赤き巨人と茸怪獣
全生物防衛隊WACは怪獣災害を未然に食い止める活動を行っている。
この物語は若きWAC隊員・善知鳥ジンの物語である。
なお、ジン隊員の正体が宇宙人・アルティメマンライガーであることを知っているのはWAC隊長だけであった。
ジン隊員は、ある研究所を訪れていた。そこでは新種のキノコを研究がおこなわれていた。
XI様主催『がすますく企画』参加作品です。
全生物防衛隊WACの善知鳥ジン隊員は、とある山の中に来ていた。
うっそうとした森に建つ研究所は、くすんだ壁がツタに覆わており、雰囲気はどこか不気味だった。
彼は、WAC隊長の指示でこの場所を訪れ、キノコの研究を見学することになった。
WACは怪獣と対峙する時に様々な薬品を使い、怪獣をおとなしくさせることや眠らせる作戦をとっている。
この研究所では、そういった薬品の研究もおこなっているのだ。
研究所に入ると、白衣をまとった研究者たちが忙しく働いていた。
壁にはキノコのポスターや研究データが貼り出され、その中には未知の新種キノコに関するものもあった。
ジンは興奮しながら研究所を見渡した。
マツタケにトリュフ、コウタケ、ウシビテイといった高級キノコがずらりと並んでいる。
後で試食もさせてもらえるそうだ。
この研究所で寝泊まりする職員たちもおいしく滋養のあるキノコを毎日食べており、病気知らずというらしい。
ジンの相手をする相ノ谷博士は、年配の紳士であり、キノコについての知識と情熱が伝わってくる存在だった。
ジンに対して親切に微笑みかけながら、新種キノコの研究を説明し始めた。
「善知鳥隊員、今日は私たちの特別な研究をご覧いただき、ご協力いただけることに感謝しています。こちらが私たちが最近発見した新種キノコ、『冬獣夏草』です。これは土の中で虫や小動物に寄生して育つ、非常に貴重なキノコなのです。漢方薬としても非常に重宝されています」
ジンは博士が示すキノコをじっくりと観察し、その不気味な形状と色に驚いた。
それはまるで人間が苦しんで、もがいているような形状である。
ジンはなんとなく、引き抜くと叫びだす人面植物を思い浮かべた。
博士はジンに説明を続ける。
現在研究中の新種のキノコの価値は計り知れないものだと、熱心に語った。
「さらに、私たちは冬獣夏草の研究をさらに進めて、イカにこのキノコを寄生させる試みを行っています。イカも漢方薬として使われており、とくに血液の病気にきく薬ができます。新種のキノコはイカの薬効との相乗効果に期待が寄せられているのです」
ジンは驚くとともに、新種キノコに興味がわいた。
以前にテレビでみた料理をテーマにした作品で、冬虫夏草のスープがでていたのだ。
彼はこの新種のキノコはどういう味だろうかをあれこれ想像していた。
研究所の雰囲気と新種キノコの不思議な性質に引かれ、彼はこの研究をもう少し見ていくことにした。
WAC隊長からは、必要であれば一泊してきてよいと許可をうけている。
夕食では研究所で採れたキノコをごちそうになった。
職員たちに間では、網に乗せた高級キノコを手持ちのバーナーで焼いて食べるのが流行っていた。
ジンもそのやり方を試させてもらい、焼き立ての香ばしいキノコを味わった。
その時は、ジンも職員たちも気づいていなかった。
研究所の奥にある培養ケースの1つで、あるキノコが不自然な動きをしていた。
キノコの大きなカサの下に、動物のクチの様な穴があき、そこにキバのようなものが無数に生えていた。
そしてイカのような触手が生えて動き出したのだ。
ジンは研究所内の客室で休んでいた。
WAC本部へは研究所で見聞きした内容を伝えている。
他の隊員からマツタケをお土産に持って帰るように頼まれた。
その時、室外から悲鳴が聞こえた。
ジンは部屋を飛び出し、声の方にかけつけた。
夕食を共にした職員がいて、それに太いヘビのようなものが絡みついている。
