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苦い記憶を思い出しながら、隣にいる彼をチラリと見る。

夢みたいだ。

私、森山春モリヤマ ハルは今日のデートが期待していた以上の結果となったことに、これ以上ないほどの嬉しさを感じると共に、夢の中にいるような浮遊感も感じていた。

期待していなかったと言えば嘘になるが、1度目のデートで付き合うという結果になったのはできすぎとも言えた。

思うところはいろいろあるが、とりあえず幸せだ。今はこの幸せに浸っていたい。


1週間前


大学生の夏休みは想像していたよりも長く、暇だった。

前期のテストも無事終わり、夏休みに突入したが、バイト三昧の毎日だった。趣味のカフェ巡りも猛暑の中出歩く気が起きず、最近はできていない。

漫画を読んだり、動画サイトで動物の癒し動画を観たり、買うわけでもないかわいい洋服をネットで見たりという毎日を送っていた。

その日もいつも通りスマートフォンでネットサーフィンをしていると、画面が切り替わり、スマートフォンが震えた。

着信だ。

表示された名前は高校のときの同級生であったが、特段仲良くもなく、話したこともあまりない人物だった。

なぜ連絡先を交換したのかも覚えていないが、クラスが一緒になった際のノリで交換しておいたのだろう。在学中にこの連絡先を使用した記憶もない。

電話に出る必要もないと思ったが、退屈な毎日に現れた非日常な出来事に少し興味が湧いた。

「もしもし」

「森山、久しぶり。急に電話してごめん、今大丈夫?」

「大丈夫だけど、、」

要件のわからない連絡に戸惑いつつも返事をした。

「森山に話したいことがある人がいるから、その人に代わるね。」

興味半分で電話に出てしまった自分を責めたくなるほど、電話を切りたくなった。

すごく面倒臭い電話だ。

私に話したいことがあるにもかかわらず自分で連絡を取ってこないことを考えると、この後は面倒臭い展開にしかならなそうな気がした。

「それって誰なの?」

電話を切るか切らないかは相手が誰かを聞いてからでも遅くないかと思い尋ねてみる。

「代わればわかるから。じゃあ代わるね」

「え??ちょっと!!」

その返答にイライラして電話を切ろうとしたそのとき、電話口から聞こえてきた声に耳を疑った。

「森山、、?七瀬だけど、、覚えてる?」

覚えていないわけがない。忘れられるわけがない。

七瀬涼太ナナセ リョウタは私の元彼だ。

呼吸をすることも忘れ、何も言えずにいると、「聞こえてる?」と返答を求める言葉が聞こえた。

「あ、、聞こえてるよ。七瀬のことも覚えてるよ」

七瀬が私に何の用事があるんだろう。あの日私たちの関係が終わったのは七瀬が別れたいと言ったからだ。あの放課後を最後に私たちは何の連絡も取らず、学校内で会っても何の会話もなく、目が合えばただただ目を逸らすだけだった私たちの間に今さら何か要件があるとは思えない。

もう心の傷も癒えたと思っていたが、七瀬の声によってあのときの記憶が蘇ってくる。

何を言われるのかという不安に脈が速くなる。

「何か私に用事?」

早く通話を終わらせたいという思いから会話の続きを急かしてしまう。

「あの、、あの日のこと謝りたくて、、」

「謝る、、???」

あの日というのはおそらく七瀬が私のことを振った日のことだろう。なぜ私は謝られなければならないのだろう。どうして七瀬は私に謝りたいのだろう。わからなすぎて頭の中がぐちゃぐちゃになる。

「ごめん、急に振っちゃったから傷ついたよね。ずっと謝りたくて。ごめん」

「謝らないで、謝られることじゃないし」

これは心の底から出た言葉だった。

謝られたくない。謝られれば謝られただけ惨めになる。しかもこの男はまだ私が自分に気があると思っている。でなければこんな自分に酔ったこと言えるはずがない。自分が私よりも上だと思っている。自分が少し気があることを見せれば私がすぐに傾くと思っている。

自分が舐められていることよりも、自分が強く言い返せないことに腹が立った。

「ありがとう。俺、また森山と仲良くしたいんだけど、、ご飯とか、、どうかな」

七瀬は遠慮がちに尋ねてくるが、遠慮がちなフリだ。私が「いいよ」と言うことを信じて疑っていない。

「うん、いいよ」

「ありがとう。嬉しい。日程とかメッセ送るね」

「うん、じゃあまた」

「またね」

ここまでわかっていて拒否することができなかった。気づいたら「いいよ」と言っていた。

あの日理由もしっかり聞くことができず、一方的に終了を告げられた恋は、私の中では完全に終わっていなかった。

自分のことが嫌になる。

メッセージが届いたことを知らせる音が鳴り、すぐに開くと、七瀬から日程確認のメッセージだった。

私はすぐに連絡を返し、1週間後に会うことがとんとん拍子で決定したのだった。

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