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いずれ最果てへ至る神殿師  作者: きりきりきりたんぽ
第二章 神殿祈祷祭編
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加護解析

 武舞台の上で鎮座する物理と魔術が混ぜ合わさった封印を前に会場は静まり返っていた。それどころか中継が繋げられている王都各地でも似たようなことが起こっているのだろう、微かに聞こえてきていた喧騒が止んでいる。


 武舞台の上で右手を前に突き出しているアリアドネが吐く息が会場に響く。


 顔色一つ変えずに佇むその様は痛みを感じていないようであるが、それは彼女だからこそなのか、それとも戦いの最中だからなのか。


 延ばされた右手は完全に焦げている。圧倒的な火力を前に血液は蒸発し、筋肉は固まり、神経も焼き切れたはずだ。完全に神殿師としての機能を失っている。だが、彼女はそんな右手で極大魔術を発動させた。


 どんな痛みの中に彼女がいるのか、もはや想像の域にすらない。


 だからこそ、その場に居合わせた全員が心のどこかで彼女の勝利を祝福していた。ガリバーと同じストイックの生徒でさえも。


 だが、アリアドネだけは気づいていた。目の前の魔術は間違いない、今の自分ができる最高傑作だった。経験から立てた戦略に戦いの間で集めた情報を掛け合わせて、その上で魔法陣を上乗せした。ギリギリの戦いの最中だったからこそできた、実力以上の代物だ。


 しかし、それでもってしてもガリバーを止められないと。


 直後、武舞台を大きな爆発が揺らした。その出所は確認するまでもない。その爆発は次第に大きくなり、そしてとうとう封印を食い破った。そして同時にアリアドネの右手が内側から弾けた。


「……見事だった。」


 思わず膝をついたアリアドネは内側から封印をこじ開けたガリバーは傷一つついていなかった。砂ぼこりが立ち昇る中、ゆっくりと歩みを進めながらガリバーは小さく告げる。


「前言を撤回する。この対抗戦は俺様の勝ちだが、この戦い自体は貴女の勝ちだ。俺様は完全に負けていた。」


 ガリバーはアリアドネの前で立ち止まると、まっすぐ杖を向けた。


「こんな戦いは久しぶりだった。改めて出てよかったと思っている。


―――貴女に最大級の感謝を。」


*****


「ヒューム君、急いで!アリアの右手、治療して!」

「分かってる!だけど、この怪我はまずい……。魔力回路が完全に断たれてる。まずは魔力回路を繋ぎ直さないと治癒魔術の効果がない。」

「教会の人は!?私達だけじゃ手が足りないよ!治癒魔術が使えない以上、ヒューム君が魔術回路を繋げている間に筋肉、神経、血管、血液の補充をしないと!」

「教会の人はまだ魔術学院の生徒の治療をしてるって!」

「くっそ、ただでさえ治癒魔術の分解は難しいのに……!」


 王立セントリア学院の控え室に意識を失ったアリアドネが運び込まれてきた。大怪我を負った上に、魔力切れまで起こした状態であった。ただ大怪我しただけであれば、体内を巡る魔力が自然と治癒、或いは現状の維持を無意識下でも行うが、それも望めない。最も魔力があったとしても魔力回路その物が絶たれてしまっているのだが。


 そのために、魔力回路に治癒術式の乗った魔力を流し込むことで体を治す従来の治癒魔術は使用できず、魔力回路そのものの修復を行う必要がある。そしてその間にもアリアドネの右腕は無防備にさらされているため、効果が薄いが直接治せる古い形の治癒魔術を常にかけ続けなければならない。


