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いずれ最果てへ至る神殿師  作者: きりきりきりたんぽ
第一章 王立セントリア学院編
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反撃

 ルカの隠しもしない無関心な態度にケセラはとうとう堪忍袋の緒が切れたのだろう、契約主に呼応するように神殿の輝きも増してきた。


「……いいだろう。もう、冗談では済まさないからな……!」


「あなたの存在が冗談みたいなもんだよー。……さっさとしてくれないかな?」


「ッ!くらえっ!」


 ルカに向けられた杖の先から三日月形の風の刃がいくつも放たれ、ルカに襲い掛かる。それらは全部がまっすぐ突き進んでいるわけではなく、カーブのように曲がったり、突然軌道がぶれたりなどしている。光の次に速いスピードと、目に見えづらい色をしているため、ただでさえ難しい認識が、より難しくなっているだろう。


躱しきることはまずできない。直感で観客がそう思った直後、それは一瞬で裏切られることになる。


 ルカはその場から一歩も動くことなく、全てを躱しきっていた。標的を失った風の刃が観客用の防御結界に虚しく衝突し、土煙を上げた。


「……それでー?」


「ッ!まだだッ!」


 ケセラは再度攻撃を始めた。慣れているのだろう、連続で発動させているにもかかわらず発動速度も速く、しっかりと変化球も盛り込まれている。だが、それでは足りない。ルカの防御を突き破るにはあまりにも弱かった。


「ねぇ、これいつまでやるのー?」


 十秒もすればルカからそんな呆れたような、疲れたような声が聞こえてくる。実際彼女にとってみればなにも面白くないことが起こっているのだろう。


「こんなくだらないことしてないでさー、さっさと使えばいいじゃん。」


「……何をだ?」


「加護だよ。これってさー、要は時間稼ぎでしょー?」


 パチン、と指が鳴った。その音は小さかったが、それ以上に闘技場内に反響し、響き渡った。


 その音と共にルカを中心として爆発が起こった。決して大きな爆発ではなかったが、その目的は爆風であった。

 突如発生した爆風に風の刃はあらぬ方向に吹き飛ばされ、そしてその暴威はケセラにまで迫った。


「くっ!」


 その爆風を全身に受けたケセラはわずかに後退し、その目をルカに向けた。


「別に邪魔するつもりなんてないからさー、さっさとしてよ。どうせ発動に時間がかかる代わりに発動したら勝ち系のなんでしょー?ならほら、さっさとして。」


 爆煙の中から姿を現したルカはどこまでも面倒臭そうにしている。まだ軽蔑されているのであればよかった。軽蔑は油断を呼び、油断は勝敗を包み隠す。

 だが、ルカは一貫して無関心。虫が羽音を立てて周囲を飛んでいるようである。虫相手に本気で敵意を抱く人間はいないが、もし耳元を通れば即座に反撃できる程度には誰もが意識を割いているのだ。


 その姿を見たケセラは今度は怒りに表情を歪めることなく、静かに行動を開始した。


「……山を越え、海を駆け、天より至り、大地を撫でろ。

 大いなる風、暴風無双。」


 加護や魔術は本来五つのステップを踏むことで発動する。

使う加護や魔術を選ぶ“選択”、その鋳型と魔力を繋げる“把握”、魔力を注ぎ込む“補充”、魔力を注ぎきった“飽和“、そして任意のタイミングで“起動“。これを意識の裏でする必要があるが、威力が上がったり攻撃範囲や手数が増えたりすると、この工程がどんどん複雑になり時間がかかるようになる。

神殿師は通常これらを詠唱や掌印等の特定の動作によって補助を行い、その前半工程である選択と把握を短縮して使うことができる。その結果、補充の段階で注ぎ込める魔力の量が増えるため、飽和の段階での密度が上がり、威力や効果が上昇する。


 その結果、ケセラは彼の持つ加護の中で最も後に獲得した最強の加護、暴風無双を発動させた。


 ケセラを中心に周囲へと肌でギリギリ感じる程度の微風が放たれた。肌を撫でる帝都のその風は風力の強さからは考えられないほど強力な効果を持つ。


「へー……。見たところ自分にはバフを、範囲内の敵にはデバフをかける感じだねー。しかもその範囲はそれなりに広い。少なくともこの闘技場は全部覆ってる。」


「そうだ。これまでと同じだとは思わないことだ。

 切り離せ、風来斬。」


 最初と同じ魔術が放たれる。だが、それはケセラ本人の言う通りにまったく同じものではない。暴風無双によるバフとデバフは当然だが、今度は魔術の詠唱による威力の底上げも同時に行っている。


 その結果、


「……。」


 風の刃はルカの守りを突き破り、彼女の頬に薄い傷をつけた。


*****


「ルカ先輩ッ!?」


 アルメアから短い悲鳴が漏れる。


「あちらの先輩の攻撃が入った……?でも、そもそもルカ先輩はどうやって攻撃を防いでいたんだろう?

