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いずれ最果てへ至る神殿師  作者: きりきりきりたんぽ
第一章 王立セントリア学院編
2/54

学院順位8位の男

「これより、順位戦を開始します。

挑戦者、ダミアン=ダラティック。

対するは第8位、テル=ガーディ。

立ち合いは私、神殿祭壇学講師、ビビアン=セインが請け負います。


それでは神殿の御加護があらんことを―――始め。」


始まりの合図と同時に黒髪の少年が剣を片手に飛び出した。先手必勝と言わんばかりに白い魔力の輝きを剣に纏わせ勢いよく切り込んだ。


 対する赤髪の少年は円形の闘技場内で場外ぎりぎりまで下がりながら、杖を持った手を天にかざして大きく叫んだ。


「神殿召喚!来たれ、ペンタゴン神殿!」


 叫んだ彼の全身から赤い魔力の光が溢れ、黒髪の少年を押し返すほどの突風と共に手のひらサイズの神殿を作り出した。中央の祭壇を守るように石柱が囲んでいるそれは、神々しささえ纏い、少年の肩の上あたりに水上の船のように浮かんでいる。


「チッ。速いな。速攻で決めてやろうと思ったんだけどな。」


「悔しかったら先輩も神殿を召喚したらいいじゃないですか。腐っても8位なんだ、召喚できないわけじゃないですよね?」


「そうだといいけどな。でもまあ、今ある加護だけで十分だろ。」


「……随分な挑発じゃないですか。一年生だからって舐めてるんですか?」


「いいや?単純にお前じゃ俺には勝てないってだけだ。」


「噂通り、本当に神殿を出さないんですね。ならいいです。一年の首席である僕が代わりに8位になってあげます。」


「やってみろ。」


 黒髪の少年が剣を持っていない方の右手を赤髪の少年にまっすぐ向けた。直後、その手から魔力の光が溢れ、暴風の壁となって襲い掛かる。


 咄嗟に防御結界を張ることで受けきることができたが、それが少しでも遅れていれば怪我をすることはなくとも場外で負けとなるところであった。


(ッ!?速いッ!神殿を召喚している僕の魔術と同等だって!?だとしたらあまりに速すぎる!)


「おい、順位戦とはいえ、戦いの中だ。考えるのは後にしな。」


 防御結界と攻撃魔術が衝突し、閃光が赤髪の少年の視界を一瞬覆った。その一瞬のうちに相手はついさっきまで立っていた場所から消えてしまっていた。


 少年の前に広がるのはただの円形の闘技場と、それを囲うように設置されている観客席にいる学院の生徒のみだ。重要な敵の姿がどこにも見当たらない。


(おかしいッ!どういうことだ!?神殿を召喚している僕に召喚してない先輩が幻術をかけられるわけがない!それにたとえかけられたとしても、神殿の加護で異常には気づけるはず!)


闘技場の中をキョロキョロとせわしなく視線を動かしている彼であるが、どんなに目を凝らしても相手の姿を見つけることができない。


「ッ!見つけられないなら、手あたり次第やるだけ!

 ―――燦燦たれ、炎の雨!!」


 赤髪の少年の杖の先から放射状に炎が放たれた。それは闘技場の周囲に張られた観客を守るための結界とぶつかり、いくつもの小さな爆発を起こした。


「え?本当にいない……?」


 しかし、それで分かったのはこの闘技場の上には彼以外誰もいないということだけであった。たとえ幻術を使っていようが、何らかの加護で姿を隠していようが、そこにいるのには変わりない。しかし、何も当たった様子がないのは目に見えないだけでなく、その場にすらいないということになる。


 つまり、相手は闘技場の上にはいない。


「まさか!」


 信じがたいと思いながらも咄嗟に視線を上に向けた。


「空中で、完全に静止してる……。まさか、この目で見ることができるとは……。」


 人によって加護はまったく異なるが、それでも空を飛べる能力は希少である。身体能力を高めて大きく飛ぶことはできる、空中で多少は自由に動くこともできるだろう。だが、それでも空中で再度踏み込むことはできない。


