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いずれ最果てへ至る神殿師  作者: きりきりきりたんぽ
第二章 神殿祈祷祭編
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学院3位

「ふう。慣れないことはするものじゃありませんね。」


 傍聴席に帰ってきてすぐにアリスは疲れたように呟いた。


「それよりも申し訳ありませんでした。咄嗟のこととはいえ、あなたに悪役になってもらってしまいました。」

「ああ、別に構わない。それにそもそもあれしか方法はなかっただろ。」


 感情的にも規則的にもこの場に居合わせた全員が納得する落としどころを探る。そして妥協点としてそれを引き出すというのはやはり難しいだろう。


「でも俺たち以外にも出てくる人間がいるとは思わなかったな。ガリバー、だったか?」

「ガリバー=ディータ。予備研究所ストイックの首席研究員です。具体的なことは私も知りませんが、かなり行動的な研究員らしく、加護を魔術の知見は同年代で誰よりも深いと自負していましたね。」

「そうなのか。」


 テルの脳裏には先ほどの騒動で見たガリバーという男の姿が浮かんでいた。深い青の瞳の奥には大海の如く大きな好奇心があった。


それはおそらくテルの現れ方に起因するものだろう。あの不思議な感覚はテルからしても説明できるものではないが、周囲から見ても特異に見えたのは否定ができない。


「……あなたに使った加護は私の加護ではありません。王家に代々継がれる世界を救う加護です。なので具体的なことは話せません。」

「別に気にしない。王侯貴族家に伝わる魔術や加護の秘伝や奧伝と呼ばれるものみたいなんだろう?」

「そうですね。あとそれに加えてあなた一人の力ということにしてもいいですか?」

「……なるほどな。安心しろ。俺は誰かの加護を吹聴することはしない。」


 アリスが言外に口外しないでくれと言っているのをテルは察した。当然のことだと思ってすぐに了承したが、しかし小さな疑問が残った。


 ―――俺の性格を知っているアリスがそんなことをわざわざ頼んでくるのか?


*****


「第二試合、王立セントリア学院と予備研究所ストイックの対抗戦を始めます。代表者は前に降りてきてください。」


 対抗戦の開始を告げる助祭の声が響いた。


「それではアリアドネ先輩。よろしくお願いします。」


「もちろんです。露払いは私にお任せください。」


 王立セントリア学院の先鋒はアリアドネ=レイン。四大公爵の内の一つ、シャーウッド家の側近の家系であるレイン家の彼女は学院順位で3位の実力者だ。普段はマリナ=シャーウッドの従者として過ごしていることが多いが、その実力は折り紙付きである。


 制服に身を包んだ彼女は水色の髪をなびかせ、堂々とした所作で裁断の間に現れた。


 対するは眼鏡をかけた一人の男子生徒。ボサボサの黒い髪の毛を掻きながら現れた彼はどこかおどおどした様子で立っている。


 正反対の印象を与える両者の間に立った助祭は静かに対抗戦開始を告げた。


*****


「テル=ガーディ。今回はしっかりと見ておいてください。もしかしたら次に出るのはあなたかもしれないんですから。」


 再度剣の柄に手を伸ばしかけていたテルは突然の声に体を硬直させた。声の主は言うまでもない。


「……分かったよ。それに別に見たくないわけじゃない。」


「そうなんですか?」


「ただ居心地が悪かっただけだ。」


 彼の周りにいるのは同級生ではなく先輩。しかも学院順位というものを奪い合うライバルのような存在。そんな生意気な後輩とは仲良くしたいと思われていないだろう。


「そんなことは別にいい。それよりもあの相手生徒、きょどってた割にはいい動きをするな。」


 テルの視線の先には流麗な水属性魔術を使う先輩ではなく、その攻撃をしのぎ切っている相手生徒に向けられていた。


 確かにアリアドネの水属性魔術はとんでもない練度である。水を塊として空中に浮遊させ、それを時間差で攻撃魔術に変化させている。


「そうですね。アリアドネ先輩の加護は三つ全てが水属性魔術の強化だったはずです。水属性魔術のみであれば、学院最強といってもいい彼女の攻撃をここまで避けるとは。」


「……そうだったのか。3位は伊達じゃないな。」


 アリアドネの対戦相手だってまったくもって弱くない。魔術と加護の研究を重ね、それを実践に応用できるレベルにまで磨き上げている。アリアドネの多彩な攻撃を最小限の結界魔術で防ぎきっているのもその賜物と言えるだろう。


