学院順位八位
「お!次はお前なのか。てっきり最後なのかと思っていたが。確か名前はテル=ガーディ、だったか?」
次の対戦相手として武舞台に上がったテルを見たガリバーが驚いたような声を上げた。
「そうだ。お前はガリバー=ディータだったな。」
ガリバーはにやりと笑うと、感慨深い様子で呟いた。
「……あの時からお前と話してみたいと思っていた。あの瞬間で動いたのはお前だけだった。」
「お前も動いていただろう。」
「俺様は、違う。動くつもりはなかったんだからな。まあいい、お前にも聞いておこう。俺様の研究に手を貸してくれないか?」
「悪いが無理だな。俺は自分のことで手一杯なんだ。とてもじゃないが、他人のために時間を割くことはできん。」
「そうか……。なら仕方ないな。最初のアリアドネ嬢と同じように、対抗戦の間に情報を集めるとしよう。」
*****
対抗戦が始まった。
王立セントリア学院の観客席にも静かな緊張が走る。テルが敗北した場合、王立セントリア学院に勝ちの目はほぼなくなるからだ。というのも、上位15位までの生徒に剣や槍といった近接武器を操る生徒はテルとリネットの二名しかいないのだ。
もちろん、貴族の面々は武器の扱いに心得があるものが多い。しかしそれは嗜み程度であり、魔術と比べるとお粗末もいいところだ。とても実践で使えるレベルには至っていない。
祈るような心持で戦いを見守る彼らの前に一陣の雷が落ちた。
「終を為せ、天なる白雷。」
開始と同時に放たれたその一撃はまさしく防御も回避も許さぬ必死の速攻であった。テルが鍛錬にならないからと、長らく使っていなかった最強の不意打ちである。
しかし、その一撃もガリバーの元には届かなかった。
「フッ。無駄だぞ。俺の魔法陣は出来上がる前には既に効果を発動している。なかなかの威力だったが、俺の防御を貫通するほどでもなかったな。」
「……何事も自分で試さないと気が済まないんだ。だが、そうか。確かに有効打にはならないな。やっぱり剣じゃないとダメか。」
テルはゆっくりと鞘から剣を抜くと正中に構えた。
「行くぞ。―――纏雷・一足。」
雷が爆ぜる音と同時にテルの姿が消えた。そして次の瞬間にはガリバーに現れていた。
「速いッ!」
ガリバーは既に一度見ていた。ボーダー魔術学院の生徒を助けるために二回の観客席から飛び出したテルのスピードを観測し、分析もしていた。
しかし、それでも数字と実際の動きは大きな違いがあった。身体強化による感覚強化と魔法陣による結界に感知術式を追加で組み込んでなお、テルの動きを知覚するのは不可能であった。
目の前に迫る雷を纏った剣を前に、なすすべなく倒れる。―――そうガリバー自身も考えた。
しかし、次の瞬間にはガリバーは剣線から紙一重で外れ、目の前には剣を振り下ろした姿勢で一瞬固まるテルの姿があった。つまり絶好の反撃のチャンスを与えられた状況にあったのだ。
(またか。例え勝てても訳が分からなければ意味がない。)
無力感と共に放たれたその魔術は勝負をつけるには十分な威力をもって無防備なテルの首筋へと迫った。
どんなに優れた神殿師であっても、自分には正体不明原理不明の加護の影響で負けることがない。本人ですら自覚できていなかったが、相手の努力を無意識に踏みにじってしまう、そんな罪悪感から彼は戦うことに消極的であったのだ。
「ッ!?」
テルは確かに振り下ろしていた。どんな剣士であってもその数瞬は完全に無防備になり、反撃はおろか防御すらできないはずのタイミングだった。
しかし、白い輝きを纏った剣がガリバーの魔法を切り裂き、そのままの勢いで頭上を通り過ぎていた。
一瞬何が起こったか理解できなかったガリバーだが、自分がいつの間にか片膝をついて座っていること、そしてその剣はさっきまで自分の首があった場所を通過していたことに気付いた。
(また加護か……!だが、加護がなければ確実に首をはねられていた。)
その事実に動揺しながらもガリバーは魔術の発動と同時に後方に大きく飛んだ。
(やはりただ速い、と言うわけではなさそうだな。で動いているといった方が適切だろうが、まだ少し違う気がする。)
その魔術を難なく切り裂いたテルは心の中で呟きながらガリバーに視線を送った。
「何が起こったか分からないだろう。だがこの加護がある以上、俺様に攻撃は絶対に届かない。その事実だけは変わらん。」
「そうか?だが、分かったことが一つだけある。」
「……何だと?」
「一切の手加減が必要ないということだ。殺すつもりで行ってちょうどいいくらいだな。
魔力励起」
*****
テルの全身から魔力が透明なオーラとなって立ち昇る。そのあまりの総量にガリバーは思わず一歩後退った。
(無茶苦茶な魔力量だ……。あれで俺様と同じ平民だと?アリアドネ嬢よりも多いだろう、あれは。)
「行くぞ。」
テルが一歩踏み込む。足に体重が乗った直後、雷が走る。ガリバーがそれを認識した直後、視界が再度切り替わった。
「ッ!?(魔力励起時特有の完全無詠唱か!!まずい、速すぎる!)」
初動のスピードだけではない。予備動作がないのだ。魔力の移動や魔術式の起動といったプロセスを全て吹っ飛ばして思考の直後には行動が開始している。
それからしばらくガリバーは一切の反撃が許されない時間が続いた。たとえ距離を取ったところでテルの機動力の前では大した意味を為さない。その上魔術の起動よりも剣の方が速い。ガリバーに打てる手立てはなかった。
五分か、十分か、はたまた三十分か、一時間か。時間に対する意識が途切れるほどの猛攻の後、テルは一言呟いた。
「そういうことか。お前、巻き戻してるんだろ?」




