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いずれ最果てへ至る神殿師  作者: きりきりきりたんぽ
第一章 王立セントリア学院編
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デュラン=アークという男

「……はぁ。」


 俺は授業が終わった後の講堂で一人大きな溜息をついていた。三年生になったこともあり、必修の授業はなく、取りたい授業のみを取れるようになったのはありがたいが、その分空きコマが生まれるのは正直しんどい。特に一コマだけだと研究室とか図書室に行っても満足に研究ができない。まったく、なんでこんな融通が利かないのやら。

 それに今朝声をかけてきた後輩のこともあるしな……。


「そんなでけぇ溜息つくなんて、なんかあったのかよ?」


 緑色の短髪の男がひとつ前の机に腰を掛けながらそんなことを聞いてきた。


「ああ、デュランか。……いや、暇だと思ってな。次が空きコマなんだよ。」


 デュラン=アーク。俺が一年生の頃から組んでいるパーティーメンバーの一人だ。ルカもその一人だが、俺以外で唯一の男のメンバーということもあり、それなりに仲は良い。


「なんだ、お前もかよ。なら修練場行こうぜ。剣を振って汗でも流そうじゃねぇか。」


「修練場……。いいだろう、今日こそボコボコにしてやる。」


「はっ!言ってろ。まともに剣を振り始めて三年も経ってないお前に抜かれたら親父に殺されるわ。」


 同級生とは思えないほど体格のいいデュランと共に講堂を出た。


 学院の廊下は授業間の休憩時間ということもあり多くの生徒でにぎわっていた。次の授業のある教室へと急ぐもの、寝起きの目をしばたかせながらボーっとしているもの、一人ノート片手に歩くもの、集団で話しながら移動するもの。

 俺はいつもボーっとしながら歩ていた気がする。今は違うけどな。


「おお、デュラン。今度また剣を教えてくれよ。」

「あ?別にいいけどよ、少しは自分で鍛えようとしろよ。」

「分かってるって。これでも空き時間に剣振ってるんだぜ?」

「そうかよ。ならいいんだけどな。」


「あ、デュランじゃない。今度またおいしいお店教えてよ。」

「あ?もう十分教えたじゃねぇか。あとは自分で探せよ。」

「いいじゃない。あなたに聞けば外れはないんだし。」

「仕方ねぇな。気が向いたらな。」


 ……あれ?もしかして今も一人か?


 デュランに話しかける同級生はいるのに俺はまるで空気みたいだ。……まあ空飛べるし空気みたいなもんか。お前らは地面に吸い付けられてるもんな。かわいそうに。


「ったく、調子のいい奴らだぜ。何でもかんでも聞いてきやがって。」


「嬉しそうだな。その強面でニヤニヤしてると犯罪者みたいだぞ。」


「なんだよ、妬いてんのか?」


「は?寝言は寝て言え。そんな妄言抜かしてると加護も使うぞ。」


「使うな使うな。お前が加護まで使い出したら俺一人じゃ止められねぇよ。しかも修練場も壊れるわ。」


「それもそうだな。もう生徒会長に睨まれるのも嫌だしやめとくか。」


「それはもう手遅れだから諦めろ。」


 そんな軽口を叩いていると修練場にたどり着いた。講堂が詰まっている本校舎から離れた場所にある修練場にはあらゆる武芸に適した環境が整備されている。剣、槍、弓、斧などの武器や、炎、氷、風、闇、光の攻撃魔術、そして数は少ないが攻撃と一体になった加護の訓練等、全ての研究、修練ができる。


「さて、じゃあ早速始めるか。」


「おう。かかってこい。」


 そんな中の一室、木板が敷き詰められた道場で俺とデュランは木刀片手に向き合っていた。今の時間帯に剣を振ろうという酔狂な人間はいないようで、二人しかいない。これなら多少の無茶は大丈夫そうだな。


 大きく一歩踏み込むと勢いよく距離を詰めた。デュランも当然反応してくるが、攻撃を仕掛けた俺の方が少し早い。

 木刀同士がぶつかり、乾いた音が道場に響く。


「相変わらず速いな。」


「うるせぇ。だったら少しくらい隙見せろよ。」


 図体からは考えられないほどの繊細な攻撃を躱し、反撃を入れる。だが、当然のように受け流され、捌かれる。デュランは防御と反撃、回避と攻撃が恐ろしいまでに一体となっている。手数メインの攻撃も威力メインの攻撃もどちらもデュランの前では意味を為さない。

