混沌之理
(何を言っている……?巻き戻している?何を?)
明確な殺意の籠った攻撃をひたすらに浴び続けたガリバーは体よりも心に限界が近づいていた。
これまでは加護の発動の時に危険な攻撃を知覚していたが、加護の発動がせずとも死を直感してしまった。
加護がある以上死ぬことがないガリバーは今が最も死に近づいた時間であったのだ。
「まあいい。種は割れた。次は当てるぞ。降参をするなら今の内だ。」
「待て……、何を言っている?俺様は何を巻き戻しているんだ?」
「?そんなに時間に決まってるだろ。じゃないと説明がつかない。なんでお前はあれだけ動き回っておきながら息が大して上がっていないんだ?俺の攻撃を余裕で捌けるほどの技量があるわけでもあるまいし。」
「時間だと?」
確かにテルの言うとおりだ。ガリバーの疲労は精神的な物であり、肉体的な疲労は溜まっていない。
それを自覚した時、これまで立てた仮説や理論を全て超越し、テルが告げたことが真実であるということを一切の証明なくして悟った。
「そうか、この加護は、時間を巻き戻したのか……。」
それは歓喜ゆえか、それとも幸福ゆえか、ガリバーの身体は震え始めた。落涙する光景すら錯覚するほどに。
「本当に自分でもわかっていなかったのか。まあいい、どうだろうと関係ない話だ。」
テルの持つ剣から今まで以上の雷が集約していく。込められた魔力は必殺以上のレベルへと至っている。
「要は時間を巻き戻しても対応できないような攻撃をすればいいだけだ。例えば、―――」
テルは地面に剣を突き立てた。鋭い音と共に雷電が爆発を起こしたかのように武舞台を一瞬覆った。
「回避できないほどの超広範囲への攻撃とかな。」
ガリバーは加護の影響か、結界術式で自身を守っていたがそれでも全てを防ぎきることはできなかったようだ。右手を避雷針の如く扱い、被害を集中させることでそこ以外の部位を守り切った。
「それに範囲は広くなくとも長時間継続する攻撃とかでも充分だろうな。
さて、ガリバー=ディータ。次は右手だけでは済まさんが、降参するか?」
卓越した魔力操作能力を持つガリバーですら防御に回ってもしのぎ切れない圧倒的な火力を持つテルの勝利を観客は確信したし、それは審判を務める助祭も例外ではなかった。
次の攻撃がガリバーの命に手がかかることは想像に難くない。その前に試合を終わらせるのが審判の役割だろう。
助祭がその声を上げようとした時、笑い声が裁断の間に響き渡った。
*****
俺様は天才だ。それは物心ついたときから分かっていた。
だからこそ分からないことなんてほとんどなかったし、あっても調べて考えれば十分満たされていた。周りの人間は大人も含めて対等に話せなかったから、友達は本だけだった。
生まれて初めて未知へと触れたのは加護を授かったその時だった。
名前は混沌之理。てっきり二文字の加護を授かるものだと思っていたから拍子抜けしたのを今でも覚えている。
しかし、その加護は俺様が思っていたよりもはるかに難解だった。まず発動させることができない。加護があるということは認識できてもそこに魔力を込めることができない。
最初は分からないことが不快だったし、怖かったし、またそれ以上に純粋に怒りと喜びを感じた。
しかし研究を重ねても何もわからなかった。加護の研究論文を漁っても意図的に発動させることができない加護など記載がされていなかった。
あるのに使えない。ただ不快で不満だったわけじゃない。周りの凡人共は得意気な顔をして加護を使っているのに、天才のはずの俺様が置いてきぼりを喰らうというのは耐えがたい程の屈辱だった。
転機は突然訪れた。
初等学校の授業で加護を上乗せした魔術を同級生が暴発させたときに突然それは発動した。真後ろで起こったその惨事を前に反応できなかった俺様は死ぬはずだった。
だが、俺様は怪我1つしなかった。暴発させた本人を含め、大怪我した同級生は多かったのにも関わらず、俺様は無傷でやり過ごしていた。
その時に直感した。これこそが俺様の加護、混沌之理だと。俺様の体の奥底で大きく脈動したのを感じた。
それから十年近く経った。発動条件こそ分かったが、それ以外は何もわからない。発動したことを後になって認識することしかできない。発動したとして、その過程で何が起こったのかがわからない。
だが、そうだったのか。俺様の加護は、時間にさえ手をかけることができるものだったのか。
「……フッ、フハハハハッ!!そうか、そうだったのか!掴んだぞ、とうとう、この感覚を!
これが、俺様の加護!混沌之理!!
感謝するぞ、テル=ガーディ!!俺様は最強になったのだ!!」




