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いずれ最果てへ至る神殿師  作者: きりきりきりたんぽ
第一章 王立セントリア学院編
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問答

「今度こそ本番だ。始めよう。」


 エリオットはそれだけ言うと小さく指を鳴らした。直後、それを起点に大量の魔法陣が空中に浮かび上がり、そこから魔術が放たれた。矢や槍、斧の汎用魔術だけでなく、それらの派生魔術である応用魔術までが様々な属性で含まれている。


「ッ!」


 雨を通り越して魔術の壁となったその攻撃にテルは剣一本で迎え撃つ。纏雷の効果範囲を自身の肉体だけでなく剣にまで広げ、速度と威力を底上げする。そして魔力励起カウントストップ時特有の研ぎ澄まされた集中力ですべての魔術を斬り落とす。


―――ッ!やはりだめか。すべてを斬り落とすことはできない。最低限、致命傷になり得る攻撃だけを、見極めろ!


 壁を掘削するように、一歩一歩前に踏み出しながら魔術を斬り落とし、時には剣の腹で受け流し前へと突き進む。剣の腕では負けない自信があるがゆえに。距離を詰めれば勝てる確信があった。


 そしてテルは多くの傷を全身に負いながらもとうとうその壁を突き抜けた。


 その霞む視線の先には薄い笑みを浮かべたエリオットの姿があった。


「たった数歩進めるだけで随分な有様だな。ほら、まだまだ続くぞ。」


 エリオットは再度指を鳴らし、魔術を発動させたが内心穏やかではなかった。


―――今の攻撃は俺の切り札、対軍使用の広範囲殲滅魔術だったのだが。それを一部に圧縮して発動させたのにそれを切り抜けるか……!


 これ以上近づかれるとまずい。剣の腕は間違いなくテルの方が上手である。エリオットはこんな魔術の嵐の中を生き残ることはまずできないだろう。そして何より魔力消費が半端ではないのだ。将軍という地位に実力で上り詰めたエリオットの卓越した魔力操作をもってしても、今の身体に残されている魔力ではこれを含めて二回しか使えない。

すなわち、今の攻撃を含めて二回でテルを削りきらないといけないのだ。


 ―――魔術の腕も剣の腕も申し分ない、それどころか一級品だ。魔力励起カウントストップはまだ使いこなせていないようだが、それでも優秀であることに変わりはない。俺の軍に欲しいくらいだ。


 そんな逃避気味の思考をしている間にもテルの気配は近づいてきている。多くの血を流しながら、魔術を剣で斬り、怪我を治し、突き進んでくる。


 ―――仕方ない。正直ぶっつけ本番は性に合わないが、やるしかないようだな。


 エリオットは腰を下ろし、地面にそっと手を付けた。


*****


 魔術の雨の中、剣を片手に歩を進めながらテルは再度自分に問いかけていた。なぜ、今自分は戦っているのかと。


 ―――後輩を守るため?


いいや違う。最初こそそうだったが、もはやこれは後輩を助けるための戦いではなくなっている。ただの殺し合い。俺が死のうが生きようがあいつらの生死には関係ないだろう。


 ―――じゃあなぜ?


必要がないなら逃げればいい。さっき気づいたが、今闘技場の結界は動作していない。もし動作していればここまで雷撃を引き出すことはできないからだ。だからここでの不死効果もなければ、逃げるのを妨げる障壁もない。


 ―――逃げられないから?


いやまさか。俺には飛行がある。どこにでも逃げられる、優秀な加護だ。少しでも隙ができれば逃げ切れる。


 ―――逃げたくないから?


……どうだろう。確かにここまで全力で戦える相手っていうのは稀だし、そもそも機会自体ない。逃げたくないのはそうかもしれない。


 ―――戦いたいの?


そりゃそうだろう。じゃなければ鍛錬なんてしたりしないだろ。


 ―――投げ出さないで。なんで戦いたいの?


 ……分からん。なんで俺は戦いたかったんだ?


 最初は仲間の邪魔をしたくなかっただけだった。ただでさえ爪弾きにされていた五人だったのだ、せめてこの五人の中では余計な不和は生みたくなかった。対等な立場でありたかった。


 ―――それだけ?相手には何も思わなかったの?