攻防一体、まさにその言葉を体現している。


 だが、本人からしたらまだまだのようで、長期休暇の間に実家に帰ると父親にしごかれるらしい。何言ってんだよ、ふざけんな。お前の父親バケモンかよ。


 十分後、俺は道場で大の字になって倒れていた。


「はぁ、はぁ……。負けた、また負けた……。」


「くはは。でもやっぱりお前と戦うのは良いな。誰と戦うのよりも実戦的で面白い。それに教えてて楽しいしな。」


「うるせぇよ。だったら一回くらい勝たせろよ。」


「ダメだ。もし親父にばれたら本気で殺される。」


「クソがよ……。」


 そうだった、そういえばこいつの父親って確か王都最強って名高い近衛騎士団の団長だった。まじもんのバケモンだったわ。


「加護あり魔術ありでやったらお前に勝てないんだからよ、これくらい勝たせてくれや。」


「……まあ、しょうがないか。でも追い越すからな。」


「おう、頑張れよ。……で、何かあったのか?」


 少しドキリとした。労うようなことを言いながらも憎たらしいくらいのいい笑顔をしていたが、突然真面目な顔をされたから余計に。


「何が?」


「別に空きコマがあるなんて今年に限ったことじゃねぇだろ。なのにあんなボーっとしやがって。なんかあると思うのが人情ってもんだろうが。」


「……勘のいい奴め。」


なんで何も言ってないのに気付くんだよ。気持ち悪いな。


「くはは。これでも友達だからな。で?何があったんだよ?」


 友達が多いのはきっとこういうところからくるんだろうな。ふざけやがって。まあ別にこれ以上友達はいらんがな、はは……。


「後輩に魔物討伐の監督を依頼されてな。どうすればいいものかと思ってな。」


「あー、なるほどな。要はお前の戦い方が後輩の参考にならないどころか悪影響を与えちゃうんじゃないかってことか。」


「そうだ。俺たちの監督官がそうだっただろ。」


 俺たちの時の監督官だった上級生は、当時俺たちが使えない神殿の召喚を普通の顔をして使っていた。自分の身の丈に合わないことを目に前でされても得られるものなど限られている。

 それは今回のケースでもそうだ。俺は神殿を使えない。だから魔術と加護、剣術とかでそれを埋めるしかなかった。その結果が今の俺であって、神殿を使えていたらそもそもここまで魔術を磨いたりする必要はない。

 あの後輩、ダミアンはもう既に神殿の召喚とその加護を引き出すことができている。となれば今求められているのは俺の邪道のような戦い方を新しく知ることではなく、神殿とのリンク率を上げることで神殿師としての能力を上げていく、まさに王道のような戦い方をより深く、より実践的に知っていくことのはずだ。

 まあそれなりに実力がある分、新しいものに惹かれるというのもわからないこともないが。


「確かに後輩のためにならなねぇなら引き受けねぇ方が良いだろうな。」


「やっぱりそうだよな。断っておくか。」


「だがよ、後輩が先輩に声をかけたんだぜ?どんな後輩であれ、それには勇気と不安がないとできないことだ。それには応えてやってもいいんじゃないか?」


「……。」


 そんなことくらい分かっている。あのなけなしの勇気を振り絞ったであろう、不安に満ちた目。俺たちから逃げるようにして離れていったのもその表れだろう。


「それにお前は自分の戦い方を邪道だとか我流だとか言ってるが、そんなことはない。俺からしたらお前の方が基本に忠実な面、正道だと思ってる。魔術を磨き、剣術を鍛え、加護の解釈を深める。神殿師としてのまさにあるべき姿だ。

 それにもしかしたらその後輩のパーティーにはまだ神殿を召喚できないやつもいるかもしれねぇだろ。ならお前の戦い方の方が参考になるまである。」


 ……一理ある。というかその通り過ぎる。


「逃げんなよ、親友。お前が強いのは俺が一番知ってんだからよ。」


 逃げ、か。確かに逃げてただけだな。後輩のためとかくだらないことを言って逃げていただけだ。実際後輩のためを思うのであれば、どんな可能性であっても示すべきだよな。俺みたいに神殿を使わない戦い方であっても。


「……そうだな。あいつと向き合うとしよう。」


「そうしろ。お前のためにもなるだろ。」


「だが、それならお前も来い、デュラン。後輩のためには神殿を使った戦い方も示してやるべきだろう?」


「え?」

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