時間を翔る~トキヲカケル~
時の記念日に何か短いお話を書きたかった、それだけです
『時代を翔る』にするか『時間を翔る』にするか迷いました
――目が覚めると隣に裸の男が眠っていた――
そんな小説や漫画の様なシチュエーションに自分が置かれているとは。 しかも自分も裸である。
沓掛詩織22歳、只今絶賛混乱中デス。
そっとベッドから抜け出そうとすると、隣で眠っていた男が目覚めたらしく寝返りを打って私の方に顔を向けて目を開ける。
「ん……、おはようシオ、起きるには未だ早いんじゃない?」
「えっ、あっ?あぁっ!? 篤志兄ちゃんっ!?」
私の事を『シオ』と呼ぶこの男は見覚えがある、どころか幼稚園から足掛け17年間片想いしていた、所謂幼馴染みの山嵜篤志23歳だ。
「え、なん、、っで篤志兄ちゃんが?! って此処は何処なの?」
慌てて辺りを見回したが、見慣れた自分の部屋でも何度か入ったことのある篤志兄ちゃんの部屋でもないみたい。
私の言動がおかしい事に気が付いた篤志兄ちゃんは、がばっと起き上がり私の肩に手を置いて顔を覗き込む。 起き上がった事で掛かっていたタオルケットがずり落ちて。
勿論二人ともすっぽんポン、、、
「まって、待ってっ! 篤志兄ちゃんのムスコさんっ! 隠してっ!?」
「シオ? 何言ってるの? 今更隠す所なんて無いよね、って言うより先の『何処』ってどういう事、此処は僕たちの家だろ?」
僕たちの家……? 僕たちのってどういう意味なのだろう。
ぼけっと考え込んでいたら篤志兄ちゃんが少し不機嫌になった。
「ねぇ、何で篤志『兄ちゃん』って呼ぶんだよ。 何時もみたいにアツシって呼べよ」
そう言いながら裸のまま私の頬に手を伸ばしてくる彼のムスコさんが上向いてきた様な……? わぁーォこちらもオハヨウゴザイマス??
「ねぇ篤志兄ちゃんのムスコさん、、お目覚め?みたいナンですケド、その、小さい頃に見たのと全然違って…、あのっ、もう、ムリっ!」
篤志兄ちゃんの手を振り切りタオルケットを身体に巻いてベッドから下りる。 でも何処へ行けばいいんだろう? 私の服は、せめて下着は―…、何処にあるんだろう。
オロオロしていると後ろから篤志兄ちゃんに抱きしめられた。
「シオ、今日は本当に変だぞ」
「だってっ! 此処は何処なの? それに早く着替えて大学に行かないと遅刻しちゃう」
「大学? シオはもう大学卒業しただろ。 なあ、本当にどうしちゃったんだよ」
軽くパニックを起こしかけている私の頭を優しく撫でてくれる篤志兄ちゃんの股間にはムスコさんがコンニチハしたまま―…いいから早くパンツ履いてくれ。
「すみません、取り敢えずソレ押し付けるの止めていただいて宜しいでしょうか」
――うん、タオルケットも汚れそうだしね。
. . 。。ε≡ε≡ε≡(ノ‥)ノ ソレカラドッタノ♪
「で、今の私は23歳で大学も卒業している、と」
服を着て朝ごはんを食べながら現在の状況を確認中デス。 因みに朝ごはんは篤志兄ちゃんが用意してくれました。
「そう、そして先月末に結婚して昨日ハニームーンから帰国したところ。 二人とも明日まで会社はお休みだよ」
ずっと片想いしていた篤志兄ちゃんと結婚出来た事は物凄く嬉しいのだけれども、、、
「どうしたの、シオ? 何でそんなに哀しそうな顔してるの。 僕と結婚したのがそんなに嫌なの?」
あ、篤志兄ちゃんの顔が一寸恐くなった。
慌てて、ぶんぶんっと音がするくらい大きく頭を振って否定する。
「違っ…! 篤志兄ちゃんと結婚出来た何て夢みたいで嬉しくない筈ないっ! ……っ、でも、、」
「でも? でも何かな? それと『兄ちゃん』は要らないって言ってるよね」
にっこり笑う篤志兄ち、、アツシの顔が圧が強い。
そう、嬉しいんだケド何も覚えていないのよ!
