稽古
「失礼します」
執事に連れられアルフリード達のいるジュラス伯爵邸応接室に1人の少年が入ってきた。短く刈りそろえられた茶髪に黒い瞳はギラギラと輝いている。
「座りなさい」
「はい」
ジュラス伯爵の言葉に従いレスターはジュラス伯爵の隣に腰掛けた。
「こちらが今回稽古をつけて頂く私の息子のレスターです。ほら、自己紹介しなさい」
「はい、ジュラス伯爵家長男、レスター・シェン・ジュラスと申します。よろしくお願いします」
「レスターこちらの方々がお前に稽古をつけてくださる」
「俺がアルフリードだ。よろしくな」
「ソラです」
「サラです」
「「よろしくお願い致します」」
レスターが自己紹介をするとアルフリード達も自己紹介をした。
「アルフリードさん達の冒険者ランクはいくつですか」
レスターがキラキラとした期待の籠った目でアルフリード達に問う。
「冒険者ランク、あーいくつだっけ?」
「ランク2です」
冒険者ランクを覚えていなかったアルフリードに変わってソラが答えた。
「ランク2…」
レスターがボソリと呟いた。その目には先程までの期待の色は無く失望が浮かんでいる。せっかく冒険者に鍛えて貰えるのだレスターは高ランクの冒険者を待ち望んでいた。
がっかりとした様子をアルフリード達の前で隠そうともしないレスターに焦ったジュラス伯爵が急いでフォローをし始める。
「冒険者の強さはランクで決まるもんじゃない、この方々ならお前をしっかりと鍛えてくださるはずだ。くれぐれも失礼の無いように、いいね」
「はい父上」
レスターはまだ納得がいっていない様子で返事をした。一方、ジュラス伯爵はレスターが失礼なことをしでかし、アルフリードの不興を買うのでは無いかと気が気でない様子。
「それでは早速、訓練場に行きましょう。アルフリードさん」
レスターに連れられ応接室を出ていく。向かう先は屋敷裏手の訓練場だ。ジュラス伯爵とは応接室の前で別れた。彼は最後までレスターに失礼の無いようにと言い聞かせていた。
「ここが訓練場です」
レスターの案内でたどり着いた先には広々とした空間が広がっていた。無論王城のものほどでは無いが。
「こちらをお使いください」
訓練場を見渡していると、ジュラス伯爵家のメイドが刃引きされた剣をアルフリードとレスターに差し出す。
「よしっ、まずお前の実力を確かめる模擬戦をするぞ」
「はいっ」
アルフリードに対してレスターが気合の籠った返事をする。
「何処からでもかかってこい」
アルフリードは剣を肩に担いだ状態でレスターに声を掛けた。
「やあっ」
レスターはアルフリードに向かって駆け出すと剣を上段から一気に振り下ろす。レスター渾身の一撃だ。しかし、アルフリードからすると欠伸が出そうな程遅い。アルフリードは一歩下がり余裕を持って躱した。続くレスターの放つ突きを右半身を引き半身になって躱す。その後も続く攻撃を全て躱し、レスターの息が上がった所でアルフリードはレスターを前蹴りで蹴り飛ばした。
「ぐぅぇ」
蹴り飛ばされたレスターは苦悶の声を上げた。
「まだやるか?」
「まだまだっ!」
レスターは痛みを堪えすぐに立ち上がる。そして、もう一度アルフリードに斬りかかる。
「はあっ」「やあっ」
レスターは何度も攻撃を仕掛けるが、そのことごとくが躱される。アルフリードに構えをとらせる事すらできない。何度も蹴り飛ばされたレスターはついに起き上がることができなくなった。
「ここまでだな」
アルフリードは淡々とした様子で呟く。
レスターは恥ずかしかった、冒険者ランク2と聞いた時侮ったこと、そして、侮ってしまった相手に何もできない無力な自分が。しばらく休憩を挟みレスターが動けるようになった頃、アルフリードはレスターの評価を伝える。
「お前の実力は大体わかった。体力無し、技術無し、雑魚だな、ただ根性はある、根性のある雑魚って所だ」
「雑魚ですか」
レスターは今までジュラス伯爵家の兵士と鍛えてきた。だが、雑魚と言われても不思議と悔しくなかった。それだけの差を見せつけられたのだ。むしろ根性があると言われたことが嬉しい。
「今日はここまでだな本格的な鍛錬は明日からだ。しっかり体を休めとけ」
「はいっありがとうございました」
レスターはアルフリードとの稽古初日を終えた。




