回帰
三つ目の加護を授かったことのお祝いに生徒会長と書記が乱入してきた珍事件から一週間、次の休息日になった。研究室で三つ目の加護を研究したり、メンバーの順位戦を観戦したりしていた。一回俺自身の順位戦もあったが特に言及するようなことでもないだろう。基本的に相手の攻撃を飛行でよけながら斬撃や雷撃で攻撃するという単純なことをしているだけだったからな。
「ん?また次の順位戦の案内が来てるのか?」
適当に討伐依頼をこなして部屋に帰ってきた俺を待っていたのは一つの封筒だった。その封筒は生徒会のみが持つのを許される学院印が押されている。
基本的に通達は生徒会の持つ掲示板を通して、または住んでいる寮室に案内状が送られる。まあ上位十位以内だと寮室かコテージのどちらかを選べるから俺はコテージにしているわけだが。だって寮室とか寝るときしか使わないし。
月に四回、つまり一週間に一回の頻度でだいたい俺は必ず順位戦を行う必要があるため、その度にこの日時と相手の氏名のみが書かれた無機質な白い紙を受け取っている。だが、今回はどうにもおかしな点がある。
「相手は、マッシュ=バイヤー?戦った事のない相手だな。まあどうにでもなるだろ。」
ほぼ事前情報なしの相手と戦うのはいつものことだ。多少違ったところで毎週のように似たような相手と戦っていれば区別なんてつかないし、つけようがない。それこそ加護が特殊な物であったり、しっかり鍛錬していたりするのであれば話は変わってくるのだが……。
「日時はどうなっている?これは時間帯的には今日の深夜だぞ?」
一点は時間だ。この時間は今日の夜十一時。今が大体八時だから今から三時間後を指定されている。当然あり得ない時間指定だ。生徒会の規定で朝の六時から夜の十時までを開校時間としており、それ以外の時間は外出不可なのである。
「それにこの写真。……ふざけやがって。」
体温が上昇するのを感じる。しばらくぶりに冷え切っていた心に炎が灯る。それに追いつくように指先が震えてきた。
「とりあえず、行くか。」
封筒にさっきまで出していた案内状をしまい、もう一枚の写真を握りしめた。その写真には自分のことを慕ってくれている後輩たちの惨状が写っていた。
*****
生徒会の夜は遅い。朝も早いのだが、それは今関係ないだろう。閉校時間が刻々と迫る中、減りもしない業務をとにかくこなしていた。閉校時間間際まで粘っているメンバーはその日によって変わるが、生徒会長と書記だけはその常連だった。
今日残っていたのは来週の順位戦の組み合わせを担当していた生徒会役員グループだった。どうにも数が合わない。順位戦参加者の総数が偶数になっておらず、このままだと一人だけの順位戦という意味の分からないものが存在してしまうことになる。
その原因は管理が杜撰になってしまう順位が後半に近い生徒同士の順位戦なのだが、その経験による思い込みが発見を遅らせた。
「会長、緊急事態です!」
それに気づいた役員が悲鳴に近い声を上げた。自分の仕事をしながらも時折意識を向けていた生徒会長と書記はその声にすぐ反応した。あわてて駆け寄る女子生徒に顔を向けると相手を落ち着かせるように努めて穏やかな声を出した。
「落ち着いてください、どうしたんですか?」
「テル=ガーディの順位戦が!消滅しています!!」
「……どういうことですか?彼の対戦相手はマクスウェル=ボナパルト先輩のはず。」
「分かりません! 順位戦から彼の名前だけが消されています!」
「……彼の相手は誰になっていますか?」
「それが……」
「構いません。言ってください。」
「……マッシュ=バイヤーです。」
その女子生徒の言葉を聞いた生徒会長の顔から笑みが消えた。能面のような無表情。感情の大きさを笑顔の深さだけで表現しきる彼女が初めてその制御を手放していた。
「……そうですか。ではセントリア王国第二王女としてそのものを国賊認定しましょう。殺害を許可します。……見つけ次第殺しなさい。」
その声は怒りの籠った熱いものでもなく、温度を失った冷ややかなものでもなく、業務報告程度の熱量しかなかった。だが普段からかけ離れた彼女の様子に生徒会室は呼吸も難しくなってしまうほどの緊張感を湛えていた。
そしてそんな張り詰めた空気を破るように足音が聞こえてきた。一瞬気が緩みかけた生徒会役員たちだが、それが気の間違いだったとすぐに気づくことになる。足音が大きくなるとともに体の震えも大きくなっていく。
見てはいけない、知ってはいけない何かが近づいてきている。本能が警鐘を鳴らしているが、視線を閉まった扉から逸らすことができない。
「……よかった、まだいたんだな。」
気配の大きさとは対照的に扉を静かに開いたその男子生徒は彼らが抱えているトラブルの当事者であり、この学院で生徒会長とは別の意味で恐れられている存在である。
「マッシュ=バイヤーって誰だ?あと、これは一体どういうことだ?」
かつてない感情の高ぶりに制御が乱れているのだろう、魔力を周囲に発散させながら姿を現した彼は生徒会長が冷静さを取り戻すには十分なほどの怒気を放ち、周囲を無意識のうちに威圧していた。
―――“鬼神”が帰ってきた……
残っていた生徒会役員たちは一様にそう心の中で思い、直後に意識を手放した。




