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いずれ最果てへ至る神殿師  作者: きりきりきりたんぽ
第一章 王立セントリア学院編
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熱戦

 勝利を目前にして油断をしていたわけではない。軍隊の最高位である将軍についていた人間がそんな愚挙を犯すわけがない。だからこそ今放てる最強の魔術を放った。最も得意な風属性の魔術の中で、最も使い慣れた魔術を。


 だが、その翠色の槍とテルの間に立ちはだかるように黒い繭が出来上がった。それは風の槍を蹴散らし、時間を置くことなく神殿へと姿を変えた。


 ―――神殿の召喚だと?できなかったのではなかったのか!?でなければなぜ今になって召喚をしたんだ?


 そこまで思考が巡った時、テルの持つ神殿が視界に収まった。驚愕と同時にそれ以上の納得がエリオットの胸中を占めていく。


 ―――なるほど。そうか、お前なのか。この国の魔法使いは。


 テルは自身が召喚した神殿を認識すると思わず毒づいた。


「チッ。人前で召喚するつもりはなかったんだがな。

 まあいい。よくはないが、いい。これで形勢逆転だ。」


 長いこと封印していた神殿から魔力がテルに向けて流れ出した。魔力を使って神殿を召喚するという道理から見て通常ではありえない現象であるが、神殿を発現してから一切使わなかった影響だろう、テルへと魔力が逆流していく。


 一滴残さず空っぽになったヒビの入った器に水がなみなみと注がれていく。それは器が満杯になっても収まらず、あふれ出した水は器にできたヒビを埋めていく。


「……全快、か。……クックック!面白い!」


「気でも狂ったか?お前はもう俺には勝てない。」


「そんなもの構うものか。これまで俺がどれだけの人間の命を奪ってきたと思っている?今更自分の命に価値等つけられるわけもない。

 ……ただ、俺が死なせた数多くの命にかけて、ただで死ぬわけにはいかん。」


 笑みを引っ込めたエリオットは一転、威圧感の籠った語気と視線を放つ。


「これが本当の使い方だ。

 ―――魔力励起カウントストップ。」


 その威圧感が膨張した魔力を伴ってテルに向けられる。それはテルがしたものとは一段異なった深さを持っていた。


「ッ!!」


「―――汝は軍を率いる者。以て敵を討つ者。」


 気配がガラリと変わった。存在の格が違うような、さっきまでいた人間とはまるで違う人間が入り込んだような気配。異常というよりも異常。


「風よ、炎よ、我が命の灯をもってこの戦場を灼け。

 複合魔術、炎熱龍の咆哮。」


 エリオットを中心にエリオットよりも一回りも二回りも大きな魔法陣が起動し、そこから龍の頭部が具現化した。それはエリオット本人を守るように口内に収めると、大量の魔術を吐き出した。


 それらはすべてが風属性と炎属性が乗った攻撃である。炎属性の火力と風属性のスピードを掛け合わせたその魔術は、従来の魔術からは考えられないほどの火力とスピードを持っていた。


「纏雷・二足!」


 対するテルは纏雷で応えた。体を迸る雷が運動信号となり、反射神経以上の速度を引き出す。そして神殿を召喚したことにより、加護の処理、効果が上がっていたために一足よりも一段階高い二足まで解放することができていた。


 ―――速い!攻撃を捉えられない!


 だが、それでも追いつかなかった。エリオットの攻撃は龍の口から絶えず放たれ、それがテルの身体を焼く。炎属性を軽く超える火力を誇るその攻撃は内包する熱量も高く、その攻撃がテルの肌を一撫でするだけで肌は焼き爛れる。


 迎撃と回復。それを永遠とも思える時間繰り返す。だが、明らかに回復が追い付かない。時間が経てば経つほど敗北が確定的になる。


 だが、エリオットに残された魔力も残りわずかである。この猛攻もいつまで続くか分からない。


 テルが回復できない程度の致命傷を負うのが先か。はたまた、エリオットが魔力切れで倒れるのが先か。


 勝負は技量、力量比べから我慢比べへと移行していた。


*****


 マッシュ=バイヤーは精神の奥底で一人の男の記憶と対面していた。


 その男の生涯は絶望に満ちていた。長年連れ添った仲間や愛する者は先に彼の代わりに死に、そしてそれだけでは足りないのか、今度は多くの部下を死地へと送り出していた。


 とても正気ではいられない。顔と名前を知った人間が次の日には死んでいる。知らない人間も死んでいる。だが、自分はのうのうと生きながらえている。後世の歴史家には暗君、暴君とでも言われるほどの所業をしているが、残酷なほどに男の性根はまっとうだった。人の不幸に悲しみ、人の幸に喜ぶことができる人間だった。


 だが、それでも男は最後まで誇りを持っていた。滅びると分かっている国を守るために、より多くの民を守るために自分の心が壊れるのを許さなかった。

 その肉体が朽ち果てるまで。


 ―――ああ、そうだ。まさに、俺はこんな風に生きたい。生きたかった。


 自分の信念を貫き、それに殉じる生涯。それができたらどれほど幸福だろう。考えただけで心が洗われる。


  ―――貴族である必要はなかった。俺は俺でしかないのだから。


 事ここに至ってマッシュは自分の望みに気付いたのだ。だが、それはあまりに遅かった。体は魔道具に乗っ取られ、意識は戻らない。だが、直感でそろそろ勝負に負け、死ぬというのが分かる。


 ―――くっそ……。もっと早く気づいていれば、違う未来があったのかな。もしかしたらあの平民とも競い合えたのかな。


 生まれて初めて自分で獲得した後悔と反省の念。他人に言われるのではない、自分で心の底から思った事で生じたそれは、バネとなり一瞬で膨れ上がった。


 ―――いいや、まだだ!これまではもう変えられない。そして終わりも。俺はいけ好かない勘違い貴族として死んでいく。

だが!死ぬまでの時間はもう誰にもやらん!!


 その燃え上がる意思が、それを支える覚悟が、沈み切ったマッシュの意識を押し上げていく。


 そしてその道行に眩いまでの光がさしてーーー

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