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いずれ最果てへ至る神殿師  作者: きりきりきりたんぽ
第二章 神殿祈祷祭編
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様子見

「―――なさい、テル=ガーディ。起きなさい。」


 深い集中の中にいたテルはその声でゆっくりと意識が浮かび上がる。


 一体誰が?と思いながら抜き身の剣を戻すと目の前にはさっきまでいなかった生徒会長が立っていた。


「生徒会長か。何か用か?」


 周囲の上級生からの視線を感じながらも応えると生徒会長はその美しい笑顔をより一層深めながら口を開いた。


「対抗戦を見なくてもいいんですか?もしかしたら戦うかもしれませんよね?」


「別にいいんじゃないか?誰が相手でも俺がすることは変わらない。」


 ―――ただ空飛んで雷撃で攻撃すれば勝ちだしな。


 飛行と雷撃。同時併用ができないほど強力な加護であるが、使い方さえ考えれば疑似的に同時併用することもできる。例えば空中で飛行を一時的に切って、自動落下中に雷撃を使う。そして雷撃を使い終わったらまた飛行を発動させるといったように。


「聞いたか?することは変わらないってよ。」

「結構な勝利宣言ね……。」

「あー、俺も言ってみたいわ。口が裂けても言えんけど。」


「まあ、あなたならそうかもしれませんが。ですが、どうやら様子がおかしいようですよ。」

「……確かに。」


 熱狂とは言わずとも、興奮状態にあってもおかしくないはずだが空気があまりにも静かだった。それどころか何かに怯えているような、熱狂とは正反対の感情が傍聴席を占めていた。


「すいません、何があったか教えてもらってもいいですか?つい先ほど戻ってきたばかりで事態を把握できておらず……。」


 生徒会長はテルのことを使い物にならないと判断したのか、近くに立っていた先輩の方へと向かっていった。


「ああ、お仕事お疲れ様です。そうですね、あの養成学校の代表選手、ノスター=ジョックがボーダー魔術学院に一人で四連勝しているんですよ。」

「……なるほど最初から切り札を切ってきたということですか。」

「それはそうなんですが、その勝ち方が問題でして。魔道具師の腕を斬っての勝利だったのです。」

「「ッ!?」」


 魔道具師への直接攻撃は禁止という暗黙の了解があったはず。現状を聞いた三年生二人に衝撃が走る。


だが同時にそれがルール違反ではないことも理解していた。なにせそれは明文化されたものではないからだ。あくまでそうあるべきという信念の上で成立していたものである。


「なるほど。それはいけませんね。助祭様は止めなかったのですか?」

「はい。やはりルール上問題はないということなのだと思います。ただ、何も感じていないというわけではなさそうですが。」

「そうですか……。ありがとうございます。」


 もらった情報への感謝を告げると生徒会長はテルの近くへと戻ってきた。


「聞いていましたね?この対抗戦でも同じことをするというなら、王女として少し手を打たねばなりません。」

「王女として、か。一体何を考えているんだ?」

「魔道具師への直接攻撃はさせません。でも対抗戦をただ中断させるわけにもいきません。できれば彼が危険行為に走る直前に止めたいのですが……。」

「そんなの無理だろ。ここからあそこまでどんだけ距離があると思ってんだよ。」


 接近戦であっても相手の剣を受けきるというのは捌く次に難易度が高い。基本的には逃げるのが正解なのだから。


「いえ、私が手を貸します。そうすればテル、あなたならきっと間に合うでしょう。」

「断絶でか?あれってそんな使い方もできるのか?」

「いえ、もう一つの方ですね。これはできれば使いたくはありませんが、仕方ありません。……そろそろ決着がつきそうですよ。合図とともに全力で駆けだしてください。」

「……ああ、分かった。深くは聞かないでおく。」


 生徒会長は大きく息を吐くと、目を閉じた。


「―――行きなさい。」


 その声は声の大きさからは考えれないほど響いた。そんな声に後押しされるようにテルがその体を力の限り動かした。


 直後、彼はこれまで感じたことのない感覚に襲われた。言いようのない不安感に思わず振り返りそうになったが、彼は彼女の言葉を信じていた。


 走馬灯が走る瞬間のように、体感時間が引き延ばされていく。だが、それとは裏腹に体は思ったように動いてくれる。


 ―――そうか。不安感の正体はこの時間差か。


 意識と肉体の間に流れる時間に差が生まれる。しかも肉体の方が早い。思考を始めた瞬間には体が動いており、脊髄反射よりも早いスピードでそれは行われていた。


 ―――いや、今はこれでいい。纏雷・一足。


 戸惑いが生まれかけたが、それを即座に拭い去る。思考が完結した時には彼の身体は空中で居合いの型を整え、両足は空を踏み込んでいた。次の瞬間には彼の肉体は弾かれるように爆発的な推進力を得て直進していた。


 振り下ろされ始めた剣の前に体を滑り込ませると、金属同士がぶつかる甲高い音が耳に届いた。


 ―――そういえば音も消えていたな。


 そんなことを考えている彼の前には無表情の中にも驚愕を浮かべる男子生徒の姿があった。


 しかし、その顔はすぐに嗜虐的な笑みに変わっていった。そして嬉しそうに、でもどこまでも平坦な声で呟いた。


「テル=ガーディ。それにガリバー=ディータ……!」


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