 何も思わなかったな。最初は怒りがあった。だが、途中からは何もない。ただ倒さねばならない敵を倒していただけだ。誰であろうと関係ない。


 っていうか、なんでこんな自問自答をしているんだ?こんな戦闘中に。ただでさえ魔力励起カウントストップは時間制限付きの強化なのに。残り時間だってもう一分もないだろう。


 ―――ふふ。そろそろ魔術が途切れるよ。


 その言葉の直後、視界が開けた。


*****


 魔術の嵐を超えたテルはボロボロの身体を無詠唱魔術で治しながら、その勢いのまま一歩踏み出した。


「……纏雷・一足。」


 テルからまっすぐエリオットへと一筋の雷が走り、それを後追いするようにテルの身体が消えた。


「速いな!!」


 急いで立ち上がったエリオットは左手を前にかざし、魔法陣を幾重にも重ねた結界魔術でテルを待ち受けた。その間に後ろに引いている右手に攻撃魔術を仕込むことも忘れずに。


 テルの剣とエリオットの魔法陣が衝突する。


 雷光のスピードが上乗せされたテルの攻撃はエリオットの結界魔術をまるで紙のように引き裂いていく。


「ぐぅ!」


 一つ一つの魔法陣が破壊されていくに従ってエリオットの残存魔力もガンガン減っていく。物理に不利な結界魔術である分消費する魔力は多い。


だが、その結界魔術はテルの攻撃を少しだけ遅延させることができた。


「吹き飛べ!」


 最後の一つが砕かれた時、エリオットは右手を前に出していた。テルの攻撃がエリオットに届く直前に緑色に輝くその魔法陣から魔術が放たれた。


「風龍の息吹!!」


 その魔術は汎用魔術の系統から大きく外れ、攻撃性を一切持たずに相手を遠くに吹き飛ばすことだけに特化したものだった。

 しかしだからこそだろう、その風属性の魔術は雷を押し返すという奇跡を見せた。


「まだだ!行け!」


 エリオットは地面に掌を叩きつけた。


 地面に水面のような波紋が広がり、エリオットの前方の地面が隆起した。それは花開くように空中で広がると、花が花弁を散らすように弾幕による攻撃を開始した。


 その攻撃はテルが地面に両足を付けた時には既に目前まで迫ってきており、飛行で回避するにはあまりにも余裕がなさ過ぎた。否応なく剣で迎え撃ったテルであるが、直後に異変に気付く。


「ッ!?」


 明らかに手ごたえが違う。魔術というにはあまりにも固すぎた。剣から腕に届く振動が腕から精密さを奪い取っていく。それだけでない、魔力を付与しているとはいえ、こんな固いものと何度もぶつかれば刃こぼれしかねない。当たり所が悪ければ折れてしまってもおかしくない。


 ―――どうだ!魔術ではない、加護を通じた物理での攻撃だ。集中力が切れて攻撃が当たるか、先に剣が壊れるか、それとも魔力が尽きて魔力励起カウントストップが解除されるか。いずれにせよ俺の勝ちだ!


 エリオットの勝利条件はいくつかあった。


 一つ目は剣を奪い取ること。そうなれば近距離戦でも実質的な不利はなくなり、魔術だけでの攻撃の応酬になる。純粋な魔術の力量ではエリオットの方が格上だ。


 二つ目は時間切れである。魔力励起カウントストップは体内で生成される魔力を保存に回さずにすべてを戦闘用に引き出す技法である。これにより、身体能力や感覚、集中力の向上だけでなく、魔術の発動順序を吹き飛ばし使う魔術を選んだ直後に発動させることができる。しかし一方でこの状態が解除されたとき、使用者は無防備になる。魔力切れによる強制解除の場合は当然だが、意図的に解除した場合も普段以上の魔力を流した魔力回路が壊れはしないまでも再度魔術しまっているからだ。つまり、この状態が切れた瞬間、一切魔術を使える状態ではなくなるのだ。


 そのどちらかさえ満たしてしまえばエリオットの勝利が確定する。とはいえエリオットにももはや切り札を切れるだけの魔力は残っていないのだが。


 空に咲いた岩の花から花弁がすべてなくなり、残った花弁が地面にゆっくりと落ちていく。

 エリオットの視界の先には目に見えて気配が小さくなった敵の姿があった。体の至る所に裂傷を負いながらもエリオットの猛攻を防ぎきり、魔力を使い切ってなお地面を両足で踏みしめている。


「……クッハッハ!見事だ!帝国の精兵とも比肩する、立派な戦士だった!だが、勝者は俺だ!!」


 エリオットはなけなしの魔力を左手に集め、翠色の槍をテル目掛けて放った。それは魔力を失った人間には防御することはおろか、視認することすら難しい代物である。


 勝利を確信したエリオットは直後、驚きに表情を染めた。力なく空を仰いでいるだけのはずの敵の口が動いていたのだ。


 ―――来たれ、ロムス神殿。


 と。

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