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ブック②「わたし、小説コンテスト応募しちゃいます」

03

5月ともなると教室は奇妙な熱気に包まれていた。体育大会が近いためである。

体育大会の種目決めの時にも、例によって話を聞いていなかった私は、担任の江西によってリレーの選手に決められていた。

私はどうもこういう体育会系のものが苦手である。体育大会を馬鹿げたものであると考えた私は、「ゴートの書」の力で体育大会をサボることに決めた。

大会当日。

「雫の晴れ舞台でしょ。絶対に見に行くわよ。」

愛花も私の活躍を見に来ていた。

私は書に「緋野雫は、星杜第一中学の体育大会の行進や体操を周りの生徒にならって行う」などと書き込んだ。

すると、行進や体操などを書によって生まれた「架空の自分」が、私の雫に代わって行ってくれた。当の本人は、誰もいな教室で読書や、趣味の創作を楽しんでいた。

「日焼け止め忘れちゃった。」

「あーし、すぐ焼けるんだけど。まじSPF足りねー」

クラスメイトが一瞬戻ってくるが、私は、すぐに「自分や道具を透明する」と書に書き込み、姿を眩ます。

「でも、応援まじがんばるっしょー」

「みんな思い出作るかんねー」

一瞬周りの生徒が楽しそうにしていることをうらやましいとも感じたが、私は、小説を書き続けた。

午後になると、自分の参加競技であるリレーが始まった。私は、書に自分がリレーで走るように書き込んだが、思わぬアクシデントが起こった。書で作り出した「架空の存在」はエピソードが薄ければ、もろい存在なのだ。架空の自分がバトンを受け取る際の衝撃で、消えてしまった。

運動場が騒然としているが、私は全く気付いていなかった。江西が訝しげな表情を見せ、考えこむ仕草を見せていた。

私が魔法を使っていることに気付いた姉は、急いで探していた。紗英は「急な豪雨が近づいているため、グラウンドからテントの下へ行くように」と嘘の放送を流して気を逸らしている。

姉は、私を見つけると「雫、何をしてるの。今、紗英ちゃんが繋いでくれてるから魔法でなんとかして」と叱ってきた。

私は、少し考えると魔法で雨を降らせた。

グラウンドは、雨で今までの陽炎が消えていく。

すると、先ほど私が消えた場所で私が現れた。

「どうやら先ほど雫さんが消えたように見えたのは、陽炎のせいだったようです」

と感づいた紗英が放送を入れてくれた。

自分でも無理があるなと思ったが、目の前で起こった原因不明の現象よりは、多少が無理があっても理由のある現象の方が人々は飲み込みやすいらしく、

「あぁ、そうか陽炎か」

などと信じてくれた。

その後、リレーが再開された。私は、やむを得ずリレーに参加することになった。

「雫さん、ファイトです。」

「雫、頑張れー」

などと、愛花や紗英が声援を送ってくれる。案外悪くないものだ。少し頑張ってやろうと、バトンを受け取り、はじめの一歩。私は、顔面から地面に突っ伏した。運動はもっぱら苦手だった。

無事完走はしたものの、私のせいでクラスは最下位だった。これだから頑張るものじゃないと思う。

「雫さん、怪我大丈夫ですか?」

「雫、最後まで走ってえらかったねぇ」

でも、愛花や紗英は、賞賛してくれるようだった。

私は、なんだが照れくさい気持ちになった。


04

6月。

私は、将来への悩みを透に打ち明けると、

「周りと関わらなくても小説家として強くなれば生きていける」

と小説家としての道を提案され、透に協力してもらいながら、新人作家コンテストの入賞を目指す。

透は、名前は教えてくれなかったが、有名な作家であり、小説のノウハウを教えてもらう内に、尊敬の念が芽生え始めていた。

私は、面倒な人間関係や宿題、委員会の仕事などは全て魔法で片付けて、寝る間を惜しんで小説を書いていた。

紗英や愛花に心配されるが、「頑張っているから邪魔してないで」と言ってしまう。

「誰よ。透って男。私の可愛い妹をたぶらかしやがって」と愛花。

6月の終わり。

「僕は、今年卒業だから、その前に君にできるだけ多くのことを教えるよ」

透は、今年で卒業なのだと改めて、知った。


05

私は、クオリティに拘り過ぎたため、コンテストの締切日に出版社へ原稿を持っていかなくてはならなくなった。しかし、中間テストと重複していることに気付く。

どうしても透が卒業する前に賞を獲りたいと思い、魔法で自分がテストを受けている様に見せ、自分は出版社へと向かう。

出版社へ持っていくも、性格の悪い編集者に担当されてしまい、時間ギリギリに持ってきことを非難され、原稿を受け取ってもらえない。

私は、編集者が電話している隙に、編集者が持っていた原稿の束にある他人の原稿と自分の原稿を魔法で入れ替え、自分の原稿を紛れ込ませる。

ズルでも、無事原稿を渡すことができ、なにもかも丸く収まると思ったが、どうやら、「テストを受ける自分」の魔法が途中で切れてしまったらしく、

帰宅すると、無断で学校を休み、テストを全て受けなかったことを叱られる。


06

翌日、学校でもバツが悪く、居心地の悪さや疎外感を感じる。

江西から何かを隠していないかと聞かれ、一度きりの人生だから後悔しないようにした方が良いと言われる。

放課後に透と出会い、「雫は間違っていない。よく頑張った。」と励まされるが、私は釈然としないでいた。

その翌日、憂鬱な気持ちで教室に入ると、クラスメイトが「昨日は嫌な感じでごめん」と謝ってくれる。

なぜ、急に考えが変わったか理由を聞くと、紗英が「雫が夢を叶えるために努力を重ね、コンテストに応募するために、学校を休んだこと」を伝えてくれていたことを知る。

帰宅しても、両親が小説家を目指すことへ少し理解を示していた。

これも、姉が「雫がとても頑張っていたこと」について伝えてくれていたことを知る。

私は、紗英や姉が今まで自分を陰で支えたり、励ましたり、心配してくれていたことを思い出し、今まで夢を叶えるために、魔法を使ってズルをしたり、紗英や姉の気持ちも蔑ろにしていたことを反省して、紗英や姉に謝った。

夢も大切だが、それよりも自分のことを大切に思ってくれる家族や友達を大切にしようと、心に決める。

翌日、メールで新人作家コンテストに入賞したとのメールが届き、愛花や紗英と喜びを分かち合う。


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