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いずれ最果てへ至る神殿師  作者: きりきりきりたんぽ
第一章 王立セントリア学院編
19/54

本領

 観客席に座る生徒を含め、その場に居合わせた全員がその不気味さを肌で感じ取った。あるものは攻撃を受けている少女が笑みを浮かべたことに、またあるものは無関心を貫いていた少女が相手に関心を持ったことに、そしてあるものは闘技場の空気が正反対に一変したことに。


 直後、少女の全身から火柱が上がり、天を衝いた。即座に発動されたにはあまりにも強力な魔術にケセラも思わず攻撃を止めた。


「あっは。あっはははは!あー、ごめんね。見くびってたよー。」


 笑い声と共に炎の中から少女が姿を現した。全身に炎を纏い、そしてその炎が生傷を撫でるように触れ、その直後から治療されているのが分かる。


「……ようやく、私を見たか。」


「後輩に見せるにはあまりにも味気ない戦いになりそうでさー、やる気がなかったんだけど。

 うん、少しは歯ごたえがある相手だったみたいだねー。認めるよ。えーと、ケセラさん?」


「……今はそれでいい。終わった後には先輩と言わせてやろう。」


「あー、先輩だったんだー……。まあいいや。行くよー?

 ―――四季翼、発動。タイプ・ブレイズ。」


 その言葉の直後、ルカの背に一対の炎の翼が出来上がった。まるで炎の天使のような相貌となった彼女は謳うように言葉を発する。


「煌々たれ、炎の槍。」


 杖も持たない掌をまっすぐにケセラに向けた直後、炎が噴き出しまっすぐにケセラへと襲い掛かる。それは槍というにはあまりにも大きく、そして儀式のための礼装のような、戦闘に向かない優美な形状をしていた。


 ルカの炎の槍がケセラの張った風の防壁に衝突した。しかし、その拮抗は一瞬の後に崩され、炎の槍が壁を突き破った。


「くっ!!」


 風の防壁を食い破ったはいいものの、その時に軌道をずらされていたこともあり、ケセラはギリギリ加護で攻撃を逸らしきることができた。


「あはは。避けきったんだー。さすがだね、先輩。加護あり、詠唱ありの魔術をいなされたのは久しぶりだよー。」


 相変わらずのんびりした様子であるが、その声には熱意を隠しきれていない。


「……はぁ、はぁ。……ふぅ。やはり強いな。」


 ケセラは突然迫った強力な攻撃に上がった息を整えている。


「ありがとう。でもさ、もう先輩に勝ち目はないよー?」


「……何?」


 その嬉しそうな声には確信があった。


「だって、先輩の加護の根底にあるのは追い風と向かい風。バフとデバフを同時にかけてるから分かりづらいけど、複雑なようで単純なんでしょー?」


 だから先輩に近づけば近づくほどこっちにデバフがかかるし、代わりに先輩にバフがかかるんでしょ?と言いたげである。だが、


「……」


 ケセラはルカの問には無言で答えた。


「でもさ、だったらその風を乱せばいい。例えば、ほら。炎による上昇気流とかでね。」


 ケセラの暴風無双はルカの元にはもう届いていない。ルカの炎により風は乱され、もはやデバフは意味を為していない上に、バフも半減してしまっている。


「……その程度で私の暴風無双を攻略できたとでも?それを想定していないとでも思ったのか?」


「あはは、どうだろうねー?それにね、知ってると思うけど、私の四季翼は便利でさ。炎、水、光、闇の四属性を強化できるんだよね。でもその分同時に二属性は無理だし、どの属性を強化してるかは見た目でバレちゃうんだけどさ。」


 炎の翼を水や光、闇に変えアピールをしている。その四つの属性を強化できるのであろう。

 確かに素で強力な魔術を放つルカが攻撃力を上げる加護を使ってくるとなると脅威だ。およそ魔術という戦場では勝ち目がなくなるだろう。


 だが、ケセラの中ではそれよりも大きな違和感が首をもたげていた。


「……なぜ、自分の加護を明かす?自分に有利になることはないだろう?」


「え?だってさー、明かしたところで何も変わらないじゃん。私があんまり四季翼を使わないのはあってもなくても変わらないからなんだよねー。

まあ、そんなことはどうでもよくてさ。もう私の勝ちは決まってるんだよねー。」


 ほら、と言いたげにルカは空を指さした。空には突如として暗雲が現れ、太陽を覆った。


「……雲?さっきまで晴れていたはずだが。

 まさか!?」


「その通り。上昇気流で雲を作り出したってことだよ。でも、当然それだけじゃ足りないから少し工夫をしたけどね。」


「……だったら、なんだというのだ?雲があるだけで私に勝てるとでも?」


 ケセラのその言葉は内容とは正反対に、ルカが何を考えているかが分からないことの不安に震えていた。今では加護の説明が時間稼ぎだったことも分かっているが、切り札であるはずの加護の開示に匹敵するものが迫ってきているのだ。


「私はさ、自分でも天才だとは思ってるんだよねー。できないことは基本ないと思っているくらいなんだけどさ、でもできないこともしっかりあるんだよねー。

 例えばほら、私のリーダーの雷とかね。」


「……雷?まさか、お前もあの神の如き雷を使えるとでも?」


「まさか!でもね、少し頑張れば再現できるかも、って思うんだよねー。

 だから、いくよ。」


 黒雲からは既に雷の予兆が雨と鳴動となって告げられている。


 誰もが数秒後に起こることを予測できた。間違いない、ルカはテルの代名詞の一つ、白雷を今この場で再現しようとしているのだと。


「終を為せ、天なる白雷、ってねー。」


 ニコリと笑みを浮かべた直後、小さく呟いた。


 直後、空が震える鳴動の後に白雷が落ち、闘技場内を白く染め上げた。


*****


 あふれんばかりの拍手の喝采に会場が満ちる中、俺はおそらくただ一人、人知れず落ち込んでいた。


「……やられた。」


 何かやらかすと思っていたが、まさか俺の雷撃をパクってくるとは思わなかった。しかもあれは加護じゃない。自然現象を使った純粋な雷だ。こと純粋な威力だけなら俺よりも強いかもしれない。


……ありえない。天才なんて言葉じゃ足りないだろ。加護を魔術で疑似再現できるなんて。


「テル先輩!すごいですね、ルカ先輩がやりましたよ!」


「ああ、言った通りだっただろ?ルカは負けないってな。」


「あれ?でもなんか先輩元気ないですね?」


「……あ、ああ。いや、気にするな。想像以上のことをしてくれたなぁ、ってだけだから。」


 憎たらしいほどかわいらしい笑顔を浮かべながら手を振ってくるルカに渋々手を振り返した。


*****


「勝つのは分かっていましたが、少しひやひやしましたね。」

「彼女は天才と名高い才女ですからね。でもアリス、あなたがリアルタイムで観戦するなんて珍しいこともあったものですね?」

「別に珍しくはありませんよ。テル=ガーディの順位戦は毎回見ているはずですが?たまたま彼のパーティーメンバーの順位戦も直接見ようと思っても変ではないでしょう。」

「そうですかねぇ。あの時テルさんのパーティーと夕飯をご一緒させていただいた時に何かあったんじゃないですか?二人で何か話してたみたいですし。」

「……深入りは無用です、リア。」

「そうしましょうかね。アリスに友人ができるかもしれませんもんね。」

「だから深入りは無用です!」

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