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いずれ最果てへ至る神殿師  作者: きりきりきりたんぽ
第一章 王立セントリア学院編
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雪辱

 学院順位戦。学生全員に順位が割り振られており、学年の垣根を越えて順位を競い合う。卒業後の進路が関わっていることもそうであるが、基本的に向上心が高い学院生にとって、この順位戦は学院全体を巻き込んだ一大イベントなのである。


 基本的な順位戦の流れはこうだ。

生徒会に自分より上位の希望する相手との順位戦の申請書を提出する。その後、生徒会からその順位戦が妥当かどうかの判断が為され、問題がなければ双方共に順位戦の案内が届く。基本的にその案内が届いてしまえば断ることはできない。

しかし、そうなると上位勢は順位戦ばかりで授業どころではなくなってしまう。そのため、一人の生徒につき順位戦自体が一月に四回までしかできないとなっている。


 上記のような決まりがあれど、学院の生徒数は多いため、毎日のように順位戦が行われており、その観戦は学院生であれば自由である。基本的には戦っている人の順位に近い人が集まる傾向があるが、上位陣になってくるとその限りではない。


 例えば―――


「それでは、順位戦を始めます。

挑戦者、ケセラ=バセリ。

対するは第23位、ルカ=セレンディ。

立会は私、神殿史学講師、ローズ=アリエッティが務めます。


 それでは神殿の御加護があらんことを。―――はじめ。」


 各学年は三百名、占めて総生徒数千二百名となるこの学院で、上位30位以内が関わる順位戦は殊更注目が集まる。最も上位10位以内ほどではないのだが、ほとんど誤差である。


 今日も23位であるルカの順位戦であるということで、学年の垣根を越えて多くの生徒が集まっている。ルカは開始の合図があったものの、その目は相手ではなく観客席に向けられており、誰かを探しているようである。


「私を覚えているか?ルカ=セレンディ。」


 開始の合図の後、ケセラという名の男子生徒は体を震わせながら問いかけた。顔には微笑みを張り付けているものの、その目には怒りがこもっている。額は緑色の髪に隠れているが、間違いなくその裏には青筋が浮かんでいるだろう。


「ん?……え?だれ?知らないんだけどー?」


 声をかけられたルカがちらっと対戦相手の方を見たが、すぐに興味を無くしたように視線を再度観客席の方に戻した。そしてついに誰か探し人を見つけたようで陽気に手を振っている。


 その間にもケセラの体は震えが大きくなってきており、そのあまりに強い激情にコントロールが乱れているのか、魔力が漏れ始めている。その様に何も思わなかったのはおそらくルカだけであろう。それ以外の人間はその不遇さに憐憫の情を抱いたはずである。


「私はッ!元23位だったケセラ=バセリだッ!あの時の雪辱を果たしに来たッ!」


 その宣言と共に突風が放たれ、ルカに襲い掛かる。純粋な魔力の発露。加護どころか魔術ですらないそれに、ルカはようやく体を対戦相手に向けた。そして手を顎に当てて思い出すような仕草をしたが、出た結論は変わらなかった。


「んー?……ごめん、やっぱり知らないや。だれ?」


 不憫、その男はあまりに不憫だった。どんな戦いが見られるんだろうとワクワクしてきた一,二年生も、次の順位戦に役立てるために情報収集に来たであろう四年生も、ルカの応援に来た三年生も、抱いたのはただそれだった。


 しかし、その無意識な挑発にケセラは再度体を震わせることで抑え、すぐに杖を構えた。


「ククク……!分かってましたよ、あなたがそういう人間だということも!

ならばッ!思い出させるまでだッ!


神殿召喚。来たれ、ポラリス神殿。」


ケセラの体から緑色の輝きが溢れ、神殿を形作る。中央の祭壇が出来上がり、それを囲うように一面の花畑が形成される。楽園を模したその神殿こそがポラリス神殿であった。


 それを前にしてもルカはボーっとしているだけである。それどころかあくびを噛み殺したような声で答えた。


「ふーん。まあなんでもいいんだけどさー、早くしてよー。」


「……神殿の召喚をしないのか?」


 ルカの無礼に対して怒るのはやめたのか、ケセラが問いかける。


 神殿師同士の戦いは基本的には片方が神殿を出したらもう片方も神殿を出すのがふつうである。なにせ神殿を出す方が純粋に強いからである。


 魔力の出力が上がり、それは魔術と加護の効果が上がることを意味する。それに魔術であれば、発動速度、威力、発射速度等が全体的に大幅に強化され、加護であればそれに加え神殿に付与されている加護も運用できるようになる。


 つまり神殿を召喚すると、超強力なバフと加護を一つもらえる、といった状態になるのだ。


 だからこそ、神殿を召喚できる人とできない人では大きな差が存在するのだ。


「え?だって私ってあなたと戦った事があるんでしょー?でも、私が覚えてないってことはさー、そういうことじゃん?」


 お前相手に神殿を出す必要もない、片手間でも十分だとその態度が雄弁に語っていた。


「ふッ……、ふざけるなッ!どれほど私を愚弄すれば気が済むッ!貴様は礼儀というものがないのかッ!」


 闘技場には不似合いな怒号が響き渡る。


「はー?それを言うならあなたの方じゃん。なんで最初攻撃してこなかったのさー?せっかくよそ見してたのに。

 挑戦者の癖に何を調子に乗ってるのかなー?」


「それは人道に反するからだろう!私は敵の背中を打ち抜いて手柄などと言うほど落ちぶれてはいない!」


「だからさー、それは背中を打ち抜ける人が言うセリフでしょー?できもしないことを言わないでほしいなー。」


 ケセラが言っていることは大方正しい。人としても彼は間違いなくまともだし、善性よりであろう。だが、ルカという天才を前に常識を語ること自体が間違っているのだ。天才と凡人が同じ景色を見ているはずがないのに。


*****


「はぁー……。やっぱりこうなったか。まあ、まだましな方か。」


 俺はその観客席の中でため息をついていた。ルカの順位戦は良くも悪くもいつも荒れる。彼女の才走る戦いに賛美を贈るものいれば、その破天荒ぶりに嫌悪感を隠さないものもいる。……まあ、それは俺のもそうなんだがな。


「やっぱり、ってわかってたんですか?」


 隣の席で観戦しているダミアンが少し揺れた声で話しかけてくる。そしてそんな彼の隣には幼馴染というアルメアが座っている。……幼馴染、ね。

たまたま総合競技場の前で会ったからなんだかんだ一緒に観戦しているが、二人で見た方が楽しいんじゃないか?


「ああ、ルカはだいたいいつもこんな感じだ。今日のは相手がヒートアップしてるから盛り上がってるみたいだがな。」


「よかった、普段はここまでじゃないんですね。」


 あの時ルカと一緒に行動していたためだろう、アルメアがほっとしたように呟いた。俺からしたら、まあ、なんだかなぁ、という感じなんだが、言わない方が良いのかもしれないな。


「でもあの先輩もとても弱そうには見えませんけど……。」


「そりゃそうだ。あの先輩だって今何位かは知らないが、一時期は23位に居た人なんだ。優秀だよ。」


 それは本当に思う。あの人だって決して弱くはない。才能もあるだろうし、努力もしてきたんだと思う。あの神殿がその証明だ。


「ですよね。でも、ならなんでルカ先輩はあんな態度を取っているんでしょう?」


「まあ、見てれば分かる。……動くぞ。」

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