「そういうことだ。学院生の加護については外部に漏れないようになっているから知らなかったろ。」


 まるで地面に立っているかのように空中で体勢を整えた黒髪の少年は、小さく剣に再度魔力の光を纏わせた。


 勢いよく剣を振ると剣から幾条もの斬撃が放たれ、まっすぐに赤髪の少年へと迫る。背後に余裕がない少年は逃げることも受けることもできない。

 順位戦は黒髪の少年の空間浮遊の加護による初見殺しで決着かと思われた。


 ―――が。


「ッ!絢爛たれ、ペンタゴン!!」


 赤髪の少年の肩に乗っていた神殿が少年の前に移動し、赤く輝いた。直後、神殿の周囲に水面のような空間の揺らぎが発生した。


 その空間の揺らぎに斬撃が吸い込まれるようにして消え、全ての斬撃を飲み込んだ。


 一年生とは思えないほどの加護の運用に観客席は静まり返った。そしてその静寂を穿つように小さく少年が呟く。


「優雅たれ、ペンタゴン。」


 直後、神殿が輝き、先ほど飲み込んだ幾条もの斬撃がカウンターのように放たれた。


 空間に佇む少年は自らに迫る斬撃の雨を他人事のように眺めていたが、剣を力なく構えると―――。


 金属同士がぶつかる耳をつんざくような大音響が空中から放たれた。


 全ての斬撃を切り落としたのであろう少年は何事もなかったかのように飄々としている。


「やるな。自分の斬撃を受けたのは初めてだぞ。思ったよりも強いんだな。」


(……無茶苦茶すぎる!あれは受けたものの威力を倍にして返すカウンターの加護だぞ。自分の斬撃の倍の威力のをあんな普通な顔をして受けられるのか……!)


「だがこれで終わりだ。

 終を為せ、天なる白雷。」


 剣にかつてないほどの魔力が込められ、刀身が白く輝く。おそらく雷の加護を持つ少年は次で止めと言わんばかりにスパークを発する剣の切先を地面に立つ赤髪の少年へと向けた。

 直後、落雷を思わせるほどの強烈な衝撃と共に音速も欠くやというスピードで攻撃が放たれた。


「ッ!絢爛たれ、ペンタゴン!!」


 競技場に放たれた攻撃が地面に着弾し、大きな振動を起こした。多くの観客が黒髪の少年の勝利を確信し、席を立つものまでいたが、立ち合いをしていた講師と以前空に立つ少年だけはその限りではなかった。

 講師は終了を宣言することはなく、黒髪の少年は地面に降りる様子がない。


 攻撃が衝突し、その土煙が晴れた場所には赤髪の少年が立っていた。


「受けきったか。やるな。」


「はぁ、はぁ……。死ぬかと、思いました。まさか、神殿を使ったカウンターの防壁を貫通してくるなんて……。」


 赤髪の少年の肩に乗っていた神殿は半壊し、もはや十全の機能を果たせていないだろう。そして少年本人も目に見える傷はないが、疲労困憊といった様子である。


(これが、上位10人に入る猛者……。加護も魔術も練度が段違いすぎる。僕も二年後あれだけになれているのか?)


 魔力を使い切り、前かがみに倒れ掛かった赤髪の少年をいつの間にか地面に降り立っていた黒髪の少年が支えた。


「すまないな。今回は最初の順位戦だったんだ、手を抜けなかった。」


「だとしてもです。……強いですね、先輩は。」


「そりゃそうだ、これでも8位だしな。」


「でも、そんな先輩の神殿を、見たかった……。」


 力なく倒れこんだ赤髪の少年を確認した立ち合いの講師が黒髪の少年の勝利を声高に宣言した。

 会場は一番の大きな盛り上がりを見せた。




 一年生の首席入学者と、四年制の学院で三年生にして8位となった実力者同士の戦いは観客にも大きな興奮を与えた。

 一年生で神殿を召喚したぞ、とかやっぱりあいつは神殿を呼ばなかったか、とか。


 そんな興奮冷めやらぬ影で黒髪の少年は一人、颯爽と寮の自室に帰っていた。残っていたら囲まれるのが分かっていたからである。

 神殿を一切出さないで戦う彼は良くも悪くも話題を呼ぶ。適当にあしらわれたと思う人間は彼に怒りを向けるだろうし、単純に加護と魔術の運用について素晴らしいと思う人間は尊敬を向けるだろう。


 腑抜けだとバカにされたこともある、神殿を出すよう強要されたこともある。


 だが、そんなことがあったのになぜ彼は一度も神殿を召喚しないのか。


 自室のベッドに横になりながら少年は小さく呟いた。


「神殿召喚、来たれロムス神殿。」


 彼の言葉に反応し加護の輝きが一層増し、神殿が召喚された。だが―――、


「……これはさすがに見せられないよな。」


 彼が呼び出した庭園を模した神殿は壊れかけており、中央の祭壇から黒い瘴気のようなものが放たれている。その神殿を囲う湖は黒く変色し、神々しさとはかけ離れた禍々しさすら感じる代物である。

 これまでこんな神殿を出しているのなんて自分以外で見たことがない。


 なぜ彼がこの黒神殿とでも言うべきものを召喚できたのか、その理由を、その意味を彼はまだ知らない。


一日二話投稿(12時、18時)です。

よろしくお願いします。

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