何かの加護?でも口ぶりから使ってるとは思えないし……。」


 ダミアンは顎に手を当てて真剣に闘技場へと視線を送っている。


 実際ルカがやっていることは無詠唱の風属性魔術による防御だ。しかも防御と言っても結界魔術で受けた訳ではなく、攻撃魔術で捌ききっていたのだ。


 攻撃魔術が矛であれば結界魔術は盾のようなものであり、ルカがしていたことは相手の剣を盾ではなく、剣で捌いたようなものである。しかも、ケセラの攻撃は剣というよりは矢のようなスピードと手数をしている。


 つまり何が言いたいかというと、やばい。言ってしまえば矢の雨の中を剣で全てを切り落としていたということだ。しかもよそ見をしながら。理論的には不可能ではないが、実現は不可能だ、と思う。ルカ以外は。


 これでも飛行の加護の影響か空間の把握は結構得意な方だ。だから剣ならギリギリできるかもしれないが、魔術じゃ絶対できない。


 とはいえだ。人間離れした魔術の運用をしていることに違いはない。だが、


「加護と詠唱魔術を迎え撃つにはさすがに無茶が過ぎたか。」


 現にケセラの攻撃はルカの肌に傷をつけた。


「どういうことですか?」


 独り言を耳ざとく聞きとったダミアンから聞かれた。ルカの戦い方を話していいものかと少し迷ったが、正直今更だ。本人も隠してないし、多くの学生が知っている。


「ルカに攻撃が当たらなかったのは加護じゃない。ただの無詠唱の魔術だよ。」


「あの威力の魔術を無詠唱で、ですか?結界魔術でも難しいですよね。」


「……いや、でもだったら観客席の結界に魔術が当たるはずがないよ。だから結界魔術じゃない。」


「え?じゃあ攻撃魔術で迎え撃っていたっていうこと?」


「……信じがたいけど、そうなるよね。テル先輩、合ってますか?」


「ああ、合っている。ただ付け加えるとすればルカ以外は絶対できないだろうということだな。」


 そう、誰にもできない。だから知ったところでどうしようもないし、ルカも隠していない。


 通常の戦いは先手必勝だが、その中でも魔術戦はいっそう顕著だ。なにせ魔術の攻撃は速く、とても目で見て対処できるほどではないからだ。それにもし魔術で迎え撃とうとすれば、敵の攻撃を認識し、それに対応する魔術を編み出す、という工程を相手の魔術が自分に到着する前に完成させなければならない。

 とてもじゃないが、そんなことはできない。大抵の場合、認識した時には反撃が間に合わない。一人前と言われるレベルの神殿師であっても、使う魔術を結界魔術に絞って間に合う程度なのだ。


 ルカがやっているのはそれよりもはるかにレベルが上の芸当なのだ。すなわち、相手の攻撃を認識し、対応する魔術を選び、それを発動させる。一秒に満たない時間で三つの工程を完璧な形で遂行している。

 具体的には魔力を揺蕩う透明の刃に変えて攻撃の全ての軌道を逸らすことで攻撃を回避していた。だが、基本的にはルカが認識することが必要であり、それを超える速度で迫る攻撃には反応することができないし、もし反応できたとしても一定の攻撃力を超える攻撃はそらしきることができない。その結果が今なのだろう。


「それは、テル先輩でもですか……?」


「できないな。ルカは正真正銘、掛け値なしの天才だ。才能でルカに勝てるのはいたとしても同世代じゃ生徒会長だけだろう。」


 正直生徒会長は訳が分からん位強い。一位にならない理由だって、勝てないからじゃなくて先輩を立てるつもりだからだろうしな。


「だから、ほら。大丈夫だって、アルメア。あいつが負けるわけがない。」


「……テル先輩。」


「正直知っている後輩の前だからって変に張り切っていないかが心配だったくらいだ。

 ……二人ともよく見ろ。とうとうルカが動くぞ。」


 ルカの身体は絶えず迫りくる攻撃に少しずつ生傷が増え、制服にも傷がついている。が、その顔に小さな笑みが浮かんだのを俺は確かに見た。

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