ブック③「わたし、魔法使いに会いました」
07
12月。
私は、紗英と愛花とクリスマスプレゼントを買うためにショッピングモールへ来ていた。
私は、新人作家コンテストで入賞していたが、ズルして他の原稿と自分の原稿を入れ替えたことがバレ、デビューは先延ばしになっており、それまでは、編集者に指導を受けながらレベルアップを目指すということになった。
江西と偶然会う。これから「木星」へ行くということを話すと、江西は「木星」のことを知っているようだった。
「ゴート」と名の付く本には注意した方がいいと警告される。
夕飯の支度をするということで愛花とは別れ、私と紗英は「木星」へ行き、おじいさんと再会する。
おじいさんは、昔研究者であったことを知る。研究所の爆発事故があったと新聞で知った数週間後に、警察がおじいさんを訪ねてきたという。
警察はおじいさんの友人で、元研究者だったおじいさんに「このスマホに見覚えがないか。何か思い出したら連絡をくれ」とスマホを渡してきたという。
それ以来、警察はしばらく音沙汰がなくなり、1か月後に交通事故で死亡したと新聞で知る。
怖くなったおじいさんは、この話を誰にしなかったが、「ゴートの書」を買った私に縁を感じて、話すことにしたという。
私は、このスマホに見覚えがあるような気がして、おじいさんに貸してもらえないか聞くと、快く貸してくれる。
私たちが話し込んでいると、透が帰宅してきた。
透と雫がいい感じの雰囲気であることに気付いている紗英は、透と雫が2人だけで話せるように、おじいさんとその場を立ち去る。
透は、私に珈琲をごちそうするといい、「木星」のカフェスペースで珈琲を入れてくる。
話すことに困ったので、卒業後の進路について聞いてみると、
「僕は、海外留学をしながら、舞台の脚本家を目指すよ」と教えてくれた。
私は、うつむくが、
「でも、手紙を送るよ。これからも小説家同士一緒に頑張ろうな。」と励ましてくれる。
08
私は、愛花から「今から5年前の爆発事件の大事な話をするから来て欲しい」と呼び出される。
私は、姉が追われている魔法使いの話を聞く。
5年前、姉は、研究所で殺人鬼に出会った。
殺人鬼はどこかぼやけており、この世のものではないと感じた姉は、殺人鬼が謎の電磁波によって作られている幻覚だと気づき、研究所の装置によって「電波の殺人鬼」を打ち消すと、そこには男の姿があった。
男は、「ゴートの筆」を持ち、「ゴートの書」を探していた。
目的は、自分の人生を奪った人間を殺し、夢を叶えることだと言っていた。
しかし、秘密を知った姉を殺すために、研究所を爆発させる。
姉は命からがら、研究所から逃げ出し、そのことを伝えるために現れたのだった。
姉は、この町で起きている「殺人鬼による連続殺人事件」は、この男の魔法によるものだと考えている。
私は、町の人間を襲い、姉を瀕死にさせ、「ゴートの書」を追って襲ってくるかもしれない「殺人鬼」と魔法使いに対抗することを、決意する。
「親友の紗英、姉との日常や、小説家の夢を追うことができる幸せを守るためにも、魔法使いに負けない」
話を聞いた紗英は、雫が殺人鬼に負けない様に「書に魔法を書き込まなくても魔法を発動できる装置」と「戦闘用の衣装(趣味)」を用意すると意気込む。
09
裁縫が得意な紗英は、裁縫部に所属していた。
白川研究所なんて大層な研究機関の令嬢でいる割に、特に突出した才能がなく、熱中することがない紗英は、いつも授業を無視して何かに熱中している雫が気になっていた。雫が小説家を目指して努力をしていく姿に感心した紗英は、自分も趣味の裁縫で雫に勇気を与えようと、衣装の製作に奮闘していた。
帰宅時に、家庭科室にソーイングセットを忘れた紗英は、取りに戻る途中で「ある男」とぶつかる。
男から何かが落ちたため、拾おうとするも男は素早く取り上げる。
男は紗英に「見たか」と聞が、紗英は「何か見えませんでした」と答える。
それから、その場をすぐに立ち去ると、男は追って来なかったが、紗英は忘れ物を回収する前に学校から離れる。
紗英は、男が持っていたものが「ゴートの筆」であることに気付いたため、雫に連絡をしようとするが、目の前からクラスメイトの佐々木が来る。
佐々木は、地味で真面目で優しい生徒だった。
紗英は、挨拶をしようとするが、なにやら雰囲気が違った。
「 なたのせ 、よ。」
「あなたのせいよ!全部あなたのせいでめちゃくちゃだわ!」
「殺してやる」
佐々木は突然、カッターナイフで紗英を刺した。
刺された紗英は、その場で倒れた。
10
突然、紗英からの電話が途切れたため、雫と愛花は紗英を探していると、担任の江西から電話がある。
急いで星杜市民病院へ行くと、紗英が眠っていた。
大量出血で気絶していたが、今は命に別条はないらしい。
江西が血を流して倒れている紗英を見つけ、病院へ運んだのだった。
犯人は、佐々木だと分かっていた。
紗英を刺した後、急に冷静さを取り戻し、まだ学校に近かったため、担任の江西に慌てて相談しに来たという。
江西の父親は、実は警察官だった。研究所の事件について調査中、交通事故で無くなったのだった。奇妙なことに、交通事故の現場は、見通しがよく、人通りも交通量も少ない大通りで、ほぼ事故が起こるはずもない場所だった。防犯カメラの映像を見ると、何もないはずの空間にある「何か」を避けるように、車が急に曲がり壁に衝突していた。
息子の江西は、何か「魔法のような力」による陰謀だと考え、それ以来、この町で起こる事件について少しずつ調べていた。
そのため、運動会で雫が急に消えた、雫を疑っていた。
警察の取り調べによると、確かに佐々木は、好きな男子が紗英のことが好きであることを良く思っていなかったり、佐々木は少し貧乏であり、紗英のようにお金があることを羨ましいと思っていることは事実だが、刺してしまうほどではなく、感情と行動に温度差があった。
江西は、「この町では、まるで「ゴートの魔法」にでもかかったようなことが起こっている」と言う。
雫と愛花は、警察官の交通事故も紗英を刺したのも、おそらく殺人鬼を操っている魔法使いの仕業だと考える。
紗英は、まだ死んでいないため、どこかに魔法使いが潜んでいるかもしれないと考え、江西と雫と愛花は、交代で紗英を見守ることにする。
雫の番が終わり、休憩のために病院の休憩スペースに行くと、フードを被った黒ずくめの男がいる。
雫は、一瞬で彼が「殺人鬼」であると分かった。
「ゴートの、本。も、ってる、だろ」
「お、れによ、こせ」
雫が拒否すると、殺人鬼がナイフを持ち、目にもとまらぬ速度で迫ってくる。
ゴートの書で周りの椅子を殺人鬼に当てるが、全く勢いが止まらない。
「目当てがこれなら、あげるわ」
ゴートの書を窓の外へ投げると、殺人鬼は窓の外へ方向転換する。
実は魔法で作った偽物の本だが、そのうちに雫は廊下へ走って逃げる。
殺人鬼が気づき、雫を見つける頃には、雫はナースステーションに駆け込んでいた。
逃がしたと思った殺人鬼は、消滅する。
休憩スペースの椅子には、今までいなかった「男」が突然現れる。
透明になって殺人鬼を操っていたのだ。
「男」は、雪沢透だった。