告白も、初めてのキスも、初めての…むにゃむにゃも、プロポーズもっ!
結婚式もハニームーンも何一つ記憶に無いのっ!
半泣きで訴える私に今度はアツシがオロオロし始める。
「え、本当に記憶が無いの? 何時から? 何処まで記憶が有るんだ?」
♩ソレカラ♪ソレカラ? ((‘д’o≡o’д’))
事態の深刻さを理解したアツシと一緒に病院を訪れる。 それでも結局原因は解らず、記憶が一部分だけすっぽり抜け落ちている逆行性健忘、生活に支障はないので治療はせず経過観察する事になった。
「大丈夫だよ、シオ。 脳に損傷がある訳では無いから、いつか思い出すよ」
そう、外傷があった訳では無く、念の為頭部MRI検査MRA検査も受けたが脳に損傷もなかった。
記憶が抜け落ちているのは半年間、記憶のある最後の日に発熱して2日寝込んだ事があったので、其れが関係しているのかも知れないが定かではない。
その時期に偶々再会したアツシから告白されて、一月後にむにゃむにゃ…からのプロポーズ、半年で結婚となったらしい。
「交際半年で結婚って早くない?」
「え、シオとはもう17年も付き合ってたじゃないか。 やっと恋人になれたんだから、これ以上待たされるのは嫌だって言ったのはシオの方だぞ」
まぁ勿論俺も我慢出来なかったんだけどな、とアツシは笑って続けた。
余計な情報を入れては記憶の回復の妨げになるからと詳しい話は聞かずに過ごした。
プロポーズはやり直してくれたが、破瓜の痛みは取り戻せなくて、ホッとした様な寂しい様な複雑な心境だった。
仕事は一から覚え直しで苦労したが、就職して未だ二ヶ月だったので何とか続けられた。
――そうして記憶の戻ることの無いまま時間は流れていった……―
ε=ε=ε=ε=ヾ( ・∀・)ノ ソーシテドナッタノ
結婚して二十年も経てばお互いに家族としての情はあっても女として見られていない、そんな寂しさを感じる様になってきた。
「私はお母さん、って名前じゃない!」
20回目の結婚記念日に『お母さん』と呼ばれて思わず喧嘩腰で答えてしまった。
解っている、私だって子どもの前では『お父さん』って呼んでいる。 だけど二人きりの時は名前で呼んでいるし、名前で呼ばれたい。
20本の薔薇の花束を抱えた貴男が目を丸くしている。 気まずくなって部屋を飛び出して、階段から足を踏み外した。
「シオっ!!!」
アツシの焦った声を聞きながら、意識は暗闇の底へ沈んでいく、、、そう、シオって私を呼ぶ貴男の声が好き――…
――目が覚めると、二十年前の世界だった――
そうなのだ、抜け落ちた半年分の記憶。 あれは記憶喪失じゃなく、あの半年間の私の中身は『未来の私』だったのだ。
不思議な事に今度は二十年間の記憶がぼんやりとしか解らない。 そしてこの時代の私は意識の底で眠っている様で、微かにその存在を感じる。
寝込んでいる私のお見舞いに来てくれた篤志兄ちゃんに告白されて、交際が始まる。
そして初のお泊まりデートでむにゃむにゃ……めちゃめちゃ痛かったケド物凄く幸せ。
プロポーズの言葉は「お互いに、お父さん、お母さんって呼び合える仲になりたい」だった。
なんだ、そうだったのか。 『お母さん』って呼ばれるのは愛情の印だったんだ。
結婚式も新婚旅行も堪能したので、そろそろ『お父さん』の元へ帰ろう。
だって、少し前から私を呼ぶ貴男の声が聴こえる。
――待ってて、今、時間を翔て貴男の元へと帰るから…――
連載に行き詰まってエタりかけているので、自棄糞の短編デス