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悪魔たちの住む街  作者: yuiki
3/3

狩りの時間

 悪魔が狩られた。


 身近な人が。

 

 

 自分が知っていると思っていた人が。


 悪魔として狩られた。


 

 

 「……おい、何かニュースとかになってるか?」

 誰かが声を上げる。

 

 

 急いでネットニュースを漁るが、何も出てこない。

 

 

 「……殺されても……文句は言えない……」

 虚ろな声が響く。



 "人権が認められません"


 人権が無い。


 殺されても文句は言えない。



 そう書いてあった。



 

 どう考えても冗談だった。


 でも。



 実際に『悪魔狩り』と称され殺人が起き、何も問題になっていない。


 警察沙汰にすらなっておらず、噂のみだ。




 明らかに、おかしい。


 

 

 18:00に人権は返却される。


 それまでは、殺されても、何にもならない。



 突然、自分が危険の中に放り込まれた気がした。






 「……い。……おい。…………おい!」

 「うぁぁぁぁ!!」 


 「んな化け物見たような目で見んなよ。どんだけぼやぼやしてんだ。もう18:00過ぎたぞ?」


 「あ、ああ。すまん」

 

 

 

 携帯を確認すると、7分前にメールが来ていた。

 『本日の狩りも終了です。今日の討伐数は2体! 本音を言えばもう少し頑張って欲しいところですが……まぁ良いでしょう。明日は5体を目指しましょう!』


 

 2体。


 少なくともお爺さん以外にも1人が犠牲になっている。



 そう考えると胸の中にズシンと何か重いものが伸し掛かった気がした。



 「ほら、行こうぜ。お前がここでだんまりしてても何も変わんねぇぞ」


 「……そうだな」


 地平線に沈みかけている日を眺めながら、俺達は帰路に着いた。




 

 この殺人は何で明るみに出ない?


 1人目は噂程度、

 2人目に至っては聞いてすらいない。



 人権を認めない。



 何度頭の中で跳ね返ろうと、何も分からない。




 次は誰なのか。


 名前すら知らない誰かか。

 学校の誰かか。

 顔見知りか。

 昨日まで隣で笑っていた奴か。

 自分か。


 

 今まで『死』を肌で感じたことは無かった。


 身近で元気に動き回っていた者も、

 温かい笑顔を振りまいていた者も。


 一瞬で、

 体温が。

 感情が。

 言葉が奪われる。


 日常に潜んでいて、突然現れた非日常。

 

 次は、自分が奪われるかも知れない。

 自分がこの世から消えるのかも知れない。



 否が応でもそう頭の中で考えてしまうほど、身近な者の死は大きかった。




 

 次の日。


 少し寄り道して、別の道から大学に向かった。

 

 

 いつもの、あの温厚な笑顔はもう無かった。





 「本当に居なくなってたなー、あの爺さん」

 雅紀がいつも通り隣に座って話していた。


 一応授業中だが最後列だからバレることも無い。


 「………………」


 ……何でこいつはこんな平静でいられんだ。


 「お前は……突然周りの奴が死んでも何も感じないのか?」


 「え? だって別に特に繋がりがあった訳でも無いし……あ、お前が死んだら悲しむわ」


 「そういう一番反応に困ること言うのやめろ」

 相変わらず謎な雅紀にため息を付きながらも、やはり心配だった。



 

 そして14:00。


 『今日の狩りの時間です。昨日は2体だったので、今日は5体が目標です! 焦らず確実に狩って行きましょう。ではスタート!』



 そして、俺達は再び危険の中に放り込まれる。


 ここからは、何が起こっても何も言えない。




 「今日は何も起こんないと良いな……」

 隣でぼやく雅紀は危機感が無さすぎて何となく腹が立つがそれには全力で同意する。


 

 「本当に、そうだな」

 ポツリと零れる呟きは、深い深い蒼の空の中に消えて行った。


 

 「じょーうっ! なーにしてるの?」

 突然後ろから背中を押され椅子から転げ落ちかける。


 雅紀と同じような行動と言動を取るこの女は……


 「やめろ、恵」

 

 

 木葉詞(このはし) (けい)だ。

 大学の後輩だが年上に対して全く敬語を使わない、ある意味肝の座った奴だ。


 そして……

 

 「よし、今日もちゃんと生きてるみたいだね! それでこそ……」


 「また変なこと言うなよ?」


 「……彼氏だね!」


 そう。

 いつもこいつは何故か俺を恋人扱いしてくる。


 こいつのことは嫌いじゃない。

 

 まぁどっちかって言うと気に入ってはいるが、恋人でも何でも無い、ただの友達だ。


 

 さらにその行動から雅紀とともに目立ちまくっているこいつこんなことを言われたら堪ったもんじゃない。


 

 こいつは正に噂を広めるプロだ。


 「何回も言っているが事実を捏造すんな。お前と俺の間には何の関係も無いだろ」


 「フフフ……君が認めようと認めなかろうと、社会がそれを認めればそれは事実ということになるのだよ」


 「どんな暴論だよ。ってかどこの社会が認めたってんだ」


 「大学とは1つの小さな社会なのだよ。そしてそのほとんどが私達に何かしらの関係がある事を知っている。つまり、社会が私達の関係を認めていると言うことなのさ」


「それはお前が大学内でベラベラある事無い事喋くりまくったせいだろ」


 「何がどうであれ事実は事実。つまり君が認めなくとも世が認め、事実になったのだよ」


 「お前も二度と事実を語るな。あといい加減その暴論突き通すのやめろ」


 「全く、潔く認めたらどうだい? 男らしく」


 「男らしく何を認めんだよ。お前が勝手に言ってるだけだろ」


 「ではさらばだ!」


 「んでさんざ喋り倒して終わりかよ。ったく……」

 本当にあいつと話すと心身共に疲れる。


 「まぁまぁ、それでもあの子が条に好意を持ってる証拠じゃないか」

 雅紀が慰めるように言うが、

 「あいつに好かれて何になんだよ」

 本当に意味がない。

 

 「毛嫌いされるよりはマシだろ。ったく見せつけてくんな!」


 「突然変なところでキレるな! 俺は不本意なんだよ!」


 

 騒がしい昼食時間を終え、また授業に戻った。



 

 

 そして。


 『本日の狩りもお終いです。今日も2体だけという結果でした……まぁ0よりは良いので良しとしましょう! 明日こそ5体を目指しますよ!』


 また、名も知らない2人が犠牲になった。


 

 悪魔狩り、ないしに殺人。


 報せもなく、知らず知らずの内に"狩られ"て行く人々のことを思うと胸が痛んだ。

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