蠢動
その家は長い歴史を持つ。それこそ王国が誕生する前から存在するほどの長さだ。
「……あの小僧はどうなった?外法魔道具をくれてやったとかいうあいつだ。」
その家は歴史の長さのほかに、貴族の中では唯一貴族の義務を課せられていない家として知られている。
「はっ!状況証拠から死亡したかと思われます!しかし、いまだ死体の発見はできておりません!」
その代わりに宰相として王都の内政全てに深くかかわっている。唯一、彼らの手が届かない分野があるとすれば、それは神殿関係になる。神殿統括府が治める神殿区、並びに祭事は王都民の生活に密接に関係しているにもかかわらず、彼らは手出しすることができない。
「そうか。まあいい。データは取れたんだろうな?」
二人の男は王都の中でも一等地、北端にある王城の側にある屋敷の一室にいた。一人は豪奢なソファーに身を預けた青年である。目線は鋭く、放つ気配も剣呑である。あたかも一人だけ戦場のど真ん中にいるようである。この男こそが王国で宰相を務める人間である。
「はっ!魔道具の効果、副作用、共において想定の範囲内に収まりました!」
もう一人は軍人のようである。細くも鍛えられた肉体と両目で色が違うオッドアイが目を引く。ピシッとした軍服に身を包み、身体を揺らすことなくまっすぐ立っている。しかし、そこには正規軍や近衛軍に刻まれる国印はない。
「……お前から見て、あれはもう実戦投入できるか?」
つまり、彼らは正規軍ではない。かといって宰相の私兵でもない。
「はっ!断言することは難しいかと!母数が少なく、まだ確証は得られません!」
王国神殿騎士団には第一部隊から第三部隊まで存在する。しかし、それらは魔物討伐の任につくことが多く、近衛騎士団もまた同様だ。
「そうか。……確かお前の所にはまだ学生の部下がいたな?」
そんな中、四つ目の部隊が作られた。用途は公安。王都民が安心して暮らせるように、王都内を規律、統制する部隊だ。だが、その存在は公になっておらず、そして彼らの主は正規軍とは異なり、宰相である。
「はっ!王立学院ではなくなりますが、養成学校におります!」
その部隊の構成員は王都中にいる。例えば、カフェの店員であったり、八百屋さんであったり、魔道具師であったり。王都民の生活に溶け込み、その中で諜報活動も行っているのだ。それは王都の暗部にも及び、暴走しすぎないようにバランスを保つのも彼等の仕事である。噂される闇を支配する何ものかとはかれら実態無き騎士団である。
「とりあえず、祈祷祭に出させろ。あの小僧を殺ったのが出るかもしれんからな。」
当然学院の内部情報も筒抜けである。男の手元の資料にはテルの顔写真と氏名、その他さまざまな情報が載っていた。
「はっ!魔道具を持たせましょうか?」
軍服の男が目を妖しく輝かせながら主である男に問いかける。
「いや、いい。事態によってはもうその必要もなくなるだろうからな。」
男の鋭い視線が虚空を穿つ。その様子は遥か先の未来を見ているかの如くである。
「はっ!」
軍服の男は無駄なことを話さずに口を閉じる。主である男が何を考えているのか等彼には考える必要はない。ただ出された命令に着実に従うのみ。
「……テル=ガーディ、か。脱走兵が、あれらからも逃げ切れるといいな。」
男のくぐもった声が部屋で静かに消えた。
これで一章は終了です。
二章は完成次第投稿していきます。




