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悪魔たちの住む街  作者: yuiki
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始まり

『この街には悪魔が居ます。それを町人全員で全て狩り殺して下さい。なお、悪魔は通常の人間として生活しています。それらを狩るために、町人全員の基本的人権は認められません』


 こんなメールが俺の元に届いたのは、朝、大学に行く途中のことだった。

 

 まさかな。

 


 冗談だと思いながら携帯の電源ボタンに指を移す。


 すると。


 『狩りは14:00に始まり、18:00に終了となります。人権の剥奪は毎日4時間です。開始の合図は町内放送にて行われます』


 再びメールが送られてくる。



 バカにしてるのか?


 誰がこんなこと真に受けるんだよ。




 1度漕ぐことをやめた足を再び動かし、自転車で大学に向かう。


 

 

 俺は日路樹(かろき ) (じょう)

 

 伊塵(いじん)大学に通うごく普通の大学生だ。


 今日も思い鞄を背負いながら自転車を漕ぐ。



 校門が見えてくると、自転車に乗っているのにも関わらず後ろから思いっ切り肩を叩かれる。


 「おい日路樹! お前メール見たか? バカバカしいよな全く!」

 耳元でどでかい声で叫ぶこいつは俺の友達、と言うか悪友の良添(よそい) 雅紀(じょうき)だ。


 「うるさい。あんなの真に受ける奴の方が珍しいだろ。耳元で叫ぶな」


 「固いこと言うなって〜。お前と俺の仲だろ?」


 「どんな仲の誰だろうと鼓膜を破られて堪るか」

 相変わらずマイペースの雅紀にため息を付きながらも、何か朝のメールが気にかかった。


 こいつにもメールが来ているということはメールの内容から察するに恐らく町人全員に送られているのだろう。



 こんないたずらを、何のために?




 「おい、ボケっとしてないで行こうぜ!」

 半ば引っ張られる形で校門をくぐり、退屈な1日が始まった。



 



 「――よって、条件が満たされ、この問題の解は成立する。では次の時間までに課題をやっておくように。以上! 号令ー」


 「気を付けー れーい」

 やる気のない号令とともに授業が終了する。


 「腹減ったなー! 学食行くか!」

 

 「……行くか」

 今日は少し昼食が遅れた。

 時計を見る。


 もう1時50分だ。



 ……あと10分。

 

 そんな言葉が頭の中に自然と浮かぶ。


 

 大丈夫だ。


 あんなのただのイタズラだ。


 「おい、日路樹! 何食う?」


 「適当に唐揚げ定食とかでいい」


 「ほ〜ん、チャレンジ精神が足りていない! よって君の昼食は激辛タンメンに決定!」


 「やめろ馬鹿」

 

 そんなやり取りをしていると、2人の携帯から同時に受信音が鳴る。


 周囲を確認する。


 学食にいるほぼ全員が携帯を取り出していた。


 時計を見た。



 14:00


 

 まさかな。



 受信トレイを確認すると、朝のメールの送り主から再びメールが来ていた。


 


 

 『それでは"狩り"の時間となります。14:00よりこの街は無法地帯となりますのでお気お付け下さい。なお、ここから4時間は基本的な人権が無効化されますがそのことにおいては当方は一切の責任を負いかねます』



 狩りの時間。


 「なぁ。日路樹もか?」


 何を言おうとしたのかは分かった。




 恐らく学食に、いやこの町に住む人全員に同じメールが送られている。



 ピロン♪



 再び携帯が音と共に震える。


 『それでは狩りの時間です! 頑張りましょう!』


 携帯は、もう何も発さなかった。



 「……冗談だろ? なぁ」

 震える声が隣から届く。


 「……冗談だろう。人権の剥奪なんて国が、法律が認めないだろ」


 「……だよな。そうだよな」



 自分を納得させるような、自分を落ち着かせるような声が虚しく響いた。



 


 

 帰り道。

 

 18:00。


 受信音が鳴る。


 恐る恐る携帯を開く。



 『本日の狩りは終了しました。残念ながら今日の討伐数は0でした……でも引き続き明日も頑張りましょう! なお、只今をもって人権は返却されるのでご安心下さい』



 狩りの時間の終わり。



 結局何だったのだろうか。







 14:00。


 また、メールが来ていた。


 『狩りの始まりです。今日は討伐数は3体を目指して頑張りましょう!』


 何回見返しても、同じことしか書いていない。

 

 「なんか今日も来たなー。マジで何なんだろう。謎だわ」


 「俺にとってはお前の日々の行動の方が謎だ」

 目の前で赤いラムネを粉々に砕いている雅紀を見つめながら呟く。



 悪魔が何者なのか、

 狩りとは何なのか、

 討伐とはどういうことか、


 何一つ分からない。


 1つ分かったのは、このメールが当分続きそうだと言うことだ。


 2週間続いて、終わる気配が全く無い。



 「……本当、何なんだ……」

 こんな声が零れた瞬間。


 学食の扉が開き、1人の学生が駆け込んできた。


 そして、開口一番に言った。


 「おい聞いたか! 三丁目のとこの爺さんが殺されてたらしいぞ!」


 皆の動きが凍りつく。


 三丁目のお爺さんというのは、いつも通学路にいる温厚な人で、確か孫が伊塵大学に通っているはずだ。



 そして。


 このときを待っていたかのように。

 この様子をあざ笑うように。



 皆の携帯の受信音が一斉に鳴る。


 震える手を抑えながら携帯を開く。



 『おめでとうございます! 無事一回目の討伐が成功したようですね! まだ悪魔狩りに抵抗がある人が多そうなので討伐者の名前は伏せて置きますが、勇敢なる成功者を称えましょう! なお、人権がもちろん無いので、悪魔を殺しても文句は言われないですし、逆に悪魔だと思われて殺されても文句は言えないので注意して下さい。勘違いで殺されちゃったら……ご愁傷様です!ってことで。これからも頑張りましょう!』


 

 討伐の成功。


 そして人、いや人だと思っていた何かが死んだ。



 学食の気温が10度も下がった気がした。


 




 でも。

 これは序曲でしかなかった。




 

 本当の惨劇は、これから始まる。

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