 だが、裁断の間を動き回っている彼に対し、アリアドネは開始の位置から一歩も動くことなく魔術だけで追い詰めている。確かに予備研究所の代表生徒はアリアドネの攻撃を全て躱していた。しかし、あまりに一方的な展開であり、勝負は時間の問題だった。


 そしてとうとうアリアドネの攻撃が相手生徒を捉えた。空中を漂う水球が突如として鯨の形状へと変化し、その水でできた体内に飲み込んだのだ。


 飲み込まれた生徒は呼吸を封じられた中でも諦めていなかった。詠唱ができないために魔力を練って魔法陣を媒介に炎の魔術を放つ。しかし、それは鯨の身体を穿つことはなく、ただ水の中で消えた。


「勝負あったな。是非とも戦いたくない相手だな。」


 テルの口から思わず感想が漏れた。アリスが隣に立っていたという油断もあったのだろう、消極的なそれはまさしく本音であった。


「そりゃそうだよ。アリアは私のたった一人の侍女なんだから。」


 しかし、それに反応したのはアリスではなかった。テルの隣に座っているアリスの反対側に座ったその生徒はテルの耳元でそう呟いた。


 音が出そうなスピードで振り返ったテルの視界に映ったのは群青色の猫のような細い瞳だった。しかし片目は何か怪我でもしているのか眼帯で覆われている。


「……突然なんですか?マリナ先輩。」


「あれ?驚かないんだ?気配は消してたつもりなんだけど?」


「どんなに消してても何回もやられれば分かりますよ。」


「……それもそっか。生意気になったもんだね、テル。」


「先輩の後輩になってからそろそろ一年になりますからね。嫌でもなれます。」


 マリナ=シャーウッドはネル=ガーネットと同様にテルと同じ研究室に所属している、直属の先輩である。テルが貴族が多いセントリア学院で堂々と過ごせているのは、アリスだけでなくこの先輩のおかげでもあるのだ。


「そっか。でも、なんかごめんね?」


「何がですか?」


「確かテルはここで出る予定だったよね?でも、アリアが出た以上テルまで回ってくることはないよ。ね、アリス。」


 突然話を振られたアリスは小さく咳払いをすると口を開いた。


「まあそうでしょうね。今の状態でおそらく加護はまだほとんど使ってないのでは?」


「正解。アリアはまだ一つしか使ってないよ。しかも最初に授かった加護、水体制御だからね。」


 加護の共通した特徴として文字数が少ない方が強力である傾向にある。実際多くの神殿師の最初に授かる加護は四文字で、その次は三文字、そして三つ目が二文字へと減っていっているのだ。


「水体制御、ですか。それは文字通り水の形状を操作する加護だと思って間違いはないんですか?」


「そうだよ。だからアリアは今の戦いで魔術すら使ってない。ただ魔力を水に変えて出して、それを加護で操っていただけ。」


 その話の最中に予備研究所の一人目はリタイアし、勝利を告げる声が響いた。その瞬間に少し離れたところにいた先輩たちの歓声が上がった。


「もし全力を出したアリアが負けたなら、それはこの学院の敗北を意味するといっても過言じゃない。相性的にその相手に私は勝てないし、その時点で今の四年生に可能性があるのはマクスウェルだけになる。

 それかテルとアリス、あなたたちね。期待してるよ?」


 そんな歓声に隠れるようにマリナは呟いた。

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