「……テル=ガーディ。あなたならアリアドネ先輩の治し方を知ってたりしませんか?去年の順位戦ではよく腕や足を落としていたようですが。」


 その様子を遠巻きに眺めながらアリスがテルに話しかけた。


「無茶を言うなよ。斬り落とされたのと焼き尽くされたのじゃ、話が違いすぎる。それに俺は自分のことしかできない。」


「そうでしょうね……。では次をお願いします。」


「ああ、直接的な付き合いがあったわけじゃないが、先輩の仇を取ってくる。見たところ魔術は無理でも剣なら攻撃が届きそうだからな。」


 剣を腰に下げ、治療の邪魔をしないように静かに部屋を出ようとしたテルだったが、その前に一つの影が立ちふさがった。


 その生徒は声一つ発さず、ただその身が発する迫力だけでテルをその場に押しとどめた。


「アリス王女殿下に申し上げる。次の相手を我が側近に任せてはいただけないか。」


 マクスウェルがアリスへと話しかける声がテルの耳に届いた。膝こそついていないが、そのまなざしは指揮官に意見をする軍師のようであった。


「……学院順位12位、リネック=ノーチラスですか。理由を伺いましょう。」


「はっ。我が側近は、魔術はからっきしですが、剣術においては学院で横に並ぶものはいないと考えております。先の戦いを見るに、相手はまだ何か隠していると予想できるため、魔術の使えぬリネックを次に出して情報を探り、魔術剣術双方に長けたテル=ガーディはまだ温存した方がよいと考えます。」


 マクスウェルの口から出た作戦は、平民の生徒から手柄を奪い取るような形で聞こえるかもしれない。だが、その実態は自分の側近の敗北を半ば確信しながら戦いに向かわせるというものである。より確実な勝利のために、マクスウェルは自分の大切な側近を差し出すことを提案しているのである。


「……一理ありますね。さすが常勝無敗のボナパルト家です。その考えを採用しましょう。」


 当然そのことを理解しているアリスはその意図には触れずに提案を了承した。


「そういうことだ、テル=ガーディ。今回は譲ってもらおう。」


「……生徒会長がいいというなら、俺に断る理由はないですね。どうぞ、任せます。俺はアリアドネ先輩の様子を見ています。」


*****


「……すまなかったな、テル=ガーディ。お前の手柄を奪うような真似をして。」


「別に構いません。勝てるのであれば、それが俺である必要はないでしょう。そもそも、俺が出たところで勝てるかどうか分かりませんし。」


「言い訳をするわけではないが、俺はお前のことを買っている。王女殿下さえいなければ、それ以外の貴族を抑えてお前が主席になることを確信している。」


「……確かにこのままいけば、俺は来年次席になるでしょうね。そんなうまくいくとは思えませんが。」


「謙遜するな。この戦いも、アイツに勝てるとしたらもうお前しかいない。リネットには申し訳ないが、おそらく勝てないだろう。」


「……」


「アイツは普通の神殿師ではない。おそらく加護が俺たちの認知の中にはないのだろう。先のアリアドネとの闘いにおいても、不可解な動きがあった。」


「それは、あの杖で攻撃を仕掛けた時ですか?」


「そうだ。あれは間違いなく当たっていた。反撃も防御も間に合わない、素晴らしい攻撃だった。だが、次の瞬間には完全に回避されていた。直後のアイツの様子からして、アイツ自身が意図してやったことでもないのだろう。」


「……」


「今回の戦いはよく見ておけ。リネックも自らの務めに気づいているはずだ。リネックがアイツの加護に関する情報をできる限り引き出す。それを使ってお前はアイツに勝て。分かったな?」


 マクスウェルが言った通りの試合運びになった。リネックが剣術のみでガリバーに向かっていった。アリアドネが引き出した通りに、ガリバーの減退と増進を刻み込んだ魔法陣は物理攻撃に効果はないようだった。


しかし、だからこそ、ガリバーの動きの不自然さが如実に表れた。ガリバーの魔術のキレを疑うことはないが、それ以上にリネックの動きの方が洗練されていた。魔術を斬り裂き、まっすぐ接近戦を仕掛ける様は、歴戦の剣士を彷彿とさせた。しかし、そのリネックの攻撃は一度も当たることがなかった。


計12回。リネックの剣がガリバーを捉えていた回数だ。そしてこれはその異常が起こった回数でもある。その後、反撃として打ち出された魔術にリネットの防御が間に合わず、勝負がつくこととなった。

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