少し離れた場所では、別の職人も同じ何かに絡みつかれている。
ジンは驚いたが、近くの職員に駆け寄って絡みついたものを外そうとした。
かなり強力な力で締め上げている。
実はジンは地球人ではない。彼はネコ座H85星から来た宇宙人なのである。
変身によって元の姿になると、ビルと同じぐらいの大きさになる。
人間体でも地球人より力が強く、なんとか引きはがすことができた。
職員によると、この触手のようなものはキノコらしい。
研究所のあちこちに奇妙なキノコが出現したようだ。
「食堂からバーナーを持ってきてください。焼き払うしかないでしょう」
ジンの言葉をきいて、職員は食堂に向かって駆け出した。
ジンはキノコの触手に絡みつかれた他の職員達も引きはがしていった。
何本もの触手がジンに迫ったが、得意の拳法ではじき返した。
「善知鳥隊員。バーナーを持ってきました!」
相ノ谷博士を先頭に、職員たちが駆けつけてきた。
職人の持ったカゴに、たくさんのバーナーと予備のガスボンベが入っていた。
皆がバーナーを手に持って、火炎を触手に吹き付けた。
香ばしいキノコの香りが研究所内に立ち込める。
「博士、あれはいったい何ですか? 研究所ではあのようなキノコがいるんですか?」
「信じられんことですが、あの触手の模様は研究中の冬獣夏草に似ています。我々の予想外の進化をしたのかもしれません」
「なるほど。とにかく、ここにいるのは危険です。博士と職員の皆様は研究室から脱出してください。オレはWAC本部に連絡します」
相ノ谷博士と職員たち自動車に乗り込んだ。
博士は助手席の扉をあけてジンを呼んだ。
「善知鳥隊員、あなたも早く!」
「いえ、行ってください。オレは大丈夫です。少し離れた場所でWAC本部と連携して動きます!」
「わかりましたっ。お気をつけて!」
数台の自動車が研究所を離れて夜の山中に走り出した時、バリバリという音が響いた。
建て屋の壁が崩れ始め、窓ガラスの向こうで火花のような光が見えた。
「は、博士……あれはっ!」
後部座席の職員が後ろをみて叫んだ。
相ノ谷博士がミラーを見ると、崩れた建屋から、それの巨体が姿を見えた。
「キノコの……怪獣?」
* * * * * *
「マホロバ隊長。G2地区の山中に植物型の怪獣の出現を確認しました。ジンのいる相ノ谷研究所です」
レーダーを操作していたタテナガ隊員がそう告げた。
全生物防衛隊WACの基地では怪獣出現のアラートが鳴り響いている。
すでにジンから研究所の異常は伝えられている。
WACのマホロバ隊長は相ノ谷博士と携帯通信機で連絡がとれた。
その怪獣はキノコに触手が生えたような形状をしている。
研究所にあった冬獣夏草のような細身ではなく、胴体が太くて大きなカサを持っている。
おそらく研究所内の他のキノコを捕食して、まったく別の種類になっているようだ。
通信を切ったマホロバ隊長は隊員に指示を出していった。
「この場はカミシモ副隊長に任せる。オレとナナメ隊員はWACスパロウで現場へ急行。ヨコマル隊員はWACビークルに焼却弾と消火弾を積んで現場に向かえ」
その時、長髪のカミシモ副隊長はマホロバ隊長に話しかけた。
「隊長。キノコ型ですよね。胞子の中毒が気になります。出動する皆様は特殊防毒マスクも持参してください。それとWACスパロウにはGMKコンテナも積んでいかれてはいかがでしょう。こんなこともあろうかと新開発していたやつです」
「なるほど。そのとおりだ。WAC隊、出動!」
「「了解!」」
* * * * * *
キノコ怪獣は破壊された研究所から離れて山の麓の方向へ移動を始めた。
ジン隊員は、目視で確認できる怪獣の情報をWAC本部に伝えおわった。
WACスパロウがこちらに向かっていることはわかっている。
が、WACスパロウの火力であのキノコを退治できるかは不明だ。
周囲には他の人間はいない。変身するチャンスであった。
