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レスターは難敵に相対していた。その相手は、猪の様な面にでっぷりとしたお腹、茶色の毛皮に覆われた身長は2メートル50センチ程だろうか、その魔物の名はオーク。冒険者組合でいう危険度4相当の魔物だ。レスターの様な少年が敵う相手ではない。それでも、アルフリードはレスターにオークの相手をさせている。
「ブオー」
オークが雄叫びを上げながら前に立つレスターへと棍棒を振り上げ突進してくる。オークはその腕力に物を言わせて、とてつもない勢いで、レスター目掛け棍棒を振り下ろす。
「くっ!」
レスターはオークの一撃を横に飛び、地面に転がりながらも、何とか躱した。すぐに立ち上がると剣を構え直し、オークを睨む。剣を構えたレスターの身体を大量の冷や汗が伝っていく。
(これが、オークか想像よりも強い!一撃でもまともに喰らえば終わりだ)
レスターはそう思いながらも、勝つ方法を考える。
攻撃力は言わずもがな圧倒的にオークが上だ。まともに撃ち合えばレスターは押し潰されてしまうだろう。その上防御力もオークは高い。厚い脂肪と筋肉に覆われた身体に致命傷を負わせるのは、レスターの攻撃では、ほとんど不可能だ。勝てるとしたら、俊敏性だろう。そうレスターは考え、オークの攻撃を躱しながら、少しずつ攻撃を繰り返す。何度も攻撃を喰らいオークの身体は至る所に傷ができている。どの傷も浅く致命傷には程遠いが、血は流れており、レスターは確実にオークへダメージを与えていた。このままいけばレスターの勝利は間違いない。そんな状況にオークはイライラし、怒りの雄叫びを上げる。
「ブモォー!!」
オークの怒りに任せた棍棒の振り下ろしをレスターは冷静に避けた。そして、攻撃に転じようとして迫り来るオークの拳に気づく。攻撃の態勢に入っていたレスターでは、回避が間に合わない。オークの拳が当たる瞬間何とか剣を滑り込ませ防御する。
「ぐおっ」
何とか防御したものの、オークの攻撃に耐え切れず、レスターは弾き飛ばされ木にぶつかって止まった。
大ダメージを受け立ち上がれないレスターにオークはとどめを刺そうと近付き棍棒を振り下ろした。
「ブゥ?」
オークは疑問の声を上げた。小さな人間にとどめ刺そうとして振り下ろした棍棒が空中で止まってしまったのだ。
「ここまでだな」
オークとレスターの間に立っていたのはアルフリードだ。アルフリードがオークの棍棒を掌で受け止めていた。オークの顔に驚愕が浮かぶ。いつの間にか現れた人間に棍棒を止められていたからだ。そんなオークをアルフリードが仕留めようとした瞬間後ろから声が掛かる。
「待ってください、まだやれます、やらせて下さい」
剣を杖代わりにして立ち上がったレスターがアルフリードが仕留めるのに待ったを掛けた。
「お前今の一撃で死んでたぞ」
アルフリードの言う通り、今の一撃をアルフリードが防がなければレスター死んでいただろう。勝敗は既に付いている。レスターの負けと。
「分かってます、それでもこいつは俺が仕留めたいんです」
レスターは自身の負けを理解していた。それでもこのオークに勝ちたいその一心で声を上げる。
「次はねぇからな」
アルフリードはレスターの瞳に宿る闘志に何か感じるものがあったのかもう一度だけチャンスを与える事にした。
「ありがとうございます」
レスターはアルフリードに感謝を伝えると、剣を構える。アルフリードの姿はいつの間にか消えていた。残されたオークは困惑していたが、再びレスターを仕留めんと雄叫びを上げ、棍棒を振り上げる。
一方のレスターは既に満身創痍の状態だ。それでも全身に力を漲らせ、振り下ろされる棍棒を全力を持って迎え撃つ。
「ウォォォー!!」
レスターは声を張り上げると迫り来る棍棒を迎え撃った。本来ならレスターが吹き飛ばされて終わりだっただろう。しかし、そうはならなかった。
「ここで掴んだか!」
アルフリードは思わず呟いた。
〈身体強化〉
全身に魔力を行き渡らせ身体を強化する戦士には必須の技術。極限状態に追い込まれたレスターはその技術に覚醒した。早いもので青年期、普通なら大人になって身につけるものをレスターは少年の身でありながら身につけたのだ。
ぶつかり合った剣と棍棒、レスターとオークの力は拮抗している。レスターは〈身体強化〉を身に付けたとはいえ、まだ、オークを圧倒する程の強化はできない。拮抗を破ったのはレスターの技だった。ぶつかり合う力と力を受け流すとオークの棍棒は空振った。その隙を逃さず、レスターはオークへと跳躍し、オークの首目掛けて剣を力いっぱい振るう。レスターの振るった剣はオークの首を切断するには至らなかったが、深く斬り裂かれた傷は間違いなく致命傷だ。
オークは首から血を吹き出し、数歩歩いた後倒れ動かなくなった。
「ウォーー!!」
レスターの勝利の雄叫びが森に響いた。




