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いずれ最果てへ至る神殿師  作者: きりきりきりたんぽ
第二章 神殿祈祷祭編
32/54

通達

お久しぶりです。今日から二章を投稿していきます。よろしくお願いします。

 王都は興奮と不安、相反する二つの衝動に揺れていた。


 一つは年に一度の神殿祈祷祭の前夜祭が開催されることになったからだ。神殿祈祷祭以外の祭事がほとんどない一般市民からしたら盛り上がるのは当然であろう。街中には屋台が立ち並び、王都の主要箇所には矢倉も建てられるという。

そして目玉は学校別の対抗戦である。王都中にリアルタイムで放送されるこの未来の神殿師である彼らの戦いは多くの観客の心を揺らすそうだ。そして当然のように賭け事にも使われている。


もう一つは王都西側を占めるバンドラッシュの森からモンスターフェスティバルが起こる兆候が見られたと王都民に通達があったからだ。五、六年に一度起こると言われているこれは数ある活性化現象の中でも唯一王都民がその被害を直接受けるかもしれない代物なのだ。

冒険者や神殿騎士たちがその討伐に出向くとはいえ、万が一がある。もし王都内に魔物が入ってきた場合、多くの王都民には避難以外どうすることもできない。そのために言いようもない不安感が王都民の間に流れている。


とはいえこのアンバランスな空気感もこの一週間だけだろう。なにせ肝心の神殿祈祷祭の前夜祭が次の週末の休息日に迫ってきているのだから。


そしてその前夜祭に出ることになっている男は今、自身のコテージでその詳細について教えてもらっていた。


「本日はお招きいただきありがとうございます。」


「いや、呼んではないんだがな。」


 三度目ともなれば慣れてきたのか、生徒会長は俺たちのコテージにいるのに平然としている。まあ他にも何人か役員がいるからかもしれないが。っていうかまだ朝早いんだけど。しかも一週間の謹慎明け翌日なんだけど。これから普通の顔をして入り浸りそうで怖い。


 そう、夜中にドンパチやり合ったっていうことで俺と生徒会長は一週間の謹慎処分を受けていたのだ。会長は謹慎中も生徒会の仕事をしていたそうだが、俺はただ魔術と加護の研究をしていただけと、それなりに充実した一週間だった。


「とうとう神殿祈祷祭が次の休息日に迫ってきています。具体的な形式が実行委員より送られてきたので共有いたします。」


 俺の呟きを完全にスルーして生徒会長は一枚の紙をテーブルに置いた。


 というのも神殿祈祷祭は毎年学校対抗で行われ、学校同士は総当たりというのは変わりないのだが、年によって対抗戦の形式が変わるのだ。確か去年は個人戦の総当たりだった気がする。


「今年は各校総当たり、それぞれは五人ずつの団体戦で勝ち残りですね。

まず対戦校が決まり次第代表者十六名のうちから出場者五名を選出し、一対一で戦い負けた方は脱落。勝った方は残り、次の選手と戦う。そして最後の五人目が倒された方が負けという感じですね。そして何回でも出場者に選んでいいとのことです。

 簡単に言ってしまえば一番強い選手を一番において相手を蹴散らせば一人で優勝することだって狙えますね。」


 コテージ内になんともいえない空気が漂った。


「あー。それはつまり、生徒会長が最初に出るから後は関係ないってことか?」


 デュランがその空気を紛らわすように口を開いた。冗談めかしているようでその真意を探るように生徒会長に視線を向けているさまは、こいつも高貴な生まれなんだなと感じさせる。


「はい?」


 鳩が豆鉄砲を食ったようとはまさにこのこと。想定外も想定外だったのだろう。


「いや。だから、一番強い人が最初に出てしまえば後は誰が出ても同じってことだろう?」


 生徒会長はようやく得心がいったようで手を合わせた。


「ああ、そういうことですか。そんなはずがないじゃないですか。私やテル=ガーディが出たとしても他校の全員に勝てるとは限らないです。それにそこまでスタミナももたないでしょう。それは皆さんもご存じのはずです。このセントリア学院がすべてではないんですから。」


 参加する学校はセントリア学院を含めて四校。

 セントリア学院は純粋な戦闘力、魔術や加護の研究、魔道具の開発全ての面で優秀だ。だが、それ以外の三校はそれぞれに特化している。優秀な神殿騎士や冒険者を数多く輩出する養成学校ブレイバー、研究者志望が多く集まる予備研究所ストイック、魔道具開発をはじめとして豊かな生活を作るボーダー魔術学園。

 それぞれの面で特化する彼らは対抗戦という舞台においても手強い。


 だが、それでもデュラン達の顔色は優れない。そりゃそうだ。彼女は自覚がないかもしれないが、三年生の間では今の段階で学院主席になれるとは専らの噂である。


「それに私は出れないかもしれませんからね。皆さんだけで勝ち抜けてほしいのです。」


「「「はい?」」」


 今度はこちらの番だった。え?会長が出れないかもしれない?そうなると結構話が変わってくるんだけど。


「皆さん知っていると思いますが、どうやらバンドラッシュの森で近いうちに騒動が起こるそうです。王都内ではもうその話題で持ちきりらしいですよ。」


 こちらの混乱を知ってか、彼女は事実を告げた。


「……やっぱりか。だがもしそうなったとしても、神殿騎士か冒険者が対処するんじゃないか?」


「それはそうです。ですが、私は生徒会長です。この学院の生徒のトップです。もし何かがあった時にこの学院を守らなくてはなりません。」


「だが……。」


 否定の言葉はいくつも思いついた。神殿騎士たちが勝てない魔物にいくら強いとはいえ生徒である会長に勝てるのか、とかそれだった俺たちだって残った方がいいとか。


 だが、彼女の目にはそれら全てを考えた上でそれが最善だと信じている強い意志の光があった。その迫力は俺に続く言葉を発するのを許さなかった。代わりに出てきたのはため息交じりの何かだった。


「……そうか。まったくわがままな生徒会長様だ。」


「申し訳ありません。」


 俺の悪態にどこかほっとした様子で謝罪を口にした。


「ですが、それもタイミングが悪ければ、です。おそらくは大丈夫でしょう。」


「アリスちゃん……。」


 いつの間にか仲良くなっていたルカの小さな呟きが俺の耳にギリギリ届いた。


 当の本人はそんな悲愴な覚悟はとうに隠し、いつもの穏やかな表情を浮かべている。


「さて、大丈夫だとは思いますが、一応参加要項について渡しておきます。確認したらサインをお願いします。それをもって、参加を決定とさせていただきます。」


 彼女は側に立っていた役員から数枚の紙を受け取ると俺に渡してきた。


 書いてあるのは基本的なことばかり。特記事項として挙げるとすれば、対戦相手を殺すことはたとえ故意でなかったとしても禁じられていることくらいだ。その場合、即刻失格並びに以降の祈祷祭の参加も禁じられる。俗にいう破門という扱いになるのだろう。


 俺がサインをしたのを預かると生徒会長はゆっくりと椅子から立ち上がった。


「それでは失礼いたします。優秀な結果をもたらしてくれることを期待しております。」



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