後輩の奮闘
「さて、今日の討伐はボアの討伐ってことでよかったよな?」
あっという間に週末になり、学院を通して授業がない休息日になった。休息日と言えど、授業がないだけでそれ以外は絶えず動いたままだ。それは委員会活動も研究室もしかりである。そのため、統制委員会も動いており、休息日であろうと討伐依頼が受けられる。
王立セントリア学院は王都の西端に位置しており、その立地上校門の一つが王都の外とつながっている。魔物討伐などで王都の外に出るときは大半の学生がこの校門を使って外部に出る。その校門で後輩と待ち合わせていた。
後輩の数は俺たちと同じ五名。その中でリーダーであろう神童君に声をかけた。
「はい。最初に受けられる依頼の中で一番難易度が高かったのがこの依頼だったので。」
「そうか。……そうだな。とりあえずお前達は魔物探しから討伐までやりたいようにやれ。危険なときには助けるから安心しろ。
その動きを見てあとの予定は決めていくつもりだが、それでいいか?」
「はい、大丈夫です!よろしくお願いします!!」
「お、おう。そんな気張らない方が良いぞ……?」
後輩たち一同に頭を下げられ、少しどもってしまった。くそ、笑うなデュラン。仲間だろうが。
「じゃあ俺たちはいないものとして自由に行ってくれ。」
*****
「行くか。ティナ、気配消しと感知を頼む。」
「ん。任せて。
神殿召喚、来たれイーリャ神殿。」
校門を出てすぐに広がる森の中を進んでいく後輩たちの姿が、木々に隠れ見えなくなったところで俺たちも行動を始めた。
ティナが俺たちの前に立ち、神殿を召喚する。黄金色の光が凝縮し、神殿の形を形作った。城を模したそれはティナの肩の上に浮かび上がると、ピタリと静止する。
「さてさて、後輩ちゃんたちはどれくらいできるのかなー?楽しみだね、テル?」
「そうか?神殿が召喚できるのが少なくとも一人いるんだから、そこまで大きな問題はないだろ。」
「どうだかね?あたしはそんなうまくはいかないと思うけどなー。」
「おい、そんな不吉なことを冗談でも言うんじゃねぇよ。」
*****
「まずは魔物探索だ。フェミアン、感知を頼む。」
「うん、任せて。」
金色の髪の少年は先頭に立つと意識を集中させるように目を閉じた。
「じゃあ今のうちに説明しておくよ。ボアを見つけ次第、フェミアンには魔術で僕達を強化してもらうけど、その時間がなければダン、頼むよ。」
「おう。挑発の魔術も覚えてきた。お前達の準備が整うくらいの時間は稼いで見せるぜ。」
赤みがかった黒い髪をかき分けながら腰に付けた剣を鳴らした。
「うん。その後はアルメアはダンを守る形で魔術を展開、僕とケシーで遠い方から順番に殲滅だ。」
「了解。」
「分かった。威力はどうする?最初だから全力でいい?」
ケシーは好戦的な笑みを浮かべながらそんなことを聞いてくる。緑色の髪を後ろで軽くまとめた少女からは余裕が感じ取れる。
「……うん。その方が良いね。そうしようか。」
ちょうどそのタイミングでフェミアンが感知を終えたようで、ゆっくりと目を開いた。
「見つけたよ。案内するからついてきて。」
フェミアンについて森へ進んでいくこと数分、彼が木の影で突然止まった。ちょうど周囲の景色に慣れ始め、緊張も解けてきていた時だった。
「……この奥にいるよ。三体だ。」
言われた通りに見ると少し開けた空き地に三体のイノシシ型の魔物の黒い姿を確認できた。幸運なことにこちらとは正反対の方を向いており、こちらには気づいていないようだ。
「本当だ。ありがとう、さっそく作戦通り討伐に移ろう。」
「……うん。今ならこっちに気付いてない。いや、気づいてないっていうよりも、向こうの方を警戒してる……?」
言われてみたら確かにそう見える。こちらを見ていないわけじゃない。僕達と反対方向を凝視しているように見える。
「どっちにしろ、今なら不意打ちを決められるって訳だろ?ならやろうぜ。準備時間もしっかりとれるんだからベストだろ。」
しびれを切らしたようにダンが小声で言う。確かに今この状況だけで見たらベストに近い。
少し考えて、すぐに僕は口を開いた。
「……そうだね。でもボアが向こうを警戒してるかもしれないっていうのも外せないから、いつでも撤退できるくらいの余裕をもっておこう。
ケシーは攻撃に集中して、僕がもしもに備えておくから。」
「分かった。攻撃は任せて。」
「じゃあフェミアン、強化魔術で僕達の強化をお願い。」
「うん、分かった。
剣に誓いを、杖に誇りを。」
フェミアンが杖を片手に詠唱をした。直後、僕達の体に魔術がかかった感覚と共に体の奥から力が沸き上がってくる。
しかし、同時に突然の魔術の気配に気付いたのか、三体の魔物がこちらを見ていた。
「ッ!ダン、頼む!」
「おう、任せろッ!」
返事よりも先に剣を片手にまっすぐ三体の魔物に突っ込んでいった。
「脅威の矛先!恩讐の的!
