ぼくらの防犯対策(X大学歴史研究会・鍋パーティーの夜)
「おいっ!!きたぞ」
「あ、あれか……」
小僧たちが見ているのは、出前機を装備した、古い原付バイクであった。
接合部分は腐食しており、本来なら容易に取り外し出来るはずのものが、錆によってしっかりと固定されてしまっている。
バイクは、駐輪場に止まった。
若い男がきっちりとワイヤーを掛けて、建物の中に消える。
「いけっ!いまだ」
小僧たちが走り出した。
男はもう見えない。
「本当だ……」
車体には、イタリアの超高級自動車のステッカーが貼ってある。
「でも、エンブレムは国産のものだぜ」
「おまえこれ盗んできたら、アニキから評価されるぞ」
「いやだよ。こんなすぐバレるやつ」
「だいいち、なんで出前のやつ、つけたままなんだよ。相当古いし……」
「おれは何も見なかった。こんな変なバイクいらねえ」
物陰からこの二人を見る者があった。
五百旗頭波留である。
「勝った。これでバイク泥棒は決して雅人くんのものを狙わない」
そばにいたもう一人、大村時久も大きく頷いた。
「ぼくがこっそり荷台をハンダ付けした甲斐があった。錆の色味をつけるのに苦労したよ……。以前バイク泥棒に遭ったとき、雅人はショックを受けていたから……もう二度と盗ませるもんか」
「心理的に勝つことが最高だわ。出前機つきの大学生の古いバイクなんてどこにもないもの」
「しかし、超がつくほど高級な外車のステッカーを、中古もいいとこの原付に貼らせるなんて、どういう誘導をしたんだ? 五百旗頭さん」
「ふふ。ありふれた外国車のステッカーに混ぜておいたの。雅人くんはこのブランドのこと知らなかったみたいね」
「前のオーナーの屋号と電話番号を隠すために、ステッカーを貼らせる……奇策だが有効だ」
その時波留のスマートフォンに着信があった。
「あ、雅人くん。そろそろお部屋に着くから。いま時久くんと合流したところ」
「バイト先から、ダシをわけてもらってきているからね! あとは具を煮ながら待っているよ!」
今日は雅人のアパートで、サークルの皆と食事会をするのだ。
原付バイクの出前機は、こんなとき、とても役に立つのだった。