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いずれ最果てへ至る神殿師  作者: きりきりきりたんぽ
第二章 神殿祈祷祭編
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魔法陣の真価

「ほお。なかなかにやるじゃないか。他所にも理解が深い生徒がいるとはな。あの相手の名前は何と言ったか。」


「アリアドネ=レインだろ?ガリバー。」


「レインというと貴族か?共同研究をしたかったが少し厳しいか。」


 場所は変わって予備研究所の控室。ここは他の学校とは少し違う雰囲気に包まれていた。同級生を応援するでもなく、しかしただひたすらに目を対抗戦に向けている。その目は観客というより研究者のそれだった。


 そう、彼らはこの学院対抗戦というものをただの研究の機会としか捉えていなかったのだ。他所の学校の優秀な生徒による加護や魔術の行使を見ることができる。それだけで彼らには十分だったのだ。


 そのため、代表選手の半数は記録係として控えており、実際に戦闘に参加するのは残りだけである。


「彼女の学院順位は確か3位だったよな?もう少し彼女の戦いを見てみたい。」


「分かった。誰にする?」


「もう一つくらい加護を使わせたい。おそらくさっきの戦いは一つしか使ってないはずだからな。人選は任せる。」


「分かった。オレン、次はお前の番だ。」


 ガリバーの側に控えていた男子生徒が一人の名前を呼んだ。


「見ての通り相手の得意属性は水のようだ。炎属性の研究をしているお前に任せる。勝てとは言わない。加護を使わせ、戦闘を長引かせるんだ。」


「言われなくても分かってるよ。その代わり記録はしっかり頼むよ?」


「当然だ。お前の試合だけじゃない、すべての試合の記録をしている。終わったら研究をしないとな。」


「考えただけでワクワクしてくるぜ。そのためにもちょっと頑張ってくるよ。」


*****


「王立セントリア学院、アリアドネ=レインと予備研究所、オレン=バーンの対抗戦を始めます。


 ―――それでは、はじめ。」


 第二回戦が始まった。アリアドネの次の対戦相手として出てきたのは赤い髪の生徒。燃えるような赤い髪から分かるように、彼はペンタゴン神殿と契約している火属性の扱いに長けた人物なのだろう。


 試合開始の合図とともに両者が魔術を発動させる。


アリアドネは先ほど同様に魔力から生成した水を裁断の間の中に解き放ち、それを浮遊させている。


 対してオレンはその場にゆっくり座り込んだ。そして地面に掌を付けると小さく呟いた。


「―――延炎熱海、起動。」


 直後、オレンを中心に半径五メートル程の五重の魔法陣が浮かび上がった。そこに込められた魔力量を象徴するように煌々と輝く魔術式が魔法陣に刻まれていく。


「!」


 その様子を見ていたアリアドネは即座に攻撃に切り替えた。空中に浮かべていた水をオレンの方向へ高速で動かしつつ形状を鯨に変え、一回戦と同じように飲み込もうとした。


 しかし。


 直後その水鯨はその全身から激しい音を立てながら消えていった。突如発生した高熱の魔術にその全身を蒸発させられたのだ。


 スプリンクラーのように水が降ってくる中、オレンは体勢を一切崩すことなく煌々と輝く魔法陣の中心に座っていた。


「ふう。危なかった。さっきの対抗戦を見れてなかったらと思うと肝が冷えるね。」


 オレンはにやりと笑みを浮かべながらそう言ってのけた。


「ねえ、あんたさ、さっきの対抗戦で一切魔術を使ってなかったでしょ?」


 しかも対抗戦の最中であるというのにアリアドネに話しかけてきた。


「答えると思いますか?」


 アリアドネは表情を一切変えずににこやかに返す。


「いや、別に答えなくていい。ただ言いたいから言っているだけだから。でもこの結果を見た感じ俺の予想は間違ってなかったのかな。」


 ―――揺さぶり、ではないようですね。


 その目は謎が解けた子供のような輝きをしており、動揺を誘うような心理戦の類ではないことをアリアドネは察した。


「……そうです。私はただ魔力を水に変換して出力し、それを加護で操っていただけです。なので魔術と異なり攻撃性は一切なく、ただ水としての性質を利用していただけです。」


「やっぱり?ほらこの水蒸気の感じも少し違うんだよ。水属性魔術の蒸発は見た目の水よりもかなり小規模になるんだけど、今回はこの裁断の間を覆う位の規模になったし。」


 褒められた子供のように自慢をしてくる対戦相手を前にアリアドネは内心躊躇いを感じながらも、自分の感情よりも使命を優先した。


「ふふふ。そうですね。あなたの予想は正解です。ですが、今回は勝負です。申し訳ありませんが、おしゃべりはここまでといたしましょう。


 ―――加減はなしです。」


 アリアドネは腰から杖を取り出してそれをまっすぐにオレンへと向けた。直後、彼女の背後から複数の水流が放たれた。


「アクアロード。」


 それは裁断の間の空を駆け、四方からオレンに襲い掛かった。攻撃魔術ではないことに違いはないが、その圧倒的な質量は当たれば無傷では済まないだろう。


 だが、その攻撃はオレンの魔法陣の外郭に触れた瞬間に侵攻を阻まれ、ついさっき聞いたような爆発的な音を放ち始めた。


「無駄だよ。俺の延炎熱海は炎と言うよりはその結果生じる熱を操る加護なんだ。水じゃただ蒸発されて終わりだよ。」


「アクアランス。」


 オレンの声を無視してアリアドネはアクアロードを維持したまま攻撃を追加した。しかもそれはただの水ではなく、水属性魔術である。


 アクアロードに隠れる形で放たれたその魔術はまっすぐとオレンの魔法陣へと到達した。


 しかし、外郭こそ突破したものの四層目の魔法陣で遮られ、水蒸気へと変わった。


「無駄だって。この魔法陣は俺の加護と魔術の研究の集大成なんだ。水は当然、それ以外の攻撃だって通しはしない。


 ああ、そうだった。これは対抗戦だったもんね。こっちからも攻撃させてもらうよ。」


 オレンは人差し指をアリアドネに向けると、短く呟いた。


「バン!」


 オレンの指先から炎の光線のようなものが放たれた。それはアリアドネに当たる前に一瞬歪曲したアクアロードに飲み込まれたが、相殺しきることはできずアリアドネの足元に突き刺さった。


 それが意味するのはアリアドネにはオレンに攻撃を当てる手段が存在せず、オレンは一方的に攻撃ができるという構図だった。

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