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ブック④「わたし、秘密にしていました」(最終回)

11

雫は、誰もいないベンチから透が現れるのを目撃した。魔法使いが雪沢透であったことを知った。

実は、ナースステーションに駆け込んだのは「魔法で作り出した自分」であり、本人は透明になって隠れていた。殺人鬼の傍にいれば、もしかしたら、魔法使いが姿を現すのではないかと思ったからだ。

透も雫と同じように、「ゴートの筆」で物語を現実にする魔法を使っていた。

「逃げ足の速い奴だ。僕の真実には絶対に到達させない。これまで通りに、僕の真実に近づくものは、必ず殺す。江西とかいう警察官や、女研究員の様にな。」

「僕は、完璧でなくてはならないが、やはり簡単ではないな、「泡如綴字」としての作家生活や、平凡な学生生活を両立するのは」


理想の作家や、思いを寄せていた人間が、殺人鬼だと知ってしまった雫は、気づくと「木星」に来ていた。「木星」は閉店寸前であったが、雫の顔色を見ると、おじいさんは中で話を聞いてくれた。

おじいさんから孫である透と、父親の確執について聞く。

透の父は、文豪であり、透を作家にさせるために、おもちゃを捨てたり、友達を遠ざけたりして、厳しく育てていた。

透は、気に入らないクラスメイトをミステリーのトリックで殺しかけたことがあった。おじいさんは、「何故そんなことをしたのか」と聞くと、透は逆に「何故現実では殺人をしてはいけないのか」と聞かれる。

父の教育の影響で、透は「殺人事件が当たり前に起こる小説の世界」と「現実」の区別がつかなくなっていた。

今はそんなことを言わないが、当時は自分の常識を狂わせた、父親が殺したいくらい憎いと言っていた。

「おそらくその時の狂った常識や憎しみによって、透が「ゴートの筆」を使って多くの人を殺しているのだろう」

「こんなこと頼める立場ではないことは分かっているが、雫さん、「ゴートの書」の力で透止めて欲しい」

「でも、私、自信がないです。「架空の存在」を作り出す魔法は、エピソードの強さに由来するんです。透は一流の作家ですから、彼の作る「エピソード」に勝てる筈がありません。」

「親友を傷つけたことも許せませんが、どうしたらいいか分かりません。」

雫は、帰宅すると姉から、「インカム」と「セーラー服のような衣装」を渡される。

「これは、紗英ちゃんが雫に勇気を持ってほしいと思って、一生懸命作ったものよ」

「紗英ちゃんは、あなたが夢を叶えるために頑張る姿に励まされていたと思う。努力って人と比べるものじゃないわ。一生懸命何かを頑張ることは、どんなにくだらないことでも、誰かに勇気を与えられる力を持った「強力なエピソード」なんだわ。あなたには、それがあることを知っている。透くんを救えるのは、あなただけよ。」

雫は、紗英の「インカム」と「衣装」を受け取る。

「透を倒すのに協力してほしい」


12

昨日は、「木星」でおじいさんと愛花と、打倒透の作戦会議を行った。

今夜、ゴートの書を餌に、校舎に透を呼び出して、決闘を申し込む。

勝利条件は、透からゴートの筆を奪うこと。

透がゴートの書を手に入れ、筆で書にエピソードを書くとどんなエピソードでも現実になる。透は、この力でおそらく文豪の父親の悲惨な死を望んでいるが、何をするか分からないため、絶対に負けられない。

定刻になると、透は現れた。雫が「ゴートの書」を持っていることを確認すると、透は、筆の力で「殺人鬼」を作り出す。この殺人鬼は、雫の「偽物の自分」と違い触れても簡単に消えない情報の強度がある。

透はゴートの筆で、殺人鬼が雫をノックアウトするエピソードを即座に思いつき、臨機応変に雫に容赦ない、攻撃が繰り出されるが、雫はインカムに「盾」と唱えて、「紗英の設計した盾」を呼び出し防ぐ。

雫は、おじいさんから教えてもらった筆の弱点を思い出す。雫の作戦は、とにかく逃げ回って筆のインク切れを待つこと。

殺人鬼の攻撃速度を抑えるために、インカムに「迷路」と唱えて、校舎を迷路にする。

インカムに登録されている単語を唱えれば、それに紐づけされている「エピソード」が書に自動で書き込まれ、魔法が発動する仕組みである。

雫の「盾」の秘密に気づいた透は、雫のインカムの電子回路を、ジャックして雫に爆音を聞かせて混乱させる。その隙に、殺人鬼はナイフを雫の胸に挿す。

電子が作り出した幻覚で実際には、無傷だと分かっていてもあまりの痛覚に、雫は気絶する。

透は、倒れた雫のバックパックからゴートの書を取り出し、ついに書と筆を手に入れる


13

透は、幼い頃から父の教育で多くのサスペンスを読み、サスペンス小説を書いていた。

10歳になる頃には、身の回りの人間に対して殺人事件のトリックを考える癖が付いていた。

そんな殺人鬼のようになっていく自分が嫌いになっていくなか、ある日、緋色の髪の毛の少女に一目惚れをする。雫だった。それ以来、不器用ながらも何度か雫に絡むようになった。

