3話 ソフィアは自由になった
「うぅぅ……。あれ?」
ガサゴソ……。
目を覚ますと、なにかに拘束されているような感じだった。
だが、私の力でもその拘束を破くことに成功した。
「これって……ゴミ袋?」
周りを見渡すと、伯爵邸専用のゴミ捨て場。
どうやら、私はゴミ袋の中に入れられていて、焼却される寸前だったようだ。
「あれ、そういえば私……。剣で斬られたような気がしたけど……」
自分の身体を触ったり肉眼で確認してみたが、服は剣で斬られた痕があるものの、皮膚は異常なしだ。
どうやって傷が治ったのかはわからないが、とにかく生きててよかった。
おっと、このままでは見つかってしまうかもしれない。
私が入っていたゴミ袋に適当に重そうなゴミを入れてしっかりと縛っておく。
そんなことをしていると、義父様たちの声が聞こえてきた。
急いで物陰に身を潜める。
「ソフィアなど婚約破棄されたショックで自害してしまったと領民たちに伝えておけば問題はない。今の領民ならば私の発言を全て信じてくれるからな」
「ふふ……。これでようやく真のスローライフ生活が送れるのですわね」
義父様と義母様がゲラゲラと談笑していた。
「まさかソフィアが我々の評判のためだけに利用されていたことなど夢にも思わなかっただろう。最期の顔は傑作だった……」
「私も見てみたかったですわ」
「だが、さすがにグロい現場をお前に見せるわけにもいかぬだろう……」
やはり、二人とも私は死んだと思い込んでいるらしい。
絶対に生きていることがバレないようにしなければ。
「それにしても不思議な女でしたよね。どんなに怪我を負わせても翌日にはすっかり回復してしまう」
「あぁ。あれも魔法が使えるからだろう……。全くもって不愉快だった。だが、さすがに剣には敵わなかったようだ。心臓の鼓動も停止していることを確認済みでゴミ袋へ収納した」
え……。
心臓の鼓動を手で押さえて確認したが、ちゃんと動いている。
義父様が人工呼吸などしてくれるわけもないし、どうやって再始動したのだろうか。
「ところで、ソフィアのゴミはどの袋だったか? あんなもの臭ってくるからさっさと燃やしてしまおう!」
「それでは他のゴミと一緒に始末しましょう」
「あぁ。骨も残らぬよう粉々にしてしまえ」
このゴミ処理場一帯を燃やしてしまうつもり!?
私は大急ぎで見つからないようにゴミ処理場から退散した。
ひとまず伯爵邸から逃げ出し、夜が更けるまで誰にも見つからなさそうな場所でそっと身を潜めた。
見つかってしまったら今度は奴隷どころの話では済まなさそうだったから、絶対に捕まるわけにはいかない。
♢
夜中、暗闇の中ひとり足音すらたてないようにして歩き続ける。
伯爵が管理している領地とそうでない場所あたりまでたどり着いていた。
私は非力で体力もないと思っていたが、スタミナはそこそこあるらしい。
「これからどうしようかな。もうこの領地にはいられないし」
どこかに王都があることだけは知っているが、それがどこにあるのかも、どれほど離れているのかも見当がつかない。
ただ、むしろワクワクしている気持ちの方が強かった。
義父様たちは私が死んだと思い込んでいる。
この領地から出ていけば私は自由の身となるのだ。
危険は多いが、そんなことはもはやどうでも良かった。
「むふふふふふふふ〜」
今まで感情をずっと押し殺していた分、自由になったことで化けの皮が剥がれたのかもしれない。
これからは私らしく生きていこう。
だが、領地の外は危険なことに変わりはない。
モンスターにでも遭遇してしまえば、一環の終わりだ。
せめて体力が保つ少しの間だけでも冒険者のように旅をしたい。
あてもなく、太陽が顔を出す方向へ歩きはじめた。
初めて領地の外を一人で歩く感覚は、清々しい気分だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ソフィアちゃんの苦しめられた日々はこれにて終了です。
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