金色のアイラブユー
大切な幼なじみが一人、いなくなった。
でもたしかな予感がある。
必ず取り戻せる、って。
わたしが告白に失敗して、このループから脱出できれば、きっと赤井も帰ってくる。
「それより白鳥サン……外からの視線が熱いです~」
片方のほっぺを手でかくすようにして、ミユキはわたしのそでを引いた。
廊下の人だかり。
一人の例外もなく、わたしたちのほうを見ていた。
「大丈夫。あのたくさんのギャラリーも、今日までだから」
「へっ?」
あんなふうになってるのはループするたびに男子の好感度が上がるっていうルールのせい。
ループはもう終わる。
だから気にしなくていい。
すべてが終わったら、彼らもわたしに強い興味を持っていたことは、きれいさっぱりと忘れるだろう。たぶん。
(うん。いい風)
窓に顔を向ける。
天気は晴れ。
サーッとすずしく吹いて、わたしの髪がゆれた。
「こっ、これは! きゃ、きゃわわ――最高にきゃわわなのです……」
「きゃわわ?」
「小首をかしげたその表情もっ!」
ミユキはなんだか楽しそうだ。
きゃわわ、ってよくわからないけど、彼女がよろこんでくれるのならいいか。
本当に、いろいろ助けられた。
これから告白しようと思っている〈彼〉のデータを教えてくれたり、幼なじみの女の子の偵察につきあってくれたり。
でもやっぱり一番大きいのは、わたしとお友だちになってくれたこと。
親友のトモコに嫌われているこの世界で、それでも心が折れずにがんばれたのはミユキのおかげ。
「……今までありがとう。これからも、仲良くしてね」
お願い。
これからも――未来の、高校生になった〈わたし〉とも、ね。
「ふぇっ⁉」
ループが終われば、彼女の記憶もなくなると思う。
わたしたちが〈お友だち〉だったこともきっと……
ハグ。
わたしは、彼女の体をぎゅーっとした。
友情の押しつけっぽいけど、どうしても忘れてほしくなくて。
「ああ……私、天国へいって、どうぞ……」
「ミユキ?」
ピンク色に上気した顔。
わるいことしたかな、とすぐに彼女から体をはなす。
まさかのまさかだけど、ループで好感度がアップするのって、男の子だけだよね?
◆
放課後。
決戦のときはきた。
「これは……どーいうことだよ、ブス!」
「ほんとよ。ちゃんと説明しなさいよ、ストーカー!」
ひどい言われようだ。
ふつうの女の子なら、泣き出しているかもしれない。
わたしは二人を学校の近くの公園に呼び出していた。
手紙っていうアナログなやりかたで。
ボブカットのスポーツ女子、サンちゃんのほうは、
「 金月くんのことで話があるの 」
というシンプルな文面にした。
彼女なら、それで来てくれると思ったから。
むずかしかったのは金月くんのほうで、こっちは正攻法じゃダメだと予想した。
あれこれ頭をひねったが、結局、もーどうにでもなれ、と、
「 生意気だからボコってやんよ! 」
そんな手紙を送りつけた。
我ながらヤバい女子だと思う。
まあ……来てくれたわけだから結果オーライかな。
「じゃあ、今から理由を説明します」
空はくもっていて、ときどき強く吹く風が肌寒い。
サンちゃんは上はジャージだけど下はハーフパンツでちょっと寒そうだ。
はやく、すませちゃおう。
「あなたたちは、とてもお似合いだと思うの」
あ? と片方の目を細める彼を無視してわたしはつづける。
「っていうか、あなたたち二人は、つきあうべきだから!」
「な、なに言ってんの」
サンちゃんがとまどいの色を見せる。
わたしはそのスキを見逃さず、
「彼のことが好きなんでしょ?」
と言った。
二秒か三秒の沈黙があったが、
「それは、まあ……」
うつむき気味の彼女の口からそんなセリフが出た。
ほらほら、すごくいい感じ。
あとは、彼がこの気持ちにこたえてあげるだけ。
「くだらねえ」金髪にさっと手櫛をいれる。「おめーもこんな茶番にのるんじゃねーって」と、人さし指でサンちゃんをさした。
いやな流れ。
――と、思っていたら、
「たしかに好きだよ」
「あぁ?」
「バスケを教えてくれたことは感謝してるし、私、金ちゃんのことを友だち以上だと思ってるし……」
勝手に話がすすんでる。
もはやわたしの出る幕もないぐらいに。
頭の中に、真横にのびるゴールテープが見えた。
ながかったループもやっと終わるのね。
待っててトモコ。かけがえのない親友。
待ってて、あこがれの高校!
「おいおい」
「金ちゃんは」名前の呼び方のイントネーションがかわった。「どうなん? 私のこと、好き?」
「俺は…………ねーよ」
なに?
声が小さすぎて、きこえない。
もう、男の子でしょ。もっと勇気をだして。
「なんて……言うたん?」
「おめーのことを嫌いだったことは、ねーよ!」
すてき。
すこし強がった感じの、男子のツンデレ。
さあ、わたしも勇気をだそう。
「あのっ! あのさ、お邪魔するようだけど、ちょっといい……?」
「ああ?」
ぎろり、と鋭いまなざしを向けてきたが、彼のバックにぞうさんのすべり台があるので迫力も半減。
「えっと……」
自信はある。あとは言葉を出すだけ。
「わたしとおつきあいしてくれませんか」
棒読みで一気に言った。
世界一間のわるい告白じゃないだろうか。
カップル成立寸前のところで、横入りの告白なんて。
びゅっ、と強い風が吹いた。
「松田、おめーはもう行ってくれ」
金月くんが彼女に体を向ける。
次の瞬間――
「カレシによろしくな」
え?
え?
えーーーーーーーっ⁉
「さて、と」
小走りで去っていくサンちゃん。一度もこっちをふりかえらない。
「おい、ブス。今、なんて言った」
「わたしとつきあって、って」
「どんなタイミングで言ってんだよ……まったく……」
にぃ、と片っぽの口角をあげるほほえみ。
「おまえ、なんか……いろいろあぶなっかしくて、ほっとけねー女だよ」
ほっといて! と、わたしは心で悲鳴をあげた。
もう、頭の中にゴールテープは見えない。
「いいぜ。つきあってやるよ」