しかし、今の自分では、雫に対してさえも、殺人鬼の思考回路が働いてしまうため、こんな自分にした父親を憎むようになる。憎き父に復讐したいが、殺人罪で逮捕されたら、自分の小説家としてのキャリアも、雫との未来もなくなってしまう。だから、法律で裁かれずに復讐する方法を考える必要があった。

偶然、おじいさんに言われて、曾祖父の遺品整理中に、「ゴートの筆」を見つける。ゴートの筆で書いたことは、条件つきで現実になることが分かった。この力で父を殺そうと思ったが、父親の死のエピソードを考えられなかった。理由は、この頃には父親は、透を捨てて、海外に渡航していたためである。現在の父親を取り巻く環境が分からなければ、エピソードなんて思いつくはずがなかった。

ある日、「ゴートの書と筆を使えば、無条件でどんなことでも叶えられる」と知り、「ゴートの書」を手に入れて、「無条件の父親の死」を叶えることを決意する。

それ以降、自分の野望を叶えることを邪魔する人間がいれば、筆の力や、「架空の殺人鬼」で、葬り去っていた。


14

雫は、インカムで「回復」を唱えていた。雫はよろけながらなんとか立ち上がる。

「まだ立ち上がるのかい。もう君が勝つことはできないよ」

「1つ。方法があるわ。実はずっと隠していたことがあるの」

「私の、姉は死んでいる」

実は、愛花は、雫が作り出した架空の「エピソード」だった。

「ゴートの書」を手に入れた最初の夜、雫がしたことは、ただ読んで眠ったことではなかった。書に文字を書き込み、それが現実になることを確かめていた。そして、まだ姉との別れを受け入れていなかった雫は、「姉が現実に蘇るエピソード」を書いたのだった。

姉との思い出をずっと忘れられなかった雫は、生前の姉とのエピソードをほとんど全て、夜明けを迎え机で眠るまで、書き続けていた。

研究所の事故の真実は、おじいさんからもらったスマホに録音されていたメッセージで聞いた話だった。

「姉とのエピソード」の強さは、透が作り出した「殺人鬼」のフィクションなんか歯が立つはずもないほどの情報の強さを持っている。

透は、殺人鬼が消されてしまうことに気付くが、時すでに遅し、愛花が殺人鬼に触れるとあっという間に消滅してしまう。姉は、透から書と筆を取り上げると、雫へ渡す。

書と筆なんてものがあるから、透があり得ない理想を叶えようとすると思った雫は、ゴートの書と筆で「書と筆が消える」というエピソードを書き込む。

野望が叶えられないと知った透は、うなだれる。

雫は、「あなたの物語がずっと好きだった。いつか父親を克服できる」と励ます。

書が消えたため消えそうな愛花に、今までの感謝とこれからも仲間も夢も大切にすると誓う。


15

春。

市民病院で紗英の退院に立ち会う

雫は、紗英が退院できて「おめでとう」と紗英のお陰で勝てたことの感謝を伝える。

愛花は、実は雫の「エピソード」であり、消えてしまったことを伝える。

雫は、今度紗英に一緒に墓参りに行ってくれないかと伝える。


愛花の墓参りに初めて来た雫。桜が舞っている。

周りには、おじいさんと紗英がいる

おじいさんは、雫や透以外にも、魔法使い達がいて、その組織の裁判所で、透が裁かれることを教えてくれた。

おじいさんは、雫に最近どうかと聞くが、

「受験勉強と作家の両立という忙しい毎日を送っています」

「愛花がいなくて寂しかったり、将来が不安になることもあるけれど、今は、紗英やおじいさんなど信頼できる人がいます。だから、将来小説家であっても、そうでなくてもきっと大丈夫です」と答える。

退院祝いに「木星」でケーキをごちそうしてくれるというので、みんなで行くことにする。

お墓から離れるとき、姉がいるような気がするが、振り返らずに歩き出す。


16

1週間後、おじいさんに呼び出され「木星」へ向かう。

なにやら会わせたい人物がいるという。

おじいさんに会うと、おじいさんの秘密について教えてもらう。

「実は、わたしは、ゴートの末裔なのです。」

「ゴート家が少々厄介なことになっておりまして、雫さんに協力してほしいんです」

「後ろの方は、どなたですか」と雫が聞くと、

紺色の髪に灰色の目の青年は答える。

「はじめまして。僕は、雪沢護です。透兄さんがご迷惑をお掛けしました。」

どうやら、透の弟らしかった。

「雫さん、僕とスウェーデンに来てください」


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