ジン隊員は両手首のブレスレットを打ちあわせた。
「ライガーーーーーー」
月明りの下に赤く燃えるオーラの巨人が現れた。
アルティメマンライガーである。
ライガーに気づいたのか、キノコ怪獣は移動を停めてライガーに向き直った。
そして触手をライガーに伸ばした。
ライガーは拳法の動きでその触手を払いのけ、右手の掌底を怪獣の胴体につき込んだ。
ボヨンという弾力で返された。
ライガーは突き・蹴りなどを主体とした宇宙格闘技を心得ている。
しかし、WAC隊長から打撃技はなるべく避けるように命じられている。
うかつに怪獣を殴れば、あとでジンが隊長に怒られるのだ。
ただし、打撃を避ける理由の一つは動物愛護の意味もある。
怪獣も地球で生きる生命とみなし、なるべく殺さずに退散させるのがよいとされる。
WACもスポンサーの意向には逆らいづらいのだ。
この場合はイカの細胞を取り入れているとはいえ、植物系怪獣である。
怪獣を巣に戻す作戦も今回は使えない。
そして、変身前にキノコ怪獣を倒す許可はWAC隊長からもらっていたのだ。
キノコ怪獣が触手を振り下ろした。
ライガーはそれをかわすと、全力の正拳突きをキノコ怪獣に打ち込んだ。
ブボッ!!
キノコ怪獣の全身から白い粉のようなものが、ガスが噴出するようにまき散らされた。
たまらずライガーは激しくせき込んだ。
必要な場合は宇宙空間を飛ぶこともできるが、地球上で常に無呼吸でいられるわけではないのだ。
「ライガー! これを使えっ!」
マホロバ隊長の拡声器の声が響いた。
二対の回転翼をつけた小型飛行機が飛んできていたのだ。
WACスパロウだ。
その機体に吊り下げられたコンテナが分離された。
パラシュートとともに降りてきたコンテナをライガーが受け止めた。
コンテナが開くと、ライガーの顔のサイズにあわせたガスマスクがでてきた。
「ライガー。数分程度だが、キノコの胞子を停められるはずだっ」
ライガーはマスクを装着した。
これで反撃開始だっ。
キノコがもう一度胞子を吹き出したが、ライガーには効かない。
ライガーの後ろ回し蹴りがキノコ怪獣に炸裂した。
WACスパロウから女性の声が拡声器で響いた。
ナナメ隊員の声だ。
「ライガー。消火弾を積んだWACビークルが到着しました! 炎の技を使っても大丈夫ですっ」
それを聞くとライガーは大空高くジャンプした。
満月を背景に、ライガーが宙を舞う。
ライガーが両手首のブレスレットを合わせると、その右手が炎に包まれた。
ライガーはキノコ怪獣の頭部に炎の塊りをダンクシュートした。
たちまち怪獣は炎に包まれる。
森林への延焼はWACスパロウとWACビークルによって食い止められている。
それを見届けたライガーはWACスパロウとWACビークルに敬礼をし、空へ飛び立っていった。
その後、地上にいたジン隊員はWACビークルに回収された。
* * * * * *
WAC基地には相ノ谷博士が来ていた。
「このたびはほんとうにご迷惑をおかけしました。よろしければ皆さんでこれを召し上がってください」
マホロバ隊長は高級キノコの詰め合わせの箱を受け取ると、ナナメ隊員に渡した。
後ろでWAC隊員たちが歓声を上げた。
相ノ谷博士は隊員たちにそれぞれのキノコの説明を始めた。
ジンもそれを見ていたが、その肩をマホロバ隊長がぽんと叩いた。
「ジン、怪獣への打撃は慎重にやれと言ってるだろう」
怪獣はその体内に毒物や病原菌、寄生虫を持っている場合がある。
怪獣を傷つけたり殺すことは、怪獣が暴れるより環境被害が大きいかもしれないのだ。
WACの任務は怪獣退治が専門ではなく、人間を含むすべての生物を慈しむことがモットーである。
「後で特訓だな、ジン」
「勘弁してくださいよ。たいちょー」
マホロバ隊長の組手は、宇宙人であるジンにとってもかなりキツいのである。
「ま、そのまえにおいしいキノコをいただくとしようか」
「「了解!」」