先輩たちの分け前はなしでいいんですか?特にハイボアは僕達が倒してませんし。」


 ダミアンが自分の腰につけているアイテム袋に手を当てながら聞いてくる。魔物の討伐依頼をするっていうことで統制委員会から借りてきたのだろう。俺は自分用のを買っているが、高いからなー、あれ。


「いいんだよ。俺たちは監督したっていうことで報酬が出るんだか―――。」


 言い切る前に突然強烈な複数の気配を感じた。それは上空から俯瞰するように俺たちを囲っている。まだ攻撃してくる様子はないが、少しでも逃げようとすればすぐにでも追いすがってくるだろう。


 その魔物はレッサーワイバーン。魔物の中でも最上位の竜種に属する魔物だ。固い鱗、空を飛ぶ翼、強力な遠距離攻撃のブレス、鋭い鉤爪による盾をも切り裂く近距離攻撃。冒険者ギルドに出ればソロだとBランク、パーティーだとCランクが単体の討伐でも求められる。


 そんな狂暴な魔物が集団で現れ、手の届かない上空から囲われているのだ。経験の少ない後輩たちは生きた心地がしないだろう。


「せ、先輩……。」


「お前達は動くな。俺たちでやる。」


 小さく呟くと腰から剣を抜き、小さく構えた。

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