前夜
前夜祭の喧騒に包まれる王都内を普段はあまり見かけない制服に身を包んだ学生が闊歩している。
「特例中の特例だそうだな。モンスターフェスティバルの危険期間だからって希望者以外は外に出されるなんていうのは。普段は外出許可証がなければ学院外に出ることすらできないのに。」
「なんでも生徒会長がごり押ししたそうだ。生徒の中から徴用するほどの危険事態ならば、生徒を学内の残らせるなんてできないって。」
「さっすが私達の生徒会長だね。私達のことをしっかり考えてくれてる。」
「そうだな。特に俺たちは研究や魔道具開発を習っているっていう時点で戦闘能力はほとんど皆無だからな。もし魔物が学院内に入り込んできたらそれだけで死んでしまう。」
そう。王立セントリア学院は神殿師としてだけでなく魔道具師や研究者としても門戸を開いている。当然彼らは学院順位戦に出場することは滅多にないが、その代わりに彼らの研究や魔道具によってはそれぞれ学院から報酬が出るのだ。例えば単位であったり賞金であったり、最優秀に認められたものには独自の研究施設、工房を持つことが許される。
「おっ、あそこにも魔道具が売られているぞ。全部あまり見かけないものばかりだ。」
「ほんとだ。おもちゃみたいな感じで売られてるけど、……これどんな仕組み何だろう?」
「魔力伝導率が恐ろしいほど高い。……なるほど、これまでは研究室で研究することがすべてだと思ってたが、どうやらそれは間違いだったようだ。」
「ね。研究時間が短いアイツがなんで最優秀取れたのか不思議だったけど、どうやら原因はこれらしいね。」
「あ、おい。あっちにもまだまだあるぞ!露店がたくさん並んでる!」
「あ、ちょっと待てよ。まだ見てる途中だ。」
「じゃあ見てればいいじゃん。私はあっちに行ってみる。」
「じゃあ一端解散な。また後でどこかで落ち合おう。」
「それにしても、危険だっていうのになんで学院内に残るなんて選択をするんだろうね?死にたいのかな?」
*****
場所は変わって学院の西門前。そこには仮設のテントが多く建てられ、その中でも一際大きいテントが一番手前に陣取っていた。
「いよいよこの日が来たか。」
「はい。最高司祭殿がおっしゃっていた予言の日です。」
その中には騎士団の参謀役と冒険者ギルドの事務が一緒に詰められていた。広いテーブルの上にはバンドラッシュの森の地図が広げられ、モンスターフェスティバルに向けた作戦が練られていた。
「大枠は例年通りだったよな。」
「はい。彼我の差が大きければ大きいほどそれを埋められる作戦は限られますから。」
彼らが立てた作戦は以下のとおりである。
冒険者と騎士団の連携は取れないものと仮定し、それぞれの戦場を北西部と南西部に分ける。陣形はちょうど三角形を半分に分けたような形で取り、その最前線をそれぞれの主力が担う。あくまでそこでの狙いは魔物の討伐ではなく、勢いを殺すことである。そして真西方面はあえてスペースを作っておくことでそこに魔物を導き、北西と南西からの挟撃、もしくは西門前に配置している騎士団の部隊と合わせ三方向からの撃破を目指す。
「それで学生はどれだけ集まったんだ?」
「合計三百名ほどですね。そのうち実際に戦闘に出られるのは百名ほどで、それ以外は後方支援ないしは治癒魔術要因として後方待機ですね。」
「そうか。だが、今日は前夜祭だろ?そっちの方に強い生徒は出ちまってたりはしないのか?」
「出ているでしょうね。おそらくすべての学校の上位十数名はこちらではなく前夜祭の方へ出ているはずです。」
少なくとも彼の妹はそちらに出席しているはずであった。
「マジかよ。タイミング悪いな。……あれだけ言った俺が聞くのも申し訳ないんだが、実際戦力としては加算できそうなのか?」
「……期待は薄めですね。生徒によっては地の利があると言えど、彼らはまだ学生です。基本的な能力が騎士よりも高いはずもなく、練度もやはり騎士の方が上と言えるでしょう。そのため、一番安全にできる西門前に学生は配置し、そこに魔物ができる限り行かないようにします。
……王都は年に二度しかない祭りの最中なのです。気づいたらモンスターフェスティバルも終わっていたと思わせられるように戦いましょう。」
神殿騎士団長のこの言葉の真意をその場にいる全員が気づいていた。つまり、モンスターフェスティバルの情報は一切王都に漏らさずに、鎮圧しきると。
たとえその言葉の裏に彼の妹への個人的な願いがあったとしても、それは民を導く王族として真っ当なセリフであり、決意表明であった。
そしてその後、日が傾いてきた頃に王国神殿騎士団団長とギルドマスターの元に凶報がもたらされた。それは奇しくも神殿祈祷祭前夜祭において、対抗戦が始まったのとちょうど同じタイミングであった。




