後輩
「随分とやんちゃをしたそうじゃないか?ここ一週間はその話で持ち越しだったそうだよ。」
「ははは……。恥ずかしい限りです。」
一日の授業を終えた俺は研究室にやってきていた。一週間ぶりに合うデイビッドは変わった様子はなく、元気に研究に熱中しているようだった。
「まったくだよ、ガーディ先輩。せっかく面白い事件が起こったと思ったら謹慎しちゃうんて。生殺しにもほどがあるよ。」
「……なんでお前もいるんだよ。」
「そりゃあ、私が先輩を一番尊敬している後輩だからね。先輩の行動は全て把握済みだよ。」
「こっわ。」
なんか怖いこと言っているこの後輩はネル=ガーネット。同じ研究室に入っている数少ない研究生の一人だ。そしてどうやら同じく平民出身らしい。
「それで何があったの?すごい戦ってたって噂は聞いたんだけど。」
「話せることは何もない。まだ口外禁止は解かれてないからな。」
別にネルが言いふらすとは思っていないが、さすがに同じ話を何度もするのは面倒臭い。またいつか別の時になら話してやろう。
「えーー!?別にいいじゃん!」
「ほらほらテルがげんなりしているだろう。どうせこれまで質問攻めにあってたんだ、その話はまた今度にしたらいい。
それよりも加護の研究はどうなったんだい?一週間も引きこもってたんだ、それなりに進展は会ったんだろう?私としてはそちらの方が気になるね。」
「……理論上はなんとか。この一週間で今度の前夜祭で使える程度には調整をしようかと思ってます。まあ、使うつもりはありませんが。」
ようやくこの一週間で三つ目の加護の特異性に気付けた。これは決して身体強化などではない。根本から性質が異なっている。
それに気付いてから研究が一気に深まった。たった一週間で理論上ではあるものの使い方はいくつか思いついた。
「ふむ。やはり身体強化系ではなかったんだね?」
「はい。……この加護は飛行よりも特異な性能を持っています。」
そして研究を重ねていくにつれ、大きな壁にぶつかった。その壁は試練としていずれは超えさせるために立ちはだかるものではなく、それ以上進むのを踏みとどまらせるためのものに感じた。研究の終わりを錯覚するほど高いその壁を前に俺は研究を止めた。
「なるほどね。じゃあ早速見せてもらおうか。場所を変えるよ。」
「はい。先生も解析の準備をしておいてください。」
この研究室は加護の研究という目的のために実験室が併設されている。物理面、魔術面共に学院内でもトップクラスの強度を持つ。初めて先生に加護を見せた時も実験室を使っていた。
「ちょちょ、ちょっと待った!」
移動を開始しようとしたところで不貞腐れていたネルが起き上がってきた。
「今のって雷撃?それとも飛行?どっちの話してたの??」
「いいや?どっちでもないが。……ああ、そうか。ネルにはまだ言ってなかったな。
三つ目だよ。つい最近授かったんだ。」
「えええええ!?」
*****
「お疲れ様。君はやっぱり異常だよ。授かって一月程度の加護をもうここまで使いこなすなんて。」
一時間後。俺は実験室の床に横たわっていた。
休憩をはさみながらの研究だったが、それでも俺の肉体にかかる負荷が大きすぎる。体を起こすどころか、指を動かすのも億劫に感じられる。
「はぁ、はぁ……。いや、まだまだです。こんなんじゃ、まだ足りない。俺の望みは、叶えられない。」
「そうか。他者への謙遜はするものではないが、自己への謙遜なら私は特に何も言わないさ。だがやはりと言っていいだろうけど、随分ピーキーな加護を授かったようだね。今の君でも使いこなすには力不足のようだ。一体誰がそんなのを使えるんだろうね?」
この加護はあまりに使う容量が大きすぎる。下手したら飛行と雷撃の併用をするよりも大きな負荷が魔力回路にかかってしまう。まだ魔力励起時以外は併用をできない俺からしたら通常の運用も難しいだろう。
「あれが、先輩の新しい加護……?」
「ネル。君はテルの加護を見てどう思ったんだい?」
「……この目で何度見ても何が起こったのか、はっきり認識することができませんでした。アレは、一体何が起こっていたんですか?」
「ふーむ。まあ、分かっていたら苦労はしないというのが答えになるかな。私の解析では加護の構造は当然、あの加護を使っている間の魔力移動や消費についても見切ることはできなかった。いくらか仮説はあるが、それらはあくまで仮説にすぎない。
というわけで、分かっているのは膨大な魔力をどこかで消費してよくわからない現象を起こしている、ということだけだな。」
加護に詳しいデイビッドであっても今起こったことを説明するのは不可能のようだ。そんな加護を持つ生徒しか研究室に入室するのを許していないから当然と言えば当然のことであるが。
「加護の名称はなんていうんですか?」
「臨界。身体強化系の上位加護である限界突破とは似て非なるものだ。」




