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いずれ最果てへ至る神殿師  作者: きりきりきりたんぽ
第一章 王立セントリア学院編
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開戦

 寝静まった学院内を二人静かに歩いていく。高ぶった感情が風化せぬように、覚悟をより強固にするように一歩一歩を踏みしめていく。


 テルは忘れようとしていた記憶を掘り起こし、思い出そうとしていた。たった一年前に歩んでいた修羅の道を遡る。それは彼にとっては苦痛の道程であったが、それ以上に意味があった。


「一応言っておきます。総合競技場の中に複数の気配があります。おそらくあれや後輩たち以外にもいるでしょう。」


「分かっている。誰がいようが皆殺しだ。」


「ですが、場所がよくありませんね。あの総合競技場には結界が張ってあります。」


 過去の順位戦で死者が出たことはない。順位戦が行われる結界内は死ぬ直前にその状態が保存されるからだ。つまり、どんな状態になったとしてもそれは死んでおらず、回復魔術を重ねることで治すことが可能なのだ。相手が間違っても死ぬことがないという保証があるからこそ学生も全力を出すことができる。


「関係ないな。アリスは去年の俺を知っているだろ?」


「……愚問でしたね。では私は賊を逃がさないように結界を張ることに注力するとします。」


「ああ、頼む。」


 二人の目の前には静かに鎮座する闘技場の扉が口を開けて待っていた。


*****


 足を進める度に記憶が蘇る。俺に向けられた悪意や害意が間違っても仲間に向かないように、敵を潰して回った血にまみれた一年間だ。


 仲間に悪意の欠片でも持ち合わせている人間とは必ず順位戦をした。相手がどんだけ格上だろうとそれは関係ない。


 目的はどうあれ、その経験が俺を強くさせた。相手を観察し、弱点を見つけ、そこを全力で叩く。たとえどれだけの手傷を負おうとも。その戦い方が身についた。観察眼が育った。躊躇いを持たなくなった。


 すべては敵を滅すために。悪だろうと善だろうと関係ない。


「マッシュ=バイヤーだな?わざわざお前を殺しに来てやったぞ。」


 俺は仲間を守るためなら世界ですら殺して見せる。


*****


 アリスはテルの言葉を聞きながら、瞬時に観客席を含めた総合競技場全体を覆うように巨大な円柱状の結界を構築した。アリスの結界は人間の出入りのみを禁じており、それは剣や魔法などが透過してしまうために肉体でしか破壊することができないという代物だった。


「来たな、平民!それに、ハハッ!これはお笑いだな!本当に尻軽だったとはな!」


 マッシュの見下した視線がアリスに突き刺さる。あまりの不快さとマッシュの不気味さに思わずアリスは顔をしかめるが、目の前に立っていたテルが放った魔力の圧にその視線は散らされた。


「後輩たちはどこにやった?」


「チッ!……おい、連れてこい!」


 マッシュの声に物陰から一人の男が赤い髪の少年を担いで現れた。その赤い瞳がテルを捕え、驚きに見開かれる。


「他のもまだ生きている。いいか、こいつらを―――」


「黙れ。俺が聞いたことだけに答えろ。」


「黙れだと?平民の分際でどいつもこいつも舐めたことを……!!」


 額に埋め込まれた宝石が真っ黒に染め上がり、マッシュの全身からその色と同程度の深さのオーラが立ち昇る。


「ああ、もうすべてがどうでもいい!来いよ、平民。お前のことを殺せば、他の下民共も身の程を弁えるようになるかもしれないしな!」


 腰に差した剣を抜きその剣先をテルに向けながら狂気じみた声を上げる。


 テルはその声にただ静かに円形の闘技場の上に現れることで応えた。マッシュの視界にテルの全身が初めて映る。細く、しかししっかりと鍛えられた肉体を学生服に身を包み、静かに佇むその姿が。


「……おい、平民。剣はどうした?」


「お前如きに必要ない。」


 ただ一言。テルは武器を手にすることはおろか、大して構えることもなく、自然体のまま闘技場に立っている。


「……。クックック!クハハハッ!!」


 一瞬ポカンとした顔をしたマッシュであるが、怒りと憎悪が限界を超えたのか、大きな笑声を上げた。


「そうか!そこまで愚弄するか、平民!!いいだろう!ならばその不敬に俺も応えてやろう!お前程度では想像できぬ責苦の果てに殺してやる!お前の家族、恋人、友人諸共だ!


 ―――行くぞッ!!」


 どす黒いオーラを纏わせた剣を構えてテルへと駆けだした。


「―――終を為せ、天なる白雷。」


 直後、空から一条の雷が闘技場内に落ち、自らへと迫っていたマッシュを正確に焼き貫いた。


 高いスピードと十分な威力、そして攻撃後に麻痺を与える効果を持つテルの十八番である。ほぼすべての順位戦で使われ、対策が打たれやすい環境にありながらそれらをほぼすべて食い破ってきた代物だ。単純に学生レベルのものではない。


 ―――だが、


「なんだ、今のは?効かねぇなあ!?」


 上がった砂ぼこりの中から出てきたのは無傷で切り抜け、その顔に意地の悪い笑みを浮かべているマッシュだった。

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