来いやぁっ!!」
ダンが挑発の魔術を発動させると、魔物の六つの赤い瞳に明らかな殺意が宿った。
「ッ!」
初めて感じる野生の殺意。直に向けられているわけでもないのに、僕の体は無意識に震えている。深く息を吸うことができない。体から体温が少しづつ失われていくのを感じる。
「ッ!……これが、魔物なの?
う、動けない!どうしよう!ダミアン!足が震えて!」
「フェミアン、落ち着いて!私達が倒すから!」
「これが殺意、か。すごいね、まったく体が動かない。」
アルメア達も三者三様の反応を見せているが、それでも体が震えていて今戦えそうにないのは共通している。錯乱しかけているフェミアンも、それを落ち着かせようとしているアルメアも、この状況下でも感心したように自分の感覚を確かめているケシーも。
にじり寄ってくる魔物たちに対し、ダンは一歩も動かずにらみ合っているが、これは動いていないのか、もしくは動けないのか。
……何をやっているんだ!僕はこのパーティーのリーダーだ!誰よりも前に立て!
舌を思いきり噛み、痛みで体から無理やり震えを奪い取った。口の中に広がる鉄の味を感じながら木の影から飛び出した。
「来たれ、ペンタゴン神殿!」
魔物とダンの間に割り込みながら神殿を召喚した。ダンの様子を確認する余裕はなかったが、背後から荒く息をする音が聞こえてくる。余裕はやっぱりなかったみたいだ。
魔物は突然現れた僕と神殿の姿に一瞬動きが止まった。
「燦然たれ、炎の槍!」
一番近くの魔物に目掛け、攻撃魔術を発動させた。杖の先から炎の槍が一本放たれ、それは動きを止めた魔物へとまっすぐに向かいーーー。
魔物の足元へと着弾し、小さな爆発を起こした。魔物は少し驚いたように後ずさったが、それだけだ。
(外したッ!なら……!)
「灼灼たれ、炎の嵐!」
神殿の加護でダンの周囲を耐熱結界で覆いながら、炎魔術の中でも範囲攻撃ができる魔術を発動させた。
まだ僕は自分の範囲攻撃の魔術は自分の周囲しか選べない。だけど、それでもその範囲内に三体の魔物がいることは確認済み!これで絶対に倒せた!
確信と共に炎の魔術が上げた土煙が消えていく様を見た。
「はぁ、はぁ……」
土煙が晴れた先には倒れた三体の魔物の体があった。
「やった……!倒せたんだ!僕は、倒せたんだ!!」
その喜びと同時に体に襲い掛かってくる強烈な脱力感。足に力が入らず、そのまま膝をつきそうになる。
魔力切れ。その言葉が頭にぼんやりと思い浮かぶ。
「……お疲れ。とりあえずそう言っとこう。」
ああ、また先輩に助けてもらってしまった。魔力切れで倒れかけている所を助けてもらうなんて、デジャヴ感が否めない。なんてこの場に合わないことを思わず内心で呟いてしまった。