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いずれ最果てへ至る神殿師  作者: きりきりきりたんぽ
第二章 神殿祈祷祭編
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前夜祭・裏幕

 歴史において、大きな転換期が多数存在する。例えばそれは生物の大量絶滅であったり、もしくは著しい技術の進歩であったり。これまでを文字通りの過去にする、大きな変革である。その変革が生物によるものなのか、自然環境によるものなのかといった違いはあれど、しかしそのすべてにおいて共通することがある。その変革はたった一日、ともすればもっと短い時間で為されるものであるということである。ゆえにもしその日が歴史から消え去ったとしたならば、未来はまったく違うものになるのであろう。


 後世においてその日が今日であった。全てが始まり、終わった日とされるその日は朝から騒々しかった。


前夜祭が本格的に始まるのは正午からであったが、屋台や出店は朝から開店しており、王都民は本祭と合わせて年に二回しかない祭りの日を楽しんでいた。中央区にある神殿に参拝に行き、神殿統括府が主催するイベントに参加する。もしくは王都の各地に設置されている魔道具からそれを視聴している。イベントは演劇であったり、通常は入れない統括府の祈りの間での体験だったりする。


 そんな中で開催される対抗戦に出場する学生たちは統括府の中の待機室に学校別に集合している。実際に対抗戦が行われるのは神殿統括府の中にある裁断の間という所である。裁判の際に使われるそこは祈りの間に次いで広く、戦うにふさわしいほどである。


なぜ裁判に使われるだけなのにそれほどの広さがあるのか。それは被害者が決闘による判決を求めることがあるからだ。裁判は法に則ったものと神殿に預ける二つの手法から選ぶことができ、後者を選んだ場合に使われるのがこの裁断の間である。


「皆さん、おはようございます。本日は神殿祈祷祭の前夜祭です。正午に正式に始まり、対抗戦は最後のプログラムになっています。とはいえ、十五時には始まるのでそこまで時間的な余裕はありませんが。」


 王立セントリア学院に割り当てられた控室では参加者の前で生徒会長であるアリスが話始めた。


「例年であれば生徒会長が監督の立ち位置につきますが、本年度は私も出場者であるため少々ややこしいことになります。」


 生徒会長が学院順位上位十位以内に入ることはこれまであまりない。なぜなら生徒会の業務量が多く、鍛錬はおろか、通常の学生生活に費やす時間があまりにも足りないからだ。


 そのために一際忙しい生徒会長を務めながら学院順位四位につけている彼女は学院の生徒から後輩先輩限らず尊敬されているのだ。


「そのために私が全体の指揮を取り続けるというのはかなり難しいものとなります。なにせ選手と監督を同時に勤めなければなりませんからね。」


 誰が聞いても全うな意見である。選手兼監督を務めながら成果を出すというのは選手でしかの経験がない彼らには難易度の想像がつかないものである。


「しかし。だからと言って諦めるわけではありません。それどころか私は優勝を狙えると思ってこの人選を行いました。

 例年通り四年生で出場枠を埋めることも考えましたが、そうではなく結果を求めたからこそ、私は先輩方に諦めて頂き、学年に限らず上位十名のみを選抜するという決定を下したのです。」


 恨まれても構わない。彼女は卒業したのちより深い関係を築くであろうその先輩たちを敵に回したとしても、今生徒会長としてするべきを為したのだ。その冷酷さは為政者としては無くてはならない素質であり、そしてその年齢で持つにはあまりにも危うさを感じさせるものであった。


 その場に居合わせた学生、すなわち上位十名は一人を除いて全員が貴族の生まれである。それも高い位階に属する貴族である。そのために彼女が抱える葛藤に気付きながらもその末に下した結論に感心していた。


「……しかし、こんな偉そうなことを言っておきながらも私は生徒会長です。もしものことがあれば私は学院を守らねばなりません。」


 その時に脳裏によぎったのは一つの災害である。モンスターフェスティバルの知らせは当然学生であれば知っており、そして学生の中から希望者のみの徴用があったのも周知の事実であった。生徒会長である彼女が誰よりも早く参加を表明したのも。


「もしものことがあれば私は生徒の誰よりも前に立ち、戦わねばなりません。もし仮に生徒の中から死者が出るとするならば、それは私の後でなければなりません。

 そのため、もし対抗戦の最中にモンスターフェスティバルが発生し、魔物の群れが押し寄せたのならば、私は学院に戻り学生を守るために戦うこととなります。」


 生徒が感じたのは不義理への怒りではなかった。自ら義務を放棄することへの嫌悪でもなかった。ただただ、自らの使命に殉じるその覚悟への敬意であった。それは唯一貴族ではなかったテルにも伝わるほどのものであった。誰にでもできるわけではない、王族だからできるわけでもない、それを可能にする彼女の人間性に対する賞賛であった。


「……これからの話すのは恥を忍んでのお願いになります。王女としてでもなく、生徒会長としてでもなく、ましてや後輩としてでもない。ただの一人、アリスコット=フォン=セントリアからのお願いです。

 私は、私にできることをやりきったつもりです。もちろん不満はあるかと思いますが、私にできる精一杯がこれです。


どうか、私の身勝手を許してはいけないでしょうか。そして厚かましくも重ねて御願い申し上げます。この学院の名誉のため、どうか、皆さまの雄姿を生徒の前に持ち帰ってはいただけないでしょうか。」


 これまでの生徒会長としての、王女としての毅然な態度を崩し、ただただ頭を下げ、願い乞うその姿に衝撃受けた。そしてその場にいた生徒は全員がその少女の僅かな震えにも気づける人間であった。


 そのために彼らの答えはただ一つであった。

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