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いずれ最果てへ至る神殿師  作者: きりきりきりたんぽ
第一章 王立セントリア学院編
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逆転

「なめるな、平民ッ!!」


 マッシュの持っていた剣は当然金属製である。その剣が硬直性を失っただけでなく、形状を変えて鞭のような形状となってテルへと襲い掛かる。


 テルは自身を囲うように迫るその鞭を飛行で大きく飛び上がることで回避した。


「チッ!避けたか。だが!まだ攻撃は終わっていないぞ!!」


 空中を泳ぐように鞭がテルへと迫る。その形状に物を切る能力がまだ残っているのかは分からないが、間違いなく突き刺す機能は残っているだろう。


「生徒会を追われてから今日まで!貴様を殺すためだけに対策を打ってきた!情けないことにもな!!」


 飛行の加護を持つテルは基本的に空中戦に舞台が移った瞬間に圧倒的に有利となる。だが、その中でありながらマッシュは確かな攻撃手段を持ち、距離を保てている。見方によれば未だ拮抗であるともいえるだろう。


「水の大家たるシャーウッド家の縁戚に連なるこの俺が!!お前を確実に倒すためだけに時間を使ったのだ!!だから!!」


 ここでマッシュは剣を振る右手を止めずに左手を天にかざした。


「貴様は!!今この場で、俺に殺されなければならない!!」


 無詠唱で放たれた氷属性の魔術は夜空に溶ける形でテルへと迫った。形状は槍、数は8。スピードも申し分ない。込められた魔力からテルであっても無傷で受けきることはできないだろう。その攻撃を鞭の攻撃と絡めて発動させたのだ。


 鞭が逃げ道を限定するように空中で歪な軌道を描き、氷の槍がそのあえて残してある逃げ道へと放たれる。


 ―――殺った!


 その氷の槍にはある細工がされてあった。


マッシュの想定では剣では勝てない。そしてこの鞭でも倒しきれないし、それに魔術をそろえてもギリギリ攻撃を当てられる程度だろう。決して致命傷にはならない。だからもう一手、何か手段を探さなければならなかった。


 その答えがこれだった。


「―――氷瀑!!」


 バイヤー家に伝わる氷属性の攻撃魔術の一つである氷瀑は氷や水を炸裂弾のように破裂させることができる魔術である。とはいっても水では威力は期待できないために氷を対象にすることが専らであるが。


 門外不出。そしてマッシュ自身もこれまでの順位戦で使った事はない。必ず通る。


 マッシュの詠唱の後、空中でテルへと迫っていた氷の槍が突如膨らみ、内側から食い破られるように破裂した。攻撃性の魔力を纏っていた氷がテルの周囲で破片となり、凄まじい速度で周囲に射出された。


 回避も迎撃もできない。その攻撃の手数と小ささと速度ゆえに。しかしルカ=セレンディのような天才ならもしくは……。


「これで、終わりだ!!」


 もし仮に結界魔術で凌がれたとしても、大丈夫なように。確実に仕留められるように。


 鞭のようにしならせていた剣の固さだけを戻し、斬ることに特化したひたすら長い細剣のような細長い剣を思いきり氷瀑の爆心めがけて振り下ろした。


 魔術と物理、その攻撃両方に対応するなどできない。結界魔術は物理に弱く、剣では魔術の攻撃を防ぐことはできない。


 確かな手ごたえと共にマッシュは剣を闘技場へとまっすぐ叩きつけた。


 上がった砂ぼこりの奥に倒れている仇敵の姿を想像し、思わず頬が緩む。


 だが、それと同時に一瞬冷静な思考が頭をよぎる。


 ―――ここでこの男を叩きのめしたからといって何が変わるんだ?俺はただ貴族の矜持を守りたかっただけのはずだ。


 確かに魔道具を求めたのは自分だ。それをテルとの順位戦で使おうとしたのも自分だ。あいつに勝つことで神殿祈祷祭に出るのは貴族である自分がふさわしいと第二王女に知ってほしかった。だが、なぜ今こうなっている?後輩を人質にして、誰もいないこんな時間にあの男を打ちのめした。これに何の意味がある?


隊長は言っていた。どうなっても知らないと。


 頭が混乱し、視界が歪む。意思が、思考が何かによって曲げられているようなそんな感覚。自分が大切にしたかったものが踏みにじられている、圧倒的な不快感。


 その時上がっていた土埃の中に雷が落ちて、土煙を吹き飛ばした。果たしてその中から姿を現したのは―――


*****


 痛い。


 久しぶりの刺激に体が動くことを拒否してくる。腕は震え、足は動かず、頭は働かない。治癒魔術によって回復は進んでいるものの、なぜか体がついてこない。


 痛い。


 こんなの慣れっこのはずなのに、たった半年程度のブランクがあっただけのはずなのに、まるで百年以上痛みとは無縁だったかのような錯覚がする。


 痛い、―――でも、今はいらない。


 心は追いつかないが、身体は治っていく。思考もクリアになっていく。なら―――


「終を為せ、天なる白雷……!!」


 空から雷が落ち、肉体を過電流が蹂躙する。視界がホワイトアウトし、感覚も一時的にすべて閉じていく。だが、自分の加護による攻撃で自分が傷つくことはない。


 ドクン。


 心臓の鼓動と共に自分が再起動されていく。魔力炉に炎が灯り、魔力回路を通じて全身に魔力が滾る。


 ゆっくりと立ち上がる。最後に頭に降ってきた剣刃受けそびれたことによってできた傷はまだ治りきっていないようで、粘性の高い生暖かい液体が頬を伝う。


砂埃が晴れた先には頭を抱えたままうずくまる怨敵の姿があった。


「待たせたな。次で終わらせる。」


 ―――轟け、纏雷。


 全身に雷が迸り、身体強化魔術とは違い、認識を置いていくレベルの異次元の肉体強化がかかる。


「ああ!あああああ!!!」


 競技場に男の慟哭が響く。その頬は涙にぬれており、瞳には先ほどまでなかった知性の光がある。

 しかし、その光は額に埋め込まれた魔道具に吸い込まれていくように消えていき、その代わりに魔道具から妖し気な光が放たれ始める。


「……クックック!そうか、なら俺も切り札を切ろう。

 来い、ロムス神殿。」


 魔道具に光が灯ってからマッシュの気配が明らかに変わった。憎悪も怒りもなく、ただ目の前の男の不気味な笑みからは、戦闘そのものに対する偏執的な感情が感じられた。あまりの変りようにテルも一瞬判断が遅れる。


「……一足!」


 だが、それを補って余りあるほどの速度。何も手を打たせない。その覚悟で首を狙って放った攻撃は―――


「おっと、速いな。切り札ってやつか?まあそれはくれてやる。」


 マッシュの左腕を切断することしかできなかった。しかもマッシュは自身の左腕をボールのように蹴りつけてテルへとぶつけた。


「よく見ておけ。これが切り札というものだ。」


 マッシュの全身から魔力が溢れ、それが形を成していく。しかし、光の繭に包まれていたはずのそれは途中で暗転する。闇を内包しているかのような深い黒へと。


 そしてその繭から解き放たれたものは―――


「……。」


 全神経を戦闘に、ひいては相手を殺すことだけに傾けていたテルが絶句する代物だった。


 その神殿はテルしか出せない、と思っていたもの。神殿と呼ぶにはあまりに冒涜している見た目をしているそれは、闇と瘴気に包